モーニングコール
そういえば、どうして人は朝自らの意思で目覚められるのだろうか。
考えたこともなかったがこれも不思議なことだ。寝ている間は明確な意識はないはずなのに起きようと思って起きることが大半を占めている気がする。ただ明るくなったからとか温かくなったからだけではないと思うのだ。
それとも、本能的に目覚めているのだろうか。今起きるべきと言う判断を無意識的に行っているのだとしたら何が基準なのだろうか。人によって起床時間は違うわけだし。
そんなことを考えながらベッドから起き上がって時計へと視線を移す。
六時二分前。よし、この半年くらいサボってたけど意識すれば早起きできるものだな。えっと、スマホは……
「あった。えっと、玲奈、玲奈……っと」
先日の放課後俺は彼女から『告白』と言うものをされた。彼女曰く学生の間で恋人同士になるときに考えられる儀式の一つらしい。俺があいつと付き合った時はいつの間にか彼氏にさせられていたから覚えが無かったがそんなものもあるようなのだ。
まあ、重要なのは恋人同士になるまでの過程ではない。なってからの行動だ。あいつの時に培った知識と経験をフルに活用し、出来る限り玲奈に不満を抱かせないようにしなくては。
「あ、これだ」
昨日の内にクラスのグループから友達登録をしていた。昨日の夜はうっかりしていて早速やらかしてしまったし今朝からはしっかりしなくては。
「五、四、三――」
デジタル時計を見ながらカウントダウンする。
「――二、一!」
ジャスト六時、通話ボタンをタップした。
カレカノの常識、モーニングコールと言うものらしい。あいつの時は一日でも欠かせば罰として抱き着きの刑に処されていた。
玲奈の場合はどんな処罰が待っているかは分からいけど欠かすわけにはいかないだろう。そもそも罰があるのはそれは守らなければならないことだからだ。守らないという選択肢がそもそもあり得ないのだ。
『え、えっ? 頼斗君!? ど、どうかしたの?』
二度三度とコール音が鳴り響いた後で寝ぼけ気味な声で玲奈が電話に出た。この感じだと俺の電話で起きたみたいだし、間に合ったかな。
「いや、モーニングコール」
『も、もーにんぐ?』
「そうだ。ん? もしかして何か間違って……」
ま、まさか!
「この時間じゃないほうがよかったか? 前までこの時間だったから六時にしたけど、考えてみれば人によって起床時間は違うよな」
『……』
「ん? 玲奈? どうかしたか?」
いや、待てよ?
「もしかして、モーニングコールって」
『あ、うん、そのね』
やっぱり!
「ASMR的なやつの方が好みだったんだな! あいつはたまにしか注文してこなかったけど、毎日のほうが良い人もいるよな」
『いやいやいやそうじゃないよ!?』
「え?」
違うのか?
『ふ、普通モーニングコールってやるもの、なの? それも毎日? そ、そりゃあやってもらえるなら嬉しいけど……』
「もしかして、迷惑だったか? まあ、自分のペースで起きたほうが健康にはいいし、俺が無理やり起こすのは違うよな」
『め、迷惑なんてことはないけど……っ! わ、私朝弱いし、嬉しいから!』
一時はどうなる事かと思ったが喜んでくれたのならよかった。考えてみればやって欲しいことは人それぞれだよな。カレカノの常識であろうとも好みは人それぞれだしな。
「そうか? それならよかった……改めておはよう、玲奈」
『っ!?』
あれ、何か凄い音がしたけど……大丈夫だろうか?
「何かあったのか!?」
『う、ううん! ちょっとスマホ落としちゃっただけ! ね、寝ぼけてるみたい、あはは……』
「そうか……それならよかった」
『う、うん。それと……お、おはよう、頼斗君』
慌てるような声音で、どこか恥じらいを感じさせる小さな声で挨拶を返される。
「ああ、またあとでな」
『うん! モーニングコール、ありがとね!』
「え……ああ、うん、どういたしまして」
礼を言われるなんて久々だ。あいつにしてた時は一週間を過ぎたあたりから礼を言われないのが当たり前になっていたからな。
『それじゃあね』
「ああ、またな」
区切りをつけて通話を切る。
カレカノの常識。電話を切るときは彼氏が切る。なぜなら、最後の言葉が彼女側だと彼女からしてみれば雑に扱われていると感じてしまい好かれていないと錯覚するからだ。
こんな知識はあいつと付き合わなかったら得られていなかったし、そこは感謝だな。
「さて、遅れないように準備しないとな」
スマホの電源を落としてさっさと支度を開始する。
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