激安霊感商法!(3)

「でも?」


 答えるべき真実は一つ。当たり前のことだ。


「高校生二人でそう簡単に真相に辿り着けたら、警察いらないっしょ」

「そ、そだね……結局、何も分かってないし……ああん、犯人が出てきてくれれば、いいのに!」


 唸る彼女の横。少しだけ気まずい思いもあった。何故なら、僕はもうあの人達のことは気にしない方がいいのではないかと考え始めていたのだから。

 隠していても、きっとバレる。先程異世界でも痛い程実感させられたことだった。だから彼女に真実を話すと共に相談してみることにした。


「でも、結局、事件は解決できたんだよな」

「えっ?」

「言わなかった? 前の事件でも異世界転移がなかったら、僕は殺人トリックなんて見抜けなかったんだよ。自殺が殺人だって僕には分かんなかったよ」

「そ、そうなの?」


 だから、だ。本当にアイツらは僕を異世界転移させ、謎を解かせようとしたのではないか。暴行に関してはそのために必要悪だったのではないか。

 今、僕しか被害者はいない状況だ。困っている人が他にもいる訳でもないし、犯人捜しをしなくても良いのではないか。


「だから……僕は別にあの人達のことは忘れようと思う……あの人達のおかげでまぁ、友達みたいな人もできたし」

「可愛い女の子、なんでしょ」

「いや……」


 目を逸らしてから、次の場所へ移動する。朝子さんを見失わないようにして、移動した。

 歩いたことが彼女を落ち着かせる要因になったのか。今は冷静に判断している。


「まっ、そこはいいよ。ずっと一緒にいる私の方が有利なはずだし、ポッと出の女の子には負けないでしょ」


 ならば、何故に朝子さんの引っ越しを止めようとしたのだろう。何故に異世界の人に嫉妬していたのだろう。それにラブコメではいきなり現れたヒロインに主人公を持ってかれるというのもよくある話なのだが。

 野蛮な考えを持ったが、更に酷い目に遭わされそうなので口にはしない。

 異世界転移の話を続けよう。


「そこはともかく、探してても時間の無駄なんじゃないかって。それよりももっとやるべきことがあるんじゃないかなって思って」

「確かに今の時間をもっと有意義に使いたいって気持ちも分かるかな。もっとデートの時間とかに……って、あれ今も一応、デートなのか……」

「そういうことにしておこうか」


 しかしながら、彼女はスッキリしないらしい。次の電柱の隠れ場所へと動きつつ、頭を両手で掻きむしっている。


「でも、何かもやもやするんだよね」

「そうだね。実際、しおらは戦ったんだよね」

「私はほとんど傷付いてないけど、やっぱサインが……」

「確かに悔しいけど、忘れた方がいいかなって」


 どうしようもないことだ。やられた仕打ちは忘却の彼方へ飛ばして、感謝をさせてもらうしかないのだ。

 納得できなさそうなしおらと朝子さんを見比べつつ、動く。そのうち、朝子さんがファミレスに入っていくのが目に入った。

 朝食を終わらせたサラリーマンらしき人達が出ていくのと同時に彼女は入店する。僕としおらは顔を見比べている。先に推測を口にしたのは、しおらだった。


「ファミレスでバイトし始めたのかな? 結構、近いし働いている場所に来られると嫌だからってことで内緒にしてたのかな?」


 気持ちは分かるかも、だ。知っている人に働いている姿を見られるのは、何だか恥ずかしい。働いている僕でも何となく考えられてしまうのだから、大人も実際そう思っているに違いない。

 しかし、違和感もある。


「バイトなら裏口から入ると思うんだけど」


 何度も出掛けて仕事をしているのならば、裏口の場所位知っているだろうし。そこから入るように言われるはず。そうでないと、お客様に入店する姿を見られてしまうのではないか。バイトの人が表から入店していることを見たことがなかったため、今のように推理した。

 となると、だ。

 考えられるのは二つ。

 一つ目はただ朝ご飯を食べに来ただけとのこと。九時から仕事を始める企業もあるが、バイトや接客業ならば十時から、それ以降から仕事が始まるともおかしくはない。

 二つ目はデスクワークやリモートワーク。企業にいなくても、できる仕事なのであればファミレスでやる人も多く見受けられる。今の時代ならではの働き方だ。

 僕達は彼女の後を追って、入る。店員の人が「二名様ですね」と言おうとしたのを「しーっ」と口の前に人差し指を出して黙らせた。それから「あの人にバレないような席にしてください」とまで要求した。たぶん変な客だと思われているだろう。しかし、探偵をやっていた頃はこんなこと普通にしていた。慣れっこなものである。

 ただ、しおらに関しては違う。


「じゃ、ドリンクバー頼もうか」

「……いや、朝子さんもドリンクバー頼んでるみたいだし……出てったら、バレるから」


 水を取りに行こうとすらしている彼女を引き留める。彼女は相当ショックだった模様。


「ええ!? じゃあ、何も頼めないの?」

「いや、朝子さんがここで仕事してるって分かれば、いいんだよ。それまでの辛抱だから」


 ただ彼女は荷物からパソコンを出そうとはしない。ただただドリンクバーから注いできたアイスコーヒーを少しずつ飲んで、きょろきょろ辺りを見渡すだけ。その度に僕達は頭を引っ込める。隣の席から見ていた男子大学生らしき人がこちらの行動を疑問視するよう。

 彼も人差し指で黙らせておく。

 何をしているのか。誰かと待ち合わせている可能性もあるのではないか、と気が付いた。面接を企業ではなく、ファミレスやカフェなどで行う社外面接をするのか。今の時代、オンライン面接などがあるのだから、何の不思議でもない。言ってくれれば良かったものを、とも思うもすぐに首を横に振った。もし宣言して落ちたら、応援してくれた僕達に恥ずかしくて顔合わせできなくなりそうだ。僕もたぶん、同じになると思う。

 そもそも推理だって同じ。しおらが応援してくれていても、間違えて恥を掻いたら彼女に申し訳なくなってしまう。だから秘密にしよう。

 見なかったことにしよう。


「しおら、帰ろう」

「えっ?」

「心配することないかも。逆にやっぱ僕達がいると邪魔だと思うから。面接の」

「そっか。サインの推理なら、間違いないね。その答えが出たとしたら……ドリンクバー……」


 帰ることを提案されたが、ドリンクバーに未練があるらしい。


「ランチでもしよ。その時に奢ってあげるから」

「やったぁ……おおっと、バレないように帰らないとね」

「うん……」


 こちらが荷物を持って帰り支度を始めていたところだった。朝子さんの元にスタイルの良さそうな茶髪の女と少々スーツを着慣れていなさそうな堅苦しそうな男が現れた。面接官が二人とは。

 愛想の良さそうな女が挨拶する。


「朝子さん、待ちました?」

「いえ、大丈夫ですよ」


 男の方はこくりと会釈する。さて、頑張ってほしいと願ってその場を立ち去ろうとした時だった。

 女が一言。


「お金の方は持ってきましたか?」


 ううんと僕の頭が混乱した。面接に金銭など必要だろうか。


「はい」

「では、以前紹介していたこちらのお茶碗の方の取引をよろしいでしょうかね。これで貴方にとりついている悪霊も消えてくれるでしょう」


 朝子さんが笑顔で対応している。だが、それは面接のために用意された笑顔ではなかった。

 被害者としての笑顔。

 彼女は今、霊感商法の被害者になろうとしているのだ。


 

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