File.2 亡霊悪霊侵略事件
激安霊感商法!(1)
「おーい! おーい! 起きてるー?」
頭が痛い中、目を覚ます。そこにいたのは、紅い髪の少女。現実世界の人間ではないことは一目見れば、パッと分かる。
メアだ。
しかし、どうして彼女が僕の顔を覗いているのか。状況を整理してみたところ、僕は彼女の家のベッドで寝かされていたことに気が付いた。
「家の前で倒れてたんだけど、大丈夫?」
何が起きているのかがサッパリキッパリ分からない。何故、僕が倒れていたのか。何故に僕が異世界転移しているかについても、だ。
今までは事件が起きた場合に異世界転移するパターンが多かった。今は特別、大きな事件に挑んでいる記憶もない。ならば何故と悩んでいる間に彼女を放っていることを思い出した。
「ごめんごめん。取り敢えず、異変はない。何で、頭が……」
「そこは分からないな」
「後、何で異世界転移したのか……」
ようやく冷静になれた今、僕の身の上をしっかりと話すことにした。以前は事件のことが頭に入って、詳しく自己紹介ができていなかった。当然、何故異世界に飛ばされるようになったのかも、だ。
彼女は優しい雰囲気を保ったまま、ベッドに座った僕へ考えたことを教えてくれた。
「事件が無くなっても会えるってことはいいことじゃん! 別に深く考えることじゃないよ」
「そっか!」
そんな笑顔で、彼女は隣の椅子に腰かける。その隣にはおやつが並べられていて、英国のティータイムがいつでも始まりそうな予感がした。
「ほらほら、起きたんならこっちに来てお菓子でも食べよ。まぁ、自分で作った訳じゃないんだけど」
見事な色のマカロンを手に取った。異世界が夢なのであれば、味など感じないのだが。メレンゲのふわふわな感じもクリームの中に包まれた甘さもクリームの中に隠れた甘酸っぱい果肉も機能している。異世界もまた僕の中ではリアルである証拠だ。
酸味の強い紅茶をいただいて、スッキリする。
彼女の方は口や手にクリームを付けている。どうやら、シュークリームを食べるのに失敗したようだ。
「って、変なところ見られちゃったね……あはは」
「可愛いんじゃない?」
「いやぁ……そんなこと言わないで。恥ずかしいなぁ」
そんな時だった。窓から見るに二階であると推測できるこの場所。一階から、カタンと音がした。
「ん?」
「ひっ?」
彼女の肩が大きく揺れていた。
そこまで怖がらなくても良いのでは。外を見ると少々暗雲が立ち込め、風がビュービューと吹いている。きっと一階の壁に飛んできたものが当たったのだろう。
「木箱か」
「な、なんだ……」
随分と安心した様子。そこを見られ、彼女はすぐに他のケーキを手に取って食べ始めた。まるで怖がっているのを悟られたくなかったかのよう。
次にドタンドタンと音がしていた時は彼女が口から紅茶を吹きかけていた。
「これも風かな?」
「風だよね? 風じゃないと。きっとそうだよ。だよね」
風にしては音がおかしい気もするけれども、そういうことにしておこう。これ以上怖がると彼女が何をするか分からない。パニックになって近くにあるケーキ用のナイフがこちらに飛んできても嫌だし。
その後は一旦、音が消えたのか。僕と彼女は優雅なティータイムを過ごすことができていた。
しおらとはスイーツと言うよりはスナック菓子でパジャマパーティー的なものというか、夜遅くまで遊んでいることは多い。最近は朝子さんも時折混ざって来て、煎餅などを持ち寄ってきてくれる。あれはあれで楽しいと記憶を掘り起こしていたところで引っ掛かるものがあった。
僕は何か、朝子さんに予定があったのではないか、と。朝子さんと言えば、最近不規則に出ていってはルンルン気分で帰ってくる。そして何だか少しだけ頼もしくなったようにも感じていた。
ただ、だ。バイトなのかと尋ねたところ、「知り合いと用事が」で済ませられている。それ以上プライバシーに立ち入った話を聞く訳にはいかないし、と思っていたのだが。
その時だ。確か、今日の朝。しおらの言葉が思い起こされた。
『なんか、最近の彼女、おかしくない? 何か機嫌よくなって帰ってくるのはいいけど……物増えてるし。それでいて生活が良くなったかと思えば、夕食はもやしばっかだし』
何でそんな話を知っているのかと聞いたら、しおらの家族と夕食を取っていた日があったらしい。その日に金銭状況をちょびっと聞き出していたのだそう。
『あのさ、バイトじゃないんじゃない? 何かキャバクラみたいなところに入れ込んで、お金を使いこんでるとかってない? もし、そうだとしたら、さ……アパートの管理人としてはこりゃあ、調べなきゃいけないんじゃないかな? もしもそれで家賃が払えなくなってたとしたら、大変だし』
それで、だ。
その後、彼女を尾行しようとしたところになった。で、彼女と僕はまた探偵の真似事をする。相手を密かに見張ろうとしてアパートの廊下でひっそり彼女が隠れているのを待っていた。
で、だ。彼女が出てきたところで急ごうと思ったところ、階段を踏み外したのである。ここまで記憶が明らかになって、全てを思い出した。
「あああああああああっ! そういうことか!?」
「んっ!?」
今度は本格的に彼女の口から紅茶を噴き出させてしまった。今度は僕が悪いとは思う。ぶっかけられているのだが、文句は一言も言えない。彼女は紙ナプキンで僕の顔を拭いてくれる。
「ご、ごめん……」
「いや、今のに関しては驚かせた僕が悪いし……」
その驚いた理由に関して説明しておいた。すると、彼女は食べる手を止めて考えてくれる。面倒な話に巻き込んで悪いとの思いと彼女ならばまた違った考えをしてくれるとの期待の思いを持ってしまった。
「ううん……お仕事が楽しくて、それでいて何か他に貯金を使いたいってのもあるのかもしれないけど……」
自分でもその考えはあったものの、他の人が言うだけでも違った。自分の孤立で頓珍漢な考えかもしれないと自信がなかったのだ。メアが言ってくれただけでその考えは案に加えられるものとなっていく。
「ああ……女性って何が欲しいのかな?」
「自分の好きなもの……かな。いや、自分はお金が貯まるのを見るだけでも嬉しいかなとは思うけど……ぬいぐるみとか……ううん、他に……」
何も思い付かない。その状況でスッと背中に寒気のようなものを感じた、気がした。
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