激安霊感商法!(12)

 推理はまだまだ続けていく。相手が顔を引き攣らせて何も言えなくなっている今が絶好のチャンス。邪魔される前に相手の気力を奪ってしまおう。


「それだけじゃない。貴方達は思い出の品、記念の品にしてしまうことに決めたんだ。記念品の骨董品は飾るだけ。割ることなんてほとんどありませんし、処分することもない。例え、所有者がその品物を手放したとしても何年も先。その頃には時効になっているか……警察自体が忘れているか……」

「あ……あ……」

「そして、貴方達は喜ばれたことで感謝の味を知ってしまった。だからもう一度、空き巣に手を染めた……僕自身はこう考えています」


 女性はそこまで来ても諦めはしなかった。


「……そこまで言うなら、証拠があるんでしょうね! 証拠!」

「証拠なら血が付いた骨董品があります。その血を確かめれば、貴方が窃盗の犯人だということは」

「それ一つ?」

「何が言いたいんですか?」


 気付けば、女の方から営業用スマイルは消え、ただただおぞましい顔になっていた。この人が本当の幽霊だと言われても、驚きはしない。


「残念だけど、そのものだけど他人から譲り受けたものなのよ。確かに割ってしまって、新しいものに作り上げたけど……別に商法としては間違ってはいないわ。割れちゃ効力が消える訳じゃないし……。私の血が付いて魔力が上がったんじゃないかしら」


 その言い訳に男の方が少し顔を抑えていた。どうやらあまりにも滅茶苦茶な論法は共犯者も予想していなかったらしい。小刻みに震えている。そんな男をギラッと睨む彼女。

 彼女が今、主張しているのは善意の第三者の原理であろう。盗品を盗品だと知らずに貰った場合、罪は受けない。そうでなければ、朝子さんや僕も罪に問われることになる。

 彼女が空き巣をしたという確証があるか、どうか。

 一つでは何も証明にならないのかもしれない。だけれども、だ。


「じゃあ、もう一つ聞いておきたいんですが、これ以上にも貰ったものがあるんですか?」

「何でそんなのに答えないといけない訳!?」


 やはり、ここまでか。僕の一般人としてのスキルだとしたら、相手は答えないだろう。後ろに窃盗事件の刑事がいなければ。


「じゃあ、私には聞かせてくれますかねぇ?」


 後ろの席から颯爽と現れてくれた捜査二課の警部。警察手帳を提示し、にんまりしている。悪徳商法の詐欺事件の疑いがあると話したら、相談に乗ってくれたのだ。

 女性は声を失いそうになりつつも、口から今にも消えそうな音を出しながら首を横に振る。


「あ……あれだけ……それ以外は……」

「売り物に血が付いていたのも……?」

「そ、そうよ……」


 言うとは思った。他の人から大量の商材を発注していると言ったら、確実に怪しまれる。その取引があった証拠なども請求されるが、窃盗してきたものにそんなものがあるはずはない。

 今の発言に対し、僕が外を見るよう告げた。


「では、それでは外をご覧ください」

「えっ……はっ!?」


 混乱するのも無理はない。なんたって自分の商法を使ってきた人達が大勢いたのだから。しおらや警察の力も借りてはいたが、かなりの人数を集めることができた。

 そして、その人達の手元にはお守りや骨董品が握られている。証拠品も持ってきてくれたようで。

 その前にしおらと朝子さんが先導してくれている。

 あの人達が何故ここにいるのか、説明していこう。


「さて、あそこを調べてもらったら全て盗品だってことは判明しました。盗品を加工したものや数日前の空き巣でそのまま盗んだものを売りつけたもの……多くの証拠が残っています」


 女の方はここまで来て、顔に手を当て始める。そして虚空を見つめて、呟き始めた。


「な、何でなの!? 何であんなに人が集まるの……!? そんなに私達が憎いの……?」


 今までの推理なんて方法だ。

 ここからが本番がやってくる。僕が何のために彼等を集めたのか。何のためにあの人達に推理ショーをして、来てもらったのか。

 大きな理由がある。

 今まで見てきた犯人と目の前にいる二人組との違いを明らかにする。


「……逆です。貴方達に助けられたから、あそこにいるんです!」

「意味が分かんないわよ!?」


 刑事の方も「その説明は今からするんだよな」と期待してくれている。彼にもまだ話は伝えていなかった。お楽しみということで。


「貴方達は人の心を救う術を知ってる。何が人の宝物になるのか……どうすれば、人を後押しできるのか……悔しいけど、僕よりも知っている。霊感商法で自分を信じて、救われてた人。大事な人と再会できたような気がした人はいたんです。悩みを聞いてくれる人がいるだけで、心が軽くなる人達もいるんです……その役割を貴方達は果たしていた……本当は貴方達のこと、悪い人だと思えないんです。本当に悪い人達でしたら、空き巣に入った際に止めようとしてきた人を口封じしたりとするはずなんです……でも、貴方達はどちらも傷付ける方法には至らなかった……」


 この説明に二人共、下を向いていた。申し訳なくなってきたのか。外を見ることなどしなかった。


「そして貴方達は今度は助けることに、とりつかれてしまった。何としてでも人を助けようと考えて、新しい骨董品を作るために新たな盗みをしてしまった。今の貴方達は間違った優しさに動いてしまっている。だから、その推理をみんなに教えました……皆さん、貴方達を元の道に戻すためにここにいるんですよ! 罪を償って新しい道を歩んでほしいって思いでここに立っているんです!」


 たぶんだが、その理由でなかったら、この場にいなかった人達もいるであろう。この二人に恩返しがしたいから、との理由でやってきてくれて、今も尚、大切なものを掲げ続けてくれている。

 被害者は犯人の手によって救われた。

 だから、今度は犯人が被害者の手によって救われなければならない。


「だから……皆さんの想いに答えて、罪を認めてくれませんか?」


 女が涙を流し、うつ伏せになる。答えられなくなった今、男の方が重い口を開いた。見た目などで予想はできていたが、どうやら彼が骨董品の加工をしていたらしい。


「……最初は気の迷いだったんだ……山籠もりで作品を作っていたが、なかなか上達せず……逃げ出した俺は金もなく、街中を歩いていた……陶芸家を夢見てずっと動き続けてきた自分にはバイトができるコミュニケーション能力すらなく……面接でも何回落とされてきたか……何度も夢に見て、うなされ続けて……そんな時に出会ったのが、この女だった……」

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