初めてのファッションショー
「そっちは早かったね。何してたの?」
全体的に黒で統一されたコーデは、先程よりも多少薄くなったとはいえボーイッシュスタイルが強めに出ている。
白のスニーカーとスキニーパンツの間や白Tシャツの裾が覗く黒Tシャツの首元から覗く白い肌や、その細い腕が見えなかったら本当に男の様だ。深く被ったキャップも悪さし、
まあ、
「ちょっとその辺見て回っただけだよ。ていうか、冬物見に来たんじゃないの?」
「いや、まだ先でしょ。今日はまだ温かいうちに着るもの見に来ただけ」
「どうせすぐに新しいの買うんだろうに……」
「文句ある?」
「ないけど」
深く被ったキャップのつばの下から覗く
そしてちょうど視線を彷徨わせていた玲奈さんと目が合い、玲奈さんが口を開いた。
「あ、えっと! ど、どうかな?」
「うん、凄い似合ってる」
玲奈さんは先程までとは打って変わって子どもっぽいコーデとなっている。
裾の軽い白ワンピースを軸に、小麦色のカーディガンを羽織っている。余った袖からは竹のブレスレットも見えて、まさに夏の少女のような外観で。
「ただ、目的忘れてない?」
「え? 目的? ……あ」
「あ、じゃないよ、あ、じゃ」
しばらく考えた後で行きついた結論に玲奈さんは表情を固まらせる。
「目的って何?」
「いや、運動できる服を見に来たんだよ。流石にこれでスポーツは無理だろ」
「そりゃそうね。言ってくれればよかったのに」
「ごめんなさい! 忘れてました!」
「そんなこと気にしなくていいよ! 他の服見てみようよ!」
「は、はい! お願いします!」
「心配だから俺も付きそうよ。とりあえず試着した服は戻してこようか」
そう言って歩き出すと、
「あ、頼斗君違うよ。これもう買ったんだ!」
「……おい、もう一年は着ないような服を買わせたのはどっちだ」
「「こいつです」」
「よし、二人とも後で玲奈さんに何かを奢って詫びなさい」
あのワンピースはどう見ても冬に着るような服じゃない。これからますます寒くなるし、今日だって室内でなかったら肌寒くて仕方ないはずだ。それをなぜ今日買わせるのか。運動が出来る服じゃない、とかそういう問題ではない。
「「すいませんでした」」
「だ、大丈夫です! ま、また来年着ますから。可愛いし、嬉しいですから!」
「玲奈さん、ちょっとくらい怒ってもいいんだぞ?」
「う、ううん。一緒に買い物してもらえただけでも嬉しいし。だから、大丈夫」
笑う玲奈さんの顔に遠慮は見られないし、純粋に同年代の女子との買い物が楽しかった、と言うことでいいのだろうか。服を誰かと買った経験はあまりない様子だったし、素直に楽しんでいても不思議じゃないよな。
「まあ、玲奈さんもこう言ってるけどせめてお前たちは責任もって最後まで付き合えよ」
「と、当然だよ! 玲奈ちゃん、次はあれ着よう!」
「いやいや、玲奈さんにはこういうののほうが似合うって」
「えっ、えっ? あの、ちょっといっぺんにそんな!」
僅かな抵抗敵わず連れ去られていく玲奈さん。またスポーツとは関係なさそうな服を持ち出した二人を止めようと思ったけど、戸惑う玲奈さんの顔がそれでも笑みを浮かべているのを見て、やめた。
どうやら本当に困っているわけではないらしい。楽しんでいるのを止めるわけにはいかないし、今日の午後の予定はショッピングに変更かな。
スマホで
「あれ、らい兄じゃん。こんなところで一人でどうしたの?」
「ん? ああ、
「彼女とられちゃって、可哀そうに」
クスクス笑いながら近づいて来た
「服は良かったのか?」
「今日はまだ見るだけでいいかな~。冬物が本格的に並び始めるのはもうちょっと先だし、またその頃になったら買いに来るよ」
「なるほどな」
「その時はお兄ちゃん誘うから」
「またお兄ちゃん呼びか」
準備してないで呼ばれるとドキッとしてしまうのは日本人男子なら仕方ないことだと思う。
「だって、お兄ちゃんはお兄ちゃんだし。恥ずかしいから二人きりじゃないとか呼ばないけどね」
なんて言ってくる
文句の一つでも言いたくなりながら、楽しそうだからいいかと納得しておく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます