初めてのファッションショー

 星座むすびに手を引かれて連れられた場所で、着替えを終わらせた朝見あみと玲奈さんが立っていた。


「そっちは早かったね。何してたの?」


 全体的に黒で統一されたコーデは、先程よりも多少薄くなったとはいえボーイッシュスタイルが強めに出ている。

 白のスニーカーとスキニーパンツの間や白Tシャツの裾が覗く黒Tシャツの首元から覗く白い肌や、その細い腕が見えなかったら本当に男の様だ。深く被ったキャップも悪さし、朝見あみだと知らなかったらちょっと可愛い男子だと思ってたかも。


 まあ、朝見あみと意識してみてみれば白と黒のはっきりとしたコントラストは朝見あみが持つ美形の容姿や白い肌を引き立たせ、且つクールに整わせていると思う。


「ちょっとその辺見て回っただけだよ。ていうか、冬物見に来たんじゃないの?」

「いや、まだ先でしょ。今日はまだ温かいうちに着るもの見に来ただけ」

「どうせすぐに新しいの買うんだろうに……」

「文句ある?」

「ないけど」


 深く被ったキャップのつばの下から覗く朝見あみの鋭い視線が痛くて目を逸らせば、今度は少し照れた様子の玲奈さんが視界に入る。

 そしてちょうど視線を彷徨わせていた玲奈さんと目が合い、玲奈さんが口を開いた。


「あ、えっと! ど、どうかな?」

「うん、凄い似合ってる」


 玲奈さんは先程までとは打って変わって子どもっぽいコーデとなっている。

 裾の軽い白ワンピースを軸に、小麦色のカーディガンを羽織っている。余った袖からは竹のブレスレットも見えて、まさに夏の少女のような外観で。


「ただ、目的忘れてない?」

「え? 目的? ……あ」

「あ、じゃないよ、あ、じゃ」


 しばらく考えた後で行きついた結論に玲奈さんは表情を固まらせる。


「目的って何?」

「いや、運動できる服を見に来たんだよ。流石にこれでスポーツは無理だろ」

「そりゃそうね。言ってくれればよかったのに」

「ごめんなさい! 忘れてました!」


 朝見あみに聞かれて事情を説明すれば、玲奈さんは申し訳なさそうに頭を下げる。


「そんなこと気にしなくていいよ! 他の服見てみようよ!」

「は、はい! お願いします!」

「心配だから俺も付きそうよ。とりあえず試着した服は戻してこようか」


 そう言って歩き出すと、朝見あみ星座むすびが足を止めて目を泳がせ始め、玲奈さんが嬉しそうにワンピースの裾を掴みながら言ってくる。


「あ、頼斗君違うよ。これもう買ったんだ!」

「……おい、もう一年は着ないような服を買わせたのはどっちだ」

「「こいつです」」

「よし、二人とも後で玲奈さんに何かを奢って詫びなさい」


 あのワンピースはどう見ても冬に着るような服じゃない。これからますます寒くなるし、今日だって室内でなかったら肌寒くて仕方ないはずだ。それをなぜ今日買わせるのか。運動が出来る服じゃない、とかそういう問題ではない。


「「すいませんでした」」

「だ、大丈夫です! ま、また来年着ますから。可愛いし、嬉しいですから!」

「玲奈さん、ちょっとくらい怒ってもいいんだぞ?」

「う、ううん。一緒に買い物してもらえただけでも嬉しいし。だから、大丈夫」


 笑う玲奈さんの顔に遠慮は見られないし、純粋に同年代の女子との買い物が楽しかった、と言うことでいいのだろうか。服を誰かと買った経験はあまりない様子だったし、素直に楽しんでいても不思議じゃないよな。


「まあ、玲奈さんもこう言ってるけどせめてお前たちは責任もって最後まで付き合えよ」

「と、当然だよ! 玲奈ちゃん、次はあれ着よう!」

「いやいや、玲奈さんにはこういうののほうが似合うって」

「えっ、えっ? あの、ちょっといっぺんにそんな!」


 僅かな抵抗敵わず連れ去られていく玲奈さん。またスポーツとは関係なさそうな服を持ち出した二人を止めようと思ったけど、戸惑う玲奈さんの顔がそれでも笑みを浮かべているのを見て、やめた。

 どうやら本当に困っているわけではないらしい。楽しんでいるのを止めるわけにはいかないし、今日の午後の予定はショッピングに変更かな。


 スマホで朝見あみに一言連絡してから店を出て、手ごろな椅子を見つけて座り込む。女子の買い物は長くなるものだし、せっかく朝見あみたちが玲奈さんと仲良くなるチャンスなのだ。ここは、あの二人に任せることにしようかな。


「あれ、らい兄じゃん。こんなところで一人でどうしたの?」

「ん? ああ、流星すすみか。女子三人組でショッピング楽しんでるから、待機中」

「彼女とられちゃって、可哀そうに」


 クスクス笑いながら近づいて来た流星すすみは自然な流れで俺の隣に腰掛ける。


「服は良かったのか?」

「今日はまだ見るだけでいいかな~。冬物が本格的に並び始めるのはもうちょっと先だし、またその頃になったら買いに来るよ」

「なるほどな」

「その時はお兄ちゃん誘うから」

「またお兄ちゃん呼びか」


 準備してないで呼ばれるとドキッとしてしまうのは日本人男子なら仕方ないことだと思う。


「だって、お兄ちゃんはお兄ちゃんだし。恥ずかしいから二人きりじゃないとか呼ばないけどね」


 なんて言ってくる流星すすみの笑顔が心臓の鼓動を加速させて。

 文句の一つでも言いたくなりながら、楽しそうだからいいかと納得しておく。

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