初めての彼友

 ファミレスでの食事を終え、俺たちは当初の予定通り映画館へと向かうことにした。ちなみに、食べさせあいは玲奈さんがショートしそうだったので止めておいた。


「そう言えば、どうして映画にしようと思ったんだ?」

「定番、って言ったら映画って聞いたから」

「まあベタではあるけど」


 隣り合って歩く玲奈さんの機嫌は今のところ好調だ。この前のことは俺が原因とは言え玲奈さんを怒らせてしまったからな。今日はやらかさずに終えたいな。

 なんて思ったことが間違いだったのかもしれない。日常とは恐ろしいもので、起こらないで事こそ起こるものなのだ。


「あれ? 頼斗じゃん! 久しぶり!」

「ほんとだ! やっほーっ!」


 名前を呼ばれた気がして振り向けば、そこにはどこか見覚えのある女子が二人、そこにいた。


星座むすび流星すすみ? 久しぶりだな」


 美空姉妹。姉の星座むすびが小、中学生の頃の付き合いで、あいつとも仲が良かった友人だ。そして流星すすみの方は星座むすびの妹だ。そこそこの付き合いもあって、二人とも顔馴染みだな。

 姉妹揃って夜空みたいに淡く輝く黒髪を持ち、瞳も星々のように輝いている。姉の方はスカウトを受けてモデルやってる美少女姉妹だ。


「え、えっと頼斗君?」

「ん? ああ悪い玲奈さん。この二人は中学の頃の知り合いでな。星座むすび流星すすみ、って言うんだけど」

「か、変わったお名前ですね……」


 まあ、玲奈さんが苦笑いしたくなる気持ちも分かる。俺だって初見じゃ二人の名前が分からなかったからな。


「って言うかその子もしかして、頼斗の新しい彼女さん!?」

「えっ? らいにい彼女出来たの!?」

「お、おう……」


 妹の流星すすみは現在中学二年生。妹君的な存在であるから兄と呼んで慕ってくれていたのを覚えているが、改めて兄などと呼ばれるとむず痒さを感じてしまう。


「ま、まあそう言うことだ。今は、この玲奈さんとデート中だから俺たちは行くよ。また今度話ししようぜ」

「デート!?」


 隣で玲奈さんが驚いている気がするが、気にしない。こいつら、絡みが面倒だからさっさと行きたいのだ。


「ちょ、ちょっと待ってよ! 私たち、連絡先交換してないから」

「ッチ」

「舌打ち!?」

「らい兄酷い!」


 ばれてしまったのなら仕方ない。大人しくちょっと付き合ってやるしかないだろう。


「あ、あー玲奈さん、ごめん。その、ちょっと待っててもらえるか? 後で埋め合わせはするから」

「埋め、合わせ? 何それ? もちろんいいよ、お友達は大事だからね!」

「「「……え?」」」

「ふぇ?」


 俺と星座むすび流星すすみの声が重なった。みんな思わず、と言った感じで玲奈さんの顔を見つめたのだが、玲奈さんは何が何だか分からなそうな様子で気の抜けた声を発した。


「え、ちょっと待って頼斗。彼女って普通こんな感じなの?」

「いや、分からない。俺だって別に交際経験豊富ってわけじゃないんだぞ」

「でもらい兄、デート中に他の女子との会話を許すなんて、夜姉よるねえは絶対あり得なかったよ?」

「私もそう思う」


 俺もそうだ。自分からお願いしておいてなんだが、こうもすんなり了承してくれるとは思っていなかった。あいつだったら一週間スイーツを振る舞い続けてやっと機嫌を直してくれるかどうかだ。

 それが、こうも気持ちのいい清々しいまでの笑顔で認めてくれるなんてこと、あり得るのか?


「えっ、えっ? みんな、どうかした? 私変なこと言った?」

「変、と言うかなんというか」

「私たちの常識からすると違和感と言うか」

「まあ、そんな感じだな」

「えぇ?」


 星座むすび流星すすみ、俺の順で変わっていると告げられた玲奈さんは戸惑いの声を上げるが、俺たちの常識と違っているのだから仕方ない。


「ま、まあ立ち話もあれだし、確か近くにカフェあったよな。ちょっと寄ってかないか?」

「行く行く! ちょうど小腹が空いてたんだ!」

「お姉ちゃん、また太るよ」

「だ、誰が太るよ!」


 街中で四人も集まって騒がしいと他の人に迷惑になりそうだと思っての提案は、美空姉妹にはすんなり了承? を頂いたので、玲奈さんにも確認だ。


「えっと、大丈夫かな? 食べたばっかでお腹空いてないかもだけど、とりあえず飲み物だけでも」

「うん、そうしよっか! 頼斗君おすすめのカフェ、楽しみ!」

「そ、そうか? それならよかった。それじゃあ、行くか」


 そう言うわけで、美空姉妹を連れたってカフェに入店することとなった。

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