初めての彼女と日記
帰り際に買った日記帳を開き、鞄の中から筆箱を取り出す。
最初の一文目は、今日は学園祭がありました。
いざ日記を書き始めてみると、皆の言ったようにはいかなかった。一文書いては詰り、一文書いては詰り。決して楽ではなかったのだが、それでも何とかノートの半分くらいを埋められた。
「ふぅ、今日はこれくらいにしようかな」
明かりのついた勉強机に座ったまま伸びをする。
少し、眠くなってきた。
日記帳を閉じ、シャーペンを筆箱に仕舞う。
夜ご飯は食べた、明日の支度も終わったし、今日の分の勉強もした。お風呂も入って、後は寝るだけ。私はスマホを取り出して、ファイルの中を覗く。
クイズ大会優勝記念に、頼斗君と一緒に撮って貰った写真だった。
ぎこちなくピースを浮かべる私の隣で、頼斗君はいつも通りに微笑んでいた。
「へへっ」
ステージはいつもあるわけじゃない、特別な物。その上でお菓子の袋を抱えた私が頼斗君と並んで写っている。何だか特別感があって、少し嬉しかった。
私だけの、私と頼斗君だけの思い出。
ちょっとだけ優越感。
書いた日記の内容を、思い出す。
今日、頼斗君に言われた。『俺の好きと言いたい人は、水神玲奈さんただ一人です』。きっぱりと、はっきりとそう言ってくれた。宣言してくれた。約束してくれた。本当に、嬉しかった。その場で飛び跳ねたくなった。
浮かれて、思わず言わなくてもいいことを言ってしまった。でも、会場中の皆から祝福されているような気がして、本当に嬉しかった。
「私だけ、か……へへっ」
緩くなっているほっぺたを、両手で持ち上げてマッサージする。それでも、私の頬は緩まるばかりだった。
私にとっては憧れの、手の届かないような存在。頼斗君は特別でとっても優しい。私には、勿体ない人だって思ったことも、少なからずあった。だけど今は、自身を持って言える。
「頼斗君は、私のことを好きでいてくれている」
普段から物静かで、あんまり感情豊かでなくて。その上、感情の起伏が分かり難くて。喜んでくれていると口では言ってくれても、私は正直不安だった。疑ったこともあった、心配で眠れなかった夜もあった。
それでも、頼斗君は宣言してくれたのだ。あんな大勢の前で、その口で。
ならばもう、私は疑う必要なんてないのだ。大好きな頼斗君が、好きだって言ってくれたんだから。
「だから、良いんだよね。頼斗君に、好きって言っても」
頬杖をついて、目を閉じる。そして問うのだ。頭の中で皆に。
私の一番の不安。そんなものは決まっている。
私はもしかしたら、たくさんの人から頼斗君を奪おうとしているんじゃないか。そんな考えが、頭にへばりついて離れないのだ。
だって仕方ないだろう。皆魅力的な女の子だ。頼斗君と親しい理由があって、私よりずっと前から頼斗君のことを知っていた。もしかしたら、私よりもずっと前から頼斗君のことを好きだったのかもしれない。
それなのに、私、横取りしたみたい。
「良いのかな、私で」
本当にいいのかな。繰り返す。何度も何度も、頭の中で繰り返す。しつこいくらいに、鬱陶しいくらいに。
今また、私の中でせめぎ合っている。
「どう、したら、いい、のかな……」
少しずつ薄くなっていく意識の中で、私は迷子になっているようだった。
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