一緒に登校
夏も終わり、秋の涼しい風が吹く朝は清々しい。
ジメジメとした湿気は無いけどそろそろ肌が乾燥してくる時期だよな。保湿クリームでも買っておこうかな。
そんなことを考えながら待っていると扉を開ける音が聞こえてきた。
「行ってきま~す!」
そんな元気な声が聞こえて待ち人が来たことを確認する。通販サイトを開いていたスマホを閉じてポケットにしまって第一声を発する支度をする。
そして彼女が視界に入って来たと同時に片手を上げて挨拶する。
「おはよう、玲奈」
「おはよおおおおおぉぉぉ!? 頼斗君!?」
「え? ああうん、そうだけど……」
朝っぱらから元気なのはいいことだけどもう少しボリュームを落とさないと近所迷惑になる気がする。大丈夫なのだろうか。
「ど、どどどどうしてここに!?」
「え? 一緒に登校しようと」
「あ、そ、そうなの? って、そうじゃなくて! 私、住所教えたっけ?」
「いや?」
「じゃ、じゃあどうやってここを?」
「そりゃあ――」
カレカノの常識。
彼女の隠し事は意地でも暴くべし。女子とは秘密を多く抱える生き物だ。本意を軽々しく口にすることはないし彼氏に対しての秘密ごとなんて無数にある。それでもそれらを読み解いて彼女のために行動するのが彼氏と言うものだ。
ただ、流石に住所を特定するのは大変だった。彼女のありとあらゆるSNSアカウントを探し出して投稿されている写真や文章から住所に結び付けるには五時間ほどを要した。
と、言うことをそのまま話した。
「なっ、なっ……」
「な?」
話したはいいものの玲奈はどういうわけか驚愕の表情を浮かべて固まってしまった。もしかして住所は本当に知られたくなかったのか? でも一緒に登校すると言うのは流石に常識じゃないのか?
俺はあいつからの熱烈なスピーチによってそうだと思わされていたけどもしかしてそうでもないのだろうか。
しばらく声を詰まらせていた玲奈だったが遂には顔を俯かせてしまった。やはり何かまずかっただろうか。
「ご、ごめん! わ、悪気はなかったんだ! その、えっとだな……」
言い訳がよくないことは知っている。素直に罪を認めて謝罪するのが礼儀と言うものだからだ。ただ、今回に関しては本当に何がいけなかったのかが分からない。認めようにも分からない罪をはっきりさせるためにも怒られてでも理由を聞かなければ。
「ううん、いいよ」
「え?」
そう思っての言葉だったのだが続いた彼女の言葉で一気に絶望させられた。
いいよ。つまりは、そういうことだろう。もういいよ、もう別れようと言うこと。俺だってその言葉が暗喩することくらい察せられる。今朝のこともそうだが今回のことも。
あまりに玲奈のことを考えていなさ過ぎた。彼女を失望させても仕方がないだろう。
「そ、そうか……それじゃあ、俺はこれで」
「え!? ちょ、ちょっと待ってよ!」
「え? だって、いいよって……俺に失望したって意味じゃないのか?」
「ち、違うよ!?」
足早に立ち去ろうと思ったところを玲奈に止めらえてしまった。
「そ、その……驚いたけど、嬉しいし? 住所特定ってのはちょっと、って思ったけどそれだけ私のために頑張ってくれたわけだし……だから、良いよ。謝らなくて。住所、隠してたんじゃなくてそこまで頭が回らなかっただけだから。その、答えられないこともあると思うけど、分からないことがあったらこれからは聞いてくれると嬉しいな」
「……そうか。それならよかった。俺の早とちりだったみたいだな」
今度こそやらかしたかと思っていたけどどうやら事なきを得られそうで良かった。
「そ、それに」
「それに?」
「せっかく私なんかと付き合ってくれる人、簡単に振れないよ」
「そういうもの、なのか?」
「そ、そういうものだよ! たぶん!」
そういうものなのだろうか。分からない。俺はあいつに振られたことは無かったから。何をどう怒らせたら振られるかなんて分からないのだ。
「で、でも、住所をどうやって特定したかは教えてくれない? 他の怖い人とかに知られたら嫌だから」
「それなら大丈夫だぞ」
「え?」
「確かに玲奈のSNSからもヒントを貰ったけど、一番正解に近づいたのはうちの学校の投稿でな。あれは学生か、その親の人にしか見れないから。そう簡単には特定されないはずだ」
「へ~、ちなみに、学校のどんな投稿で分かったの?」
「ああ、それは」
あれに関しては俺も驚きだったが玲奈のSNSの情報と学校の投稿の情報を総合しないと答えは出なかっただろうしセーフなんだろうな。
「ほら、うちの学校で中等部があるだろ? その時の一斉連絡網の家電番号から。もう削除されたやつだし、心配はいらないと思うぞ」
「そんなのから分かるの? インターネットって怖いね」
「そうだな。玲奈も気を付けろよ」
「う、うん、そうする」
まあ、玲奈のSNSアカウントは全部フォロー&通知オンしたし何か怪しい投稿があったら教えてやろう。
カレカノの常識。
彼女に降りかかる危険は何があっても防ぐこと。彼氏として当然のことだからな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます