第28話
*
オーウェンと相談し、午後からは彼にボーノを連れ歩いてもらうことにした。
それもこれも、叔父のフェルナンドはオーウェンのウィークポイントをよく知っているからだ。
オーウェンが動物も苦手ということを、フェルナンドも熟知している。
朝食を食べ終わり、首都観光から戻った彼がゲストルームで荷物を片づけ終わるのを確認すると、さっそくルティはボーノを預けた。
「しっかりやってね、ボーノ!」
『ぷぷぷぷーん!』
もちろんだよ、と快諾してくれたボーノは、オーウェンの腕に抱かれることになる。
このあとフェルナンドは、使用人たちに『恋人』たちのことを聞いて調査するはずだ。
そこに偶然を装ってボーノを抱え歩いているオーウェンと遭遇する。ボーノを抱っこしている姿を思う存分彼に見せつけて、生き物は苦手だが愛する恋人の家族なら同じく愛しく接しているというのをアピールする予定だ。
ルティの相棒のボーノを抱えて歩くオーウェンの姿を視界に入れるなり、使用人たちは二度見する羽目になっていた。
しかし、オーウェンはボーノにメロメロだとルティが言いふらしていたため、それもすぐに見慣れることになった。
素晴らしいアピールだったのにもかかわらず、結局オーウェンは屋敷を巡回した際、フェルナンドと遭遇することがなかった。
そうして午後。
「……へぇ」
オーウェンが仕事を執務室でこなしていると、ノックと同時に許可する間もなくフェルナンドが入ってきた。
卓上にいるボーノに気付くなり、彼は奇妙なものを見たような顔でニヤニヤして顎に手を当てた。
「オーウェン、君に子豚をはべらせる趣味があったとはね」
「子豚ではなく、真珠豚のボーノだ」
ルティが口癖のように言っている台詞を、そのままフェルナンドに伝える。それに反応するように、卓上のクッションに姿勢よく鎮座していたボーノはすくっと立ち上がった。
『ぶぶぶぶぶんっ!!』
ボーノは、フェルナンドの「子豚」発言に怒って目を三角にする。怒りを表現するためか、尻尾を真上にピンと伸ばしていた。
「オーウェン、君はたしか動物も苦手だったはずだけど。克服したのかい?」
いつもだったら「質問に答える義理はない」と突っぱねるところだったが、今は監査中のため、下手に喧嘩を売るのもよくないとオーウェンは思い直す。
「『愛しあっている恋人』の家族だ。好きにならないわけがない」
本当の愛とは、相手の好きなものまで愛してこそ。
そんな哲学的な本を読んだのは小さい時だったが、今さらそれを引用するとはオーウェンも思っていなかった。
「……なるほど。たしかに、恋をすると嫌いだったものさえ好きになれる。立派にルティさんに恋しているみたいだね」
「もちろんだ」
「ちなみにルティさんはどこに? 君の仕事を手伝ってくれないのかい?」
「なぜ彼女が、わたしの仕事を手伝う必要がある?」
フェルナンドはうすら笑いを浮かべた。
「彼女は幼馴染の家で帳簿管理をまかされているからね。君がいま頭を悩ませているそれも、手伝ってもらったら早く終わると思ったまでさ。彼女が手伝いに行っていたことを、知らないわけじゃあるまい」
フェルナンドの饒舌っぷりが、オーウェンの神経を逆なでする。
「彼女はわたしの恋人であり客人だ。普段から修道院と仕事の掛け持ちをしているのだから、この機会に羽を伸ばしてもらいたいと思ってなにが悪い」
「そうか。まあ、それもそうだね」
フェルナンドの余裕っぷりにオーウェンは内心イラついた。それに、自分よりもフェルナンドのほうがルティのことを知っているような口ぶりが気に食わない。
「……オーウェン様、失礼してもよろしいですか?」
扉の外から、ルティの声が聞こえてくる。
「おやおや。噂をすれば、なんとやらだね」
ルティは執務室にお茶とプリンを持ってきた。偶然を装っているが、これも作戦の一つだ。
――題して『恋人の手作りなら、決まった物以外も食べるオーウェン』作戦である。
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