初めての彼女と寝不足の

「あ、朝見あみさん大丈夫!?」

「お、お父さん氷! 氷なかったっけ!?」


 ドラムを運び終え、玲奈さんたちの元に戻る途中で玲奈さんと星座むすびの悲鳴が聞こえて来た。


「何かあったの!?」

朝見あみって言ってたな、行ってみよう!」


 流星すすみと頷き合って走り出し、駐車場へと急いだ。そして車のあるところまでやってきて、玲奈さんに見守られながら双葉さんと星座むすびに担ぎ込まれる朝見あみを見つけた。


「ちょ、何があったんだ!?」

「頼斗君! それが、朝見あみさんが突然倒れちゃって!」

「頼斗手伝って! 車の中で寝かせるから!」

「わ、分かった!」


 車に走り、扉を開いて椅子を倒し、朝見あみを支えてシートに寝かせる。


「双葉さん、何があったんですか?」

「ううん、それがよく分からなくて……車の中でもちょっと眠たそうには見えたんだけど、降りた途端ふらっとしちゃったみたいで……熱中症の季節でもないんだけどなぁ」

「とにかく氷! お父さん見つかった?」

「お姉ちゃんあったって! ほら、らい兄これ使って!」


 用意してあったらしいクーラーボックスから氷をビニール袋に包み、タオルでくるんで手渡した流星すすみに礼を言い、頬を赤くし少し荒れた息を吐く朝見あみの頭へと当ててやる。


朝見あみ、聞こえるか? 聞こえたら手を握ってくれ」


 朝見あみの右手に手を置きながらそう問うと、俺と手は軽く握られた。


「どうしたんだ? 気持ち悪いのか? 吐き気はあるか? あったら、手を……無いんだな? じゃあ頭痛は? これも無い……腹痛、も無いのか。じゃあ倦怠感は? あるんだな。分かった……熱中症っぽくはないな。一先ず、大丈夫そうだ」

「ほ、ほんと? 良かったぁ……」

「でも本当に大丈夫? 一応、救急車とか呼んだほうがいいんじゃ……」


 星座むすびが胸を撫で下ろし、流星すすみが心配そうに言う。玲奈さんと双葉さんも、心配そうに扉を覗いて来る。


「そうだな。念には念を入れて救急車を――」

「そこまでしなくて、いいから」


 ぎゅっ、と手を握られると同時、すぐそこから声が聞こえた。慌てて見下ろすと、朝見あみは空いているほうの手で氷を支えながら体を起こしていた。


「おい、無理しなくていいんだぞ?」

「本当に、大丈夫よ。ちょっと寝不足で、立ち眩みしただけだから。……はぁ、ごめん、でもちょっと寝かせて」

「お、おう……じゃあ俺、降りてるな。星座むすびのお父さんにエアコン入れてもらうから」

「うん、ありがと」


 どこか不機嫌そうな、と言ってもそれは睡眠不足から来ていそうな表情で言う朝見あみを見ながら車を降り、美空父に頼んで空調を入れてもらう。


朝見あみさん大丈夫そうなの?」

「本人は大丈夫って言ってるけど、少し心配だな。午後までは出番がないし、しばらく休んでてもらおうかと思うけど」

「そうするのがいいね。あ、良かったら私朝見あみさんの様子見ておくよ?」

「そういうことなら私も残るよ?」

「ううん、星座むすび流星すすみちゃんはせっかく来てくれたんだし、双葉さんとお父さんと一緒に学園祭を楽しんでよ。頼斗君も、一緒に行ってきていいよ」

「そう、だね。そうしようかな。何かあったら、いつでも連絡してね」

「分かった。それじゃあ、楽しんできてね」


 玲奈さんは、優しく微笑みながら手を振り、俺たちを見送った。


「玲奈さん一人で大丈夫かな? やっぱり私たちも残ったほうがいいんじゃ……」

「いや、朝見あみはただの寝不足って言ってたぞ。ああいうところで強がるのは、朝見あみっぽい気もするにはするけどな。たぶん、嘘はついてない気がする」

「でも、朝見あみが寝不足なんて珍しいね。結構生活習慣とかちゃんとしてそうなイメージあるけど」

「そうだね。緊張で眠れなかったとか?」

「今更それでねられなくなることも、無いと思うけど、あり得なくはないよな」


 多くの人達の前での演奏だって少なくない数熟しているし、昨日だってステージで主役を演じ、クイズ大会にも出場した。楽しみで寝られなかった、と言われる方が納得できそうなものだが、それで眠れなくなるようなことも……いや、あながち否定はできないか。


「林間学校とか修学旅行とか、結構二日目眠そうにしてたな、朝見あみ

「え、朝姉あさねえってそういうタイプなんだ」

「あー、確かに。昔お泊りとかした時は、朝見あみが一番夜更かししてたかも」

「逆に夜姉よるねえは早く寝ちゃったりね。確かに想像つくなぁ」


 体育館に向かいながら、そんな話をする。


双姉ふたねえは何か聞いてる? 夜更かしした理由とか」

「ううん、聞いてないかな。車に乗ってる間はずっと眠たそうに瞼閉じたり開いたりしてたし。一応聞いてみたりはしたんだけどね、頷くばっかりで」

「相当眠かったのかな。もしかして徹夜?」

「って、お父さんどこ行くの? え、コンビニで冷たい飲み物買って来る? そうだね、お願い。でも、扉明ける時には気を付けてよ」


 星座むすびが美空父を見送るのを横目に見ながら、悩む流星すすみと同じく俺も考えてみる。


 昨晩、何かあったのだろうか。

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