激安霊感商法!(4)
しおらはすぐに顔を曇らせ、止めに出ようとしていた。
「これ、危険じゃない?」
そんな彼女を咄嗟に捕まえる。すぐその場に座らせたため、床にズボンを付ける形となった。ヒヤヒヤしている自分からしたら、どうでも良いことではあるが。
朝子さんが驚いているように見える。
「あれ?」
「どうかしましたか?」
「いえ、ちょっと声が聞こえたような気がして……何でもなかったみたいです」
「そう……で、こちら……」
どうやって彼女を騙しているのか、聞こうとしたところで彼女が小声で文句を放ってきた。
「えっ、何で止めたの? お金払う前に何とかしなきゃ!」
「いや、でも今はマズい」
「えっ?」
「霊感商法に関しては厄介なんだよ。その場で今、取り押さえたとしたらどうなると思う? 彼女が洗脳されていたとしたら、僕達は除霊を防ごうとしている悪霊だと思われるかも、だ」
「マジ!?」
もっと軽い洗脳だったとしても、だ。朝子さんと喧嘩してしまうことには間違いない。その間にそそくさと二人に逃げられてしまったら。
一度警戒されてしまえば、かなり面倒なことになる。
「だから朝子さんがいないところで取り押さえたいところ……奴等の家とか事務所が分かれば、何とか」
「それまで……我慢しなきゃ……?」
「うん。ってか、元々僕達の目的は朝子さんが変なところにお金を使ってないか確かめたかったんでしょ。で、こういうことがあったとしたら、戻ってくればいいんだから……今はこうして身をひそめるのが一番だと思うな。とにかく、今は顔を見られちゃダメだ」
「うう……」
正義感の強いしおら。本当は僕を助けたいだけではなく、朝子さんを卑劣な犯罪から守りたいとの気持ちもあるだろう。優しい子であることは分かっている。だから今、無理をさせていることも承知だ。
それでも、だ。耐え忍んで、チャンスを見出さなければ。
女が話しているのを聞いていく。その中で事務所の名前などが出れば良いのだが。
「で、ご先祖様のお守りを強くしてもらえるものは如何でしょうか? とっくりやおちょこなどもサービスさせてもらいますよ?」
「ううん、そういったお酒は飲まないので」
「なるほどなるほど。では気になったら、またいつでもご連絡ください。貴方に神のご加護がありますように」
「ありがとうございます」
期待していたが、商談の方はあっさり終わってしまった。女も男も出ていこうとする。朝子さんの方はまだ残っているアイスコーヒーを飲んでいる。支払い伝票を持っていったのは、二人の方。朝子さんにそんな優しさを見せたとしても無駄だ。お前等はそれよりももっと酷いことをやっているのだ。
朝子さんが汗水流し、大変な思いをしてもらったお金を迷信を使って奪った。迷信だって良い迷惑だ。
逃がさないように追い掛けたい。僕としおらはそのまま急いでファミレスを後にする。
「あっ、でも、車だったらどうする?」
「もう考えてある!」
実はその点も考えて、タクシーを表に待たせておいてある。車で逃げられたとしても、どうにかなる。
しかし、相手は自転車や自動車に乗る素振りなど見せない。リュックサックを持って、歩いているのだ。その中で呼ばれたタクシーが放置されているのを見る。呼んだのに使わないのは迷惑行為か。よく居酒屋の予約をしておいてドタキャンする人と同じか。料理を無駄にするような最低な輩と一緒にはなりたくない。
そう思い、乗り込むことにした。
「えっ? サイン、乗るの? 歩いてくよ!」
「いや、まぁ、分かってるけどさ」
タクシーの運転手は「何処に行く?」と重い声で一言。そのまま真っすぐ走っていくようにお願いした。
それから、発進したところで、だ。
「あっ、そこまででいいです!」
「はっ!? はっ!?」
「初乗り料金は七百円でしたっけ? ここ、置いてきます!」
「えっ、歩いた方が良かったんじゃないの!?」
そうだけれども。何か申し訳がなかったから、乗ってしまった。そのまましおらと共に降りて尾行を続行しようとしたのだが。
「……そっか、私とサインで分かれて動けばいいかも……まさかダブルで尾行されてるとは思わないでしょうし……もし、サインが逃げられても私がどうにかできるかも」
「……しおら、お金は?」
「持ってるから、大丈夫」
「もし、僕が逃げられたら連絡する。しおらも捕まえられない、危険だってなったら必ず連絡してよ。相手がただの詐欺師だとは限らないんだから」
しおらにはそう言って、お互い別行動を開始した。一人だと気が軽い。心細いとの感じもあるけれど、自由に動ける。僕ならではの尾行ができた。二人だと変に目立つことも一人ならできる。
ただ問題としてはあの二人にカップル専用の場所に入られた時だ。一人だと目立つ。しおらと一緒であれば、悪目立ちせずには済んだが。過ぎたことをくよくよ考えても仕方がない。この作戦で進めていかなければ。
辺りを観察している間にギョッとした。
「君、何してるの?」
目の前にいるのは警察官だった。随分怪しく見えたらしい。知らない相手だから僕が探偵と言っても聞いてくれるかどうか分からない。
それよりは普通に信用できる人物と明かした方が良い。学生証を提示し、職務質問に協力的な一般人だと説明する。
「僕は高校生です……」
「ああ……ちゃんと学校行ってる?」
引き籠りに見えたのだろうか。肌が白いからそう見えても不思議はないが。
「はい。普通に授業受けてますよ」
「それなら、いい。悪かったな。その辺で立ちションするなら、ちゃんとコンビニで借りて」
「しないですよ……! そんなこと」
こそこそしているから変な勘違いもされてしまったらしい。警官は後はどうでも良いというように「不審者とかには、気を付けろよ。ならないようにもしろよ」と耳をほじりながら、何処かへ立ち去っていった。
そんな中、奴等の姿を見失ったことはない。しっかり横目でどう歩いていくかを見張っていたのである。
この先は先程とはまた別のファミレスだ。つまるところ、奴等は朝子さんとは違ったカモを見つけているらしい。
早くどうにかしなくては。
なんて考えているところで今度はお婆さんらしき人が現れた。女の人が誘導していく。
「中に入りましょ」
腸が煮えくり返る思いだ。また人を騙そうとしている。しかも、探偵の目の前で。これ以上、屈辱的なことはない。そう意気込んだ後、僕は不思議に思った。
何故ここまで探偵としての感情や意思を持ってしまっているのだろう、と。
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