昼休み
高校生にもなれば、授業のサボり方も板についてくるものだ。塾や他教科の課題であったり、こっそりスマホで動画を見たり。教科書に被せてマンガを読んだり、それこそ寝たり。
正直言ってまともに授業を受けている奴の方が少ないまである教室の中で、一人目立っている人がいた。水神玲奈、俺の彼女だ。
俺の席は窓側の一番後ろ、特等席とも言われる場所なのだが、そこからは良く見える。彼女が、真ん中の一番先頭で必死にノートをとっている姿が。後ろ姿だけでも分かる。玲奈の勉強に対する姿勢は、俺が見てきた誰よりも真剣そのものだ。
人と隣が違う、か。
「ん? ああ、もうこんな時間か。それじゃあ、今日はここまで。号令」
チャイムが鳴り響き、四限の終わりを告げた。やる気のない日直の掛け声に合わせて気をつけ礼を軽く流す。教師が教室を後にするのを待ち望んでいたかのように、教室中がどっと沸きたった。
早速弁当を持って友人の下に駆け寄る者や、購買へと走る運動部、友達を連れ立って教室から出て行く者など、多種多様。各々がやりたいことをしようと活気だつ昼休みに、俺がまずやるべきことは決まっている。
カレカノの常識。
昼休みは何があっても彼女の下に駆けつけること。彼女に用事があっても、俺に用事があっても。最低でも一回、共に時間を過ごせなくても直接謝罪に来ること。それが彼女との約束だった。
約束だった、のだが。
「……いない」
どこを見ても、いなかった。誰かと問われたら、玲奈が。
考えてもみなかった。あいつとの時は俺が行けないことはしばしばあったが、あいつがいないことは無かった。でも当然と言えば当然なのだ。用事があることだってあるし、考えてみれば俺に来いと言ったあいつと違って玲奈は俺が来ることを知らない。待っているわけがないではないか。
なんか、常識が覆ったというか、何を今まで当たり前と思っていたというか。
常識が覆った気がした。
「こりゃ、困った」
探しに行くべきか、そうしないべきか。そうしないとして待っているべきなのだろうか。一緒にご飯を食べようと誘うつもりだったわけだが、玲奈の用事を待って帰ってきたら一緒に食べるべきだろうか。
しかし、もし玲奈が友人とご飯を食べに行くためだったりすると、結局俺がご飯を食べられずに昼休みを過ごし、玲奈が気に病んでしまうかもしれない。
……行ってみていなかった経験が無いから、こういう時どうすればいいか分からない。数分待って来なかったらご飯を食べようか。それとも連絡してみるべきか。今度からは事前に言っておくべき、と言うのは分かるのだが。
「あれ、頼斗君? どうかした?」
考え事をしていると、声をかけられた。最近聞き慣れたような、今朝からずっと頭を巡っていたような、そんな声。要するに、玲奈の声だ。
「ああ、玲奈を探してたんだ」
「私? どうかした?」
玲奈はそう言って小首を傾げる。その手にノートを持っているのを見るに、教師に質問でもしていたのだろうか。
「一緒に昼食、どうかと思ってな」
「ご飯? そ、それは……大丈夫、だけ、ど」
了承、だよな? どうにも歯切れが悪いけど。それともこれは、当たらずとも遠からずのような、政界でも間違いでもない感じだろうか。
「もしかして、誘うために、待っててくれたの?」
「え? あ、ああ、そりゃあ。あ、でも気にしないでいいんだ。俺が勝手にやってたことだし」
気に病ませてしまっただろうか。そう思って先手を打ったわけだが、玲奈の表情はあまり優れない。
どう声をかけていいのかわからず戸惑っていると、玲奈が先に口を開いた。
「あんまり私を優先しなくてもいいんだよ? も、もちろん嬉しいし、嫌ってわけじゃないんだけど……」
玲奈は気不味そうに言いながら、自分の机に歩み寄る。
「その、食べながらにしない?」
「えっ……ああ、そうだな」
それもそうだな。昼休みも有限なのだ。
「ちょっと待っててくれ」
「うん」
弁当を取りに、自分の席に戻る。
戻りながら、考える。彼女はどうして、あんな顔をしていたのだろうか。
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