激安霊感商法!(11)

「和久井さんからお話は聞きました。貴方も何か困りごとがあるとのこと、ですよね?」


 またあのファミレスにて。

 その名前が出てきて少しだけ、誰だとなってから思い返す。朝子さんのことだ。

 僕は彼女に相談し、霊感商法の二人を呼び寄せてもらった。むすりとした男性が今日もまた華やかな女性の横に鎮座している。直接目の前にいられると威圧感を受けなくもない。ただ女性はそれを掻き消す程の魅了とトークスキルを持っているように見受けられた。


「あら、肩が凝ってらっしゃる? こういうの初めて?」

「いえ、初めてではないんですけど、ちょっと緊張しちゃって」


 喉が渇きそうになる。しかし、ここで飲み物を口にしたら緊張感が薄れてしまう。今の気持ちは大切にしたい。

 探偵としての覚悟を緊張と一緒に飲み干したくはなかった。


「えっ? 初めてではない? 他にも何処かにご相談した経験がおありということですか? どうやら悪霊はそれで去ってくれなかったようですが」

「あっ、いえ、問題は悪霊じゃありません?」

「ん? ということはまた別の? まぁ、そうだとしても問題はありませんよ。私達は恋愛でも困りごとに対して解決できるアイテムを何でも取り揃えてありますから」


 僕は首を横に振る。男は顔色一つ変えなかったが、女性の方は大袈裟と言う程までに反応する。


「えっ、では、何が……!?」


 困りごと。確かに勝手に恋愛感をぶちこまれ、困惑していることがある。だけれども、目の前にある状況と比べれば全く問題がない。

 僕がどうにかしたいこと。それを二人に伝えてみせた。


「貴方達の犯行ですかね……」


 一瞬だけ女性の呼吸が荒くなった。そして目や口が開いたのも見逃してはいない。だけれども、彼女は何事もなかったかのように対応し始める。


「もしかして霊感商法を疑ってらっしゃる? 詐欺で訴えようだなんて……そ、それにまだ効果が出てないとはハッキリした訳じゃあ……和久井さんがそう言ってたんですか?」


 いや、効果が出る前にあの商品は割った。だから僕には霊感商法に対しては疑う権利はないと思う。

 僕はまた首を横に動かした。そして彼女達の罪状を口にする。


「窃盗。不法侵入」


 今度は男の方も反応した。こちらをギロッと睨み始めたのだ。ただまだ何も言わず、女の方に喋らせる。


「えっ? 窃盗って? 不法侵入って?」


 もう何度も話した推理。ただ、これで最後。緊張しながらも思い切って喋ってしまおう。彼女達がしたことを。


「一か月前と数日前のこの周辺で起きた空き巣。その犯人が貴方達だと考えたんです。そして、貴方達は盗んだ商品をこうやって霊感商法で売り飛ばした。間違いありませんか?」


 女性の顔から汗がたらりと流れ始める。そんな彼女は胸を抑えて、事実無根だと主張する。


「な、何を言ってるんですかっ!? 盗みって……何でわざわざ盗んだ骨董品を霊感商法で売り飛ばさないといけないの!?」

「ですよね。売られている人からしてもかなり安いものが多い……普通ならば、こんなに安く売るなら、普通に働いた方が早いですからね」

「じゃあ、意味がないじゃないの!」


 それは違う。


「いや、ちゃんと目的はありましたよ。貴方達は失敗した犯罪の証拠品を処分したかったんですから」

「処分って!? そんなの古物市で売っちゃえば……!」


 霊感商法でなければいけない理由。

 僕は異世界で見抜いたのだ。


「偽物だったんですよね。盗んだもの」

「えっ!?」

「空き巣として盗んだものが偽物だと知り、骨董品屋で焦ったはずです……折角、空き巣で働いたのに……骨董品が高くも売れない。それでいて、そのまま売ってしまうかどうなるか分かりますよね?」

「そ、そんなの知らないわよ!」

「いいえ、知ってますよ。骨董品などを売る際、それが盗難品かどうか後で分かった場合面倒なことになりますからね……普通は身分証を求められます。買取の場合、金額が判明するまでは身分証を見せなくてもいいってところはありまして……その状況で売ったら、窃盗の証拠品が自分のデータと紐づけられてしまいますからね。すぐに警察の手が自分に及ぶと恐れたんでしょうね。だからと言って偽物の品が警察の手が届かない闇市で売れるとは考えにくいですし……貴方は処分に困ったはずです」


 身分証を偽造して売ることもできただろうが。霊感商法に身を委ねたことから考えるに、身分証を作れる程の技術がなかったのか。身分証を偽造しても査定の名人には見抜かれてしまうかもと恐れたのか。女性のここまで堂々としたビジネススキルから考えると、身分証の偽造ができないようには思えない。後者の可能性が高いであろう。

 この真相は明らかにならずとも推理を進めることはできた。


「で、仕方なしとその辺のゴミ捨て場に放棄することもできたかもしれませんが……ゴミの分別に厳しい人はいますから。ゴミ捨て場を漁られる可能性がある。そうしたら、自分の犯した悪事が露呈する、そんな恐れが貴方達にはあったのでしょう」


 朝子さんがゴミ出しのことについて口にしなければ、僕はこの真実に辿りつけなかったのかもしれない。彼女のおかげで謎が解けたとしみじみ感動しながら続きを口にする。


「だから、貴方達は誰も考えない方法を取った。それは……盗品を貴方達の手で作り替え、霊感商法の商品として売りつけるってことです!」

「そ、そんな……こと」

「そこから考えると霊感商法でとっても安く売りつけなければならなかった理由も納得できます。とんでもない高額で売り払ったとしたら、詐欺で訴えられ、結局警察が自分のところに来るかもしれない。だから安い金額で。安い金額だったら、騙されたと思った人も……まぁ、安物を買ったから仕方がない。これも勉強代だって思って、そこまで貴方達に執着してくることはないですから……」

「じゃ、じゃあ、タダであげてもいいじゃない! 何でわざわざ悪徳商法なんかに!」


 自分で悪徳商法だと言ってしまっている分に関しては隣の男が身を引いてまで驚いていた。

 そこにツッコミを入れるのはなしとして。


「まぁ、朝子……和久井さんに骨董品をタダでプレゼントされたって時は何かあるのかと疑っちゃいましたからね……人はタダってものには弱いんです。なんたって、タダより怖い物はないって言いますからね。タダだと品物を貰った人は盗んできたのか……なんて疑うかもしれませんから」


 


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