激安霊感商法!(10)

 ミステリーのキーアイテムでもある「ルミノール液」だ。血液が付着した場所を教えてくれる優れもの。多少時間が経ったとしても、かなりしつこく残った血の汚れすらにも反応してくれるのだ。


「ルミノール反応が出てくれたってことは分かるよな?」

「何で血が付いてたの……?」

「簡単な話だよ。これを割った時に、それを拾って怪我をしたってところだろうな……」

「わざわざ、それを売り物にするってどんな事情があったんだろ? 一体、あの人達、何したいの?」


 しおらの疑問は最もだ。

 ただ僕にはもう真相が見え掛けてきている。すぐにスマートフォンのネット検索をした。市の空き巣に関する情報だ。


「サイン? 何を?」

「何日か前にも空き巣があったんじゃないかって思ってね。市から注意が……おっと、一か月前にも出てる……」


 情報を調べてみるも、家を留守だと泥棒に気付かせないようにしようとのこと。後は知っている警察に少し情報をいただこうとの考えだ。厳しい刑事ではなく、探偵時代に知り合った警察関係者に、だ。


「ちょっとお聞きしたいんですが、空き巣って一か月の中でどういう家が狙われてるんですか?」


 出てくれた男性は「ん?」と唸りつつ、事情を聞いてきた。


『そんなの知ってどうすんだ?』

「いや。防犯マップみたいなのを作りたいと思ったんですよ」

『……また探偵になってくれると思ってちょっとだけ期待してしまったんだけどなぁ』

「ああ、ごめんなさい。そういうことじゃ……」


 あると言い掛けたが、この後が面倒なために口を閉じておく。


『まぁ、いいや。そこまでたいそうなところではないかな。お金持ちの家じゃないんだけどね。ガラスを割って入ったんだけど、盗んでる途中に主人に見つかって、すぐに逃げたんじゃなかったかな。留守だと思ってたんだろうね。主人に怪我がなくて本当に良かったよ』


 とても素敵な情報が入っていく。話はしおらにも聞こえてみたいで興奮し始める。電話を切った後は顕著で顔を極限まで近づけてきた。


「えっ、まさかあの人達……泥棒だったってこと? えっ? 盗品を何で売る必要があったの? そんなのとっとと捨てるか……高い値段で売っちゃえば良かったのに」

「……売れなかった理由か」


 何度も強調される言葉に対して答えは出ているような気がする。確か朝子さんとも話したことが関係しているはず。

 もう、大抵は見えた。

 後は推理ショーをするだけであるが。本当に戦うべきなのか、怖くなってきた。隣で応援してくれるしおらはいるのだが。

 本当に僕が犯罪を裁くべきなのか。

 犯罪を暴いて何になるのか。


「……大丈夫かな」

「サイン、何もかも分かった目をしてるね」

「でも不安だな……。この推理をしていいものか……」

「何が怖いのか、ハッキリは理解できないけど……不安なんて何とかなるよ。今までもどうにかなってきたでしょ。推理もきっと間違ってないと思うし。そもそも血が付いているものをあげていいのは私だけなんだから! しおらの血だけがサインにあげられるものなの!」

「ええ……でもそうなのかな」


 変なことを途中挟まれてはいたが、その他は言われる通りだ。

 大抵のことは何とかやってきた。しかし、それは僕だけだ。他の人が不幸になっているかなどは分からない。

 霊感商法で救われている人がいるのも事実。もし逮捕されるなんてことになれば。


「サインはたくさんの人を救ってきたじゃん。朝子さんだって救われたんだよ。他の人達だって、私だって救われた。謎を解いたおかげで誇りを守れた人もいたし、安心できた人もいる……」

「でも……でも」

「あのさ、救われたのって被害者や被害者の家族だけだと思ってる?」

「えっ?」


 ハッとした。

 出来る限り人を傷付けず、事件を終わらせる方法を彼女の励ましで思い付くことができた。

 探偵としては非常に無茶なことではあるが。だけれども、やってみるしかない。


「取り敢えず……霊感商法に当たった人、全員に話をしたいと思う! しおら、手伝ってくれる?」


 彼女はいきなり勢いを取り戻した僕に驚いたよう。少しだけ目を見開き、黙っていたが。首をぶんぶんと横に振ってから、再び元気に声を上げた。


「合点承知! ここまで来たら、やってやろうじゃないの! でも、霊感商法の被害者なんてどう出す?」

「ネットとか……」

「それから聞き込み……しおら、ネットの方は頼んだ。僕は聞き込みに行ってくる!」


 彼女は「ああーん! サインと一緒に行きたい」などと言ってくれる。しかし女性に声を掛けるとすぐに睨んでくる彼女と同行は少々難しい。また別の機会に。

 僕が思うにファミレスの中でも声掛けなどをしているのではないか。考えてからファミレスの近くまで移動する。

 一応、ネットで用意した「街で声を掛けられ、何かを買った経験、それを見たことがあるか」というアンケート用紙をコピーし、いたるところに配ってみる。


「すみません! 街の中で声を掛けられた経験がありますか?」

「いや、今あるよ」

「あっ、そういうことじゃなくって、ですね……」


 これなら普通に駅前でキャッチをやっている人として怪しまれずに捜査もできる。霊感商法を受けた人は元々、こういう声掛けに警戒心のない人達ばかり。意外にも応答してくれた人達が情報をくれた。

 後はその人達を見つけたらすぐに推理ショーをする。霊感商法に当たった人に、とあるお願いをしたかったから、だ。

 ただ僕が犯人だと思っている霊感商法に関係しているかどうかも関わらず、推理を語っていく。「何を言ってんだテメー」と訳分からない人に対しても、「うるせーんだよ」と怪しい奴等に胸倉を掴まされても。

 後、警察に怪しいと事情聴取されたとしても。

 心が打ち壊れようともやってみる。探偵っぽくないと思われる。ただ一回の事件でここまで同じ推理ショーをしている探偵というのもなかなか少ないものであろう。

 何度も説明して、警察にも少し協力してもらって。

 しおらから「この人とアポ取ったよ」と教えてもらったら、すぐさまそちらに向かう。そこでまた説得のための推理ショーだ。

 全ての人ではなかったみたいだけれども。推理ショーの後の打ち合わせもしておいた。何が起こるのかは皆のお楽しみ。

 後は犯人二人に推理ショーを聞かせるだけだ。





 


 

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