激安霊感商法!(9)
僕が見つけた少女は涙を堪え、震えている。
「な、何で……」
別に凶悪犯の難題なトリックがある訳でもない。簡単に答えていく。
「足跡があるからね。本物の幽霊には足がないから、これは偽物かなとも。まぁ、ある場合も否定はできないんだけど……」
少女が「ひえっ」との声を上げる。自分が今まで幽霊のふりをしていたというのに、隣で「どうもー」と手を振る幽霊に驚くとは滑稽だ。
僕はその後、猫用の扉を指差した。
「ここから入ってきていたから、大人ではないと思ったんだよね。単にそれだけだよ」
まだ怖がっている。本人がメアの方を散々戦慄させていたというのに、だ。見つかるとは夢にも思っていなかったのだろうか。
何故にこのイタズラをやろうと思ったのだろうか。わざわざ自分が幽霊の偽物になってまで。
問いただしたいところではあるが、まずは怒り狂っても仕方がない。彼女を落ち着かせてから、だ。
「何でこんなことをしちゃったのかは分からないけどさ……まぁ、誰も怒ってないから大丈夫」
「ち、違う」
「えっ?」
何を否定したのだろうか。間違いなくメアも僕もユーカリさんも怒りの感情を出してはいなかった。不思議に思っているうちに彼女は頭を抱え出す。
「違う! 違う! 違う! わたしは……わたしがしたいのは……言いたいのは……そういうことじゃなくって!」
皆が口を閉じる程の勢いで喚き出す。幽霊よりも何よりも目の前で喚きだした彼女が悪魔にとりつかれたようで怖かった。
何にそこまで恐れているのか。
何が彼女をそこまで駆り立てているのか。ただのイタズラのはずだ。勝手に家に入ってきたことは咎められることだけれども、何かを壊したり盗んだりした訳ではない。すぐに謝れば、終わる話だ。
「誰だって間違えることとか、魔が差すことだってあるよ。別に、そんな」
「違うの!? そうじゃないの! でも……でも……!」
「でも? 何?」
「で、で、でも言えない!」
彼女は後ろに下がり、扉の鍵を開けて、ドタバタと走って出て行ってしまった。扉が開くと同時に強烈な雨風が入ってきて、こちらにまで冷たさを感じてしまった。
僕が追い掛けようと外に出るも誰もいない。ずぶぬれになりながら、少女の名前を呼ぼうとするも誰だかわかっていないために口から言葉が出ない。「少女!」と呼んでも誰も返事はしないだろうし、そもそもこの雨の中誰も歩いていない。
偽物の幽霊。その正体の方が幽霊よりも恐ろしいものだった。
しかし、その真実が何か頭に訴えかけた。
偽物。
霊感商法の真実に近づいているのだろうか。いや、しかし霊感商法の商品はだいたいが効果のない正真正銘の偽物だろう。現実だったら本物などないと僕は思う程。
違う。僕はそこに偽物だと分かっている。別のものが偽物ではないかと考えたのだ。
あれが偽物だったとしたら、何が問題か。
プツリと頭の中で何かが切れた。ただそれは脳の神経などではない。悩みでこんがらがっていた糸。一つ切れたことで解けやすくなっていく。
「そういうことかっ! そういうことだったんだっ!」
雨の音も拍手だと思える位に気分が昂っていた。
この真実は明らかにしなければならない。ただの霊感商法ではないのだから。あの人達は間違いなく、悪だ。ただ少々気になる点もあるのだが。
それは置いといて、一旦メアに別れの挨拶をしなければ。彼女の家に戻ろうとしたところで、二人が追い掛けて来た。
「おーい! サインくん、傘位持っていきなよー!」
「見つかってなかったみたいね……ラノベ主人公みたいにはいかないっかぁ……まぁ、普通はそういうもんだよ。がっかりすることないって! しっかし、まさか偽物の幽霊だったとは……自分の方が本物の幽霊って……何だか嬉しいような、悲しいような……って、あれ?」
彼女達ももう気が付いていたみたいだ。
僕が光の中にいることを。転移の合図。もうこの異世界から現実に戻らねばならない。謎を解くために。
その前に聞きたいことが一つ。僕の喉奥でずっと突っかかっていることだ。
「ねぇ、二人に聞きたいんだけど、真実って明かされるべきだと思う? 何も知らない箱の中身ってそのままにしておいた方がみんなのためなのかな?」
メアが一言。
「わたしは違うと思う」
「何で?」
「やっぱ、知った方が安心できたから、かな。本当に今日もありがとね」
ユーカリさんの方は仕様に今、気付いたみたいで。
「もしかしてこれって転移の合図? そういや、さっきもそうだったよね。いきなり光に包まれて……。で、箱の中身だよね。それは……ううむ、明かされてほしいかな」
「何で?」
「だって……」
彼女が答える前に僕の意識は遠のいた。何か、素敵な答えがもらえそうな気がしたのだが。今はくよくよしている場合ではない。やらなければならないことがたくさんあるから。
現実に戻って、ベンチと共に倒れている状態で目が覚めた。ペンキ塗りたての状況から急いで服を引き剥がす。汚れてしまったから一旦、帰って洗おう。
「おかえりー!」
しおらが出迎えてくれた。今は朝子さんはいない。
「朝子さんは?」
「もう帰ったよ? 今はバイト探しに行ってるみたい」
「そっか……じゃあ、安心だな」
「な、何が?」
僕の意味ありげなセリフに少し不気味さを感じていたよう。しおらは一歩引いた。僕は近くにあった朝子さんからのプレゼントを手に取った。金継ぎのしてある骨董品。茶碗。
これに何故、金継をしないといけないのか。ツタの装飾を付けないといけなかったのか。
理由としては一つ。一度割れたから、かもだ。何故割れたものを金継までして売らなければならなかったのか。
その真実は、今に分かる。
「良しっ!」
「えっ、サイン!? 何で!?」
僕は何も考えず。無心で茶碗を地面に振り落とした。当然、大きな音を出して欠けていく茶碗。プレゼントしてくれた朝子さんには悪いが、確かめておきたかった。
何をしてでも、真実に辿り付きたかった。もし僕の予想が違っていても、だ。怪しい可能性は全て振り払わらなければ。
「よし……」
「何を……してるの? 朝子さんのプレゼントじゃ」
僕はただ固まっているしおらの横を通り、リビングからあるスプレーを取り出した。以前、自分で捜査をする時に使っていたとっておきのものだ。少々お高いがお年玉で買ってしまったもの。もう二度と使わないと思っていたのだけれども。
その液体を掛けるとあら不思議。割れた欠片の断面が光り出した。
「出た」
「あっ、これってもしかして!」
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