第一章 初めての普通の彼女?
初めての休日
玲奈さんからお出かけのお誘いがあってから、俺は自主的に声をかけたり、接触したりするのを避けておくことにした。教室が一緒で、通学路も被る場所がある。俺も彼女も徒歩であるから鉢会うこともあったが、極力違和感のないように距離を開けた。
それについて文句を言われることは一度もなかった。
「気が、重い……待ち合わせはここ、か」
土曜日の午前十一時。
玲奈さんからお誘いがあって出てきた街の駅の前。そこそこの人だかりの中しばらく着てこなかった私服を纏って壁に背を預けて待つ。
「あっ! ら、頼斗君!」
久々に耳にした声に振り向く。
「ん? ああ、玲奈さ、ん!?」
玲奈さんはそこにいた。彼女の浮かべる笑みは、初めて向けられた無邪気なそれと変化は無かった。変わらないそれに安心すると同時に、やはり彼女の考えていることが分からなくなる。
かなり大胆に拒絶された気がしていたのだが、日を改めて会うだけでここまで元通りになれるものなのだろうか。
そんな疑問が湧いては来るが、まあそれはいい。彼女の心の持ちよう、在りようは俺の定められるところでない。彼女がこの交際を続けたいというのなら、俺に断ることなどは出来ないのだ。
けどそれとこれとは話が別だろう。問題は彼女の服装だ。
「あれ? 頼斗君どうかした?」
似合っていないわけじゃないし、上手く着こなしているとは思う。場面によっては最適解になりそうな格好ではあるのだが……。
「これから行くのスポーツ系だったりする?」
「えっ? いや、普通に映画とかどうかなって」
「うん、その前にお買い物行こうか」
「え?」
玲奈さんはジャージで来ていた。
「ど、どうして? 映画の前って、お買い物に行くのが普通なの? そ、それともまた元カノさんとの約束か何か? だ、だから私は元カノさんじゃないから、忘れて欲しいって言うか!」
「そうじゃない、そうじゃないんだとにかく洋服屋さんに行こう。安くていいから。ユニ〇ロとかでいいから」
「え? ちょ、ちょっと背中押さないで!」
流石に女の子がジャージでデートは無いと思う! と言うか、いつか後悔する玲奈さんの顔が目に浮かんだら、こうするしか選択肢は無かった。
「こ、これでいいの?」
「おお! 凄い似合ってるよ! お手軽なお値段とは思えないくらい可愛い!」
「ええっ!? そ、そうかな!? ……じゃ、じゃあ、これを買おう、かな?」
とりあえず俺流に着飾ってみた。とは言っても何も独特なことをしようと言うつもりはない。
秋も目の前に迫っているし、夏がまだ尾を引いているとはいえ日が直接当たりでもしなければ肌寒い時間帯も目立ってきた。今回手を付けたのは冬服で、流行りに乗るでも流行遅れになることもなく。結局流行に乗ることのなかったセカンドブランド的なものにしてみた。
玲奈さんの背丈はあまり大きいわけではない。俺と比べれば頭一つ分ほど小さいだろうか。
そんな身長をカバーするマキシ丈のスカートを軸に、せっかくの白い素肌を引き立たせる袖の足りないゆったり目のトップスと羽織りものをいくつか選んでみた。何度も買い物に来るのも面倒だと思ったので、今後もっと寒くなるのも見越して大きめのニットも選ばせてもらった。
最終的には玲奈さんに試着してもらって決まったが、玲奈さんもファッションセンスがゼロと言うわけではないらしい。少し背伸びをしたようにこそ見えるが、高校生の域を超えることないオシャレさに収まった。
「あ、トップスはインしたほうが良いよ。たぶん、玲奈さんくらいの身長ならそっちの方が綺麗に見える」
「そ、そう? ……これでどう?」
玲奈さんは慣れない手つきで手間取りながらも余っていた裾を仕舞う。スカート、トップス、羽織りもの。それぞれの色合いを割とコントラスト的にしておいたからメリハリが出て、大人っぽさの中に無邪気さも見え隠れするすっきりした着こなしになった、ような気がする。
「うん、似合ってる」
「やった!」
「あとは、そうだな。その靴ってランニング用の靴だよね?」
「靴?」
彼女の足元を見ると、使い古された運動靴が見て取れる。
「そう、かも? 自分で買ったわけじゃないから分からないや」
「そ、そうなんだ……まあ、こっちも新しいスニーカーでも買ってみようよ。きっと、そっちの方が可愛く見えるよ」
運動靴が悪いというわけではないのだが、今の色合いだと今回選んだスカートには合わないよな、なんて考えての発言だったのだが。
玲奈さんは見る見るうちに頬を染め、両手で顔を覆ってしまった。
「も、もう! さ、さっきから可愛い可愛いって、言い過ぎだから! 恥ずかしいじゃん!」
……何だろう、自分である程度コーディネイトしておいて自画自賛みたいになるが、私服姿の玲奈さん、制服とはまた違った良さがあって本当に可愛いな。
足りない袖とか、緩く見える首元とか。所々に覗く白い素肌もやけに主張が激しく見えて俺の頬も少し熱くなる。
後で、ネックレスとかブレスレットみたいなアクセサリーも見に行くか。
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