手錠で繋がる絆(10)
余裕そうに言ってみたが、本当は違う。できれば最初の作戦で全て終わってほしいなぁとは思っていた。
だけれども、やるしかない。
メアが皆の命を預かっているのだから、僕も共に持ち上げなければ。彼女の重荷を少しでも僕が作戦で負担してあげよう。
悩みも全てぶっ壊してしまおうか。
「みんな、地面が水で濡れて辺りは湿地になった! それに加えて、巨人の重さを考えてみてくれっ!」
最初にメアが口にする。
「地盤が弱くなってるかもってこと!?」
「そうだ! そういうこと!」
皆が「そんなのまた失敗するんじゃ!」などと弱気になっているところ、メアはキリッとして皆に告げていく。
「みんな、やってみなきゃ分かんないこともあるよ! やってみようよ! やったら、死ぬかもしれないって作戦じゃないんだしさ!」
メアのおかげだ。統率のおかげでまたやる気になっていく。皆が巨人ではなく、足元に対し攻撃する。手錠を足にハメられた巨人は振り払おうとしても、よろけることが怖いのか、動けない。大きくても、いや、大きいからこそ、転んだ時の痛みはひとしお、なのかもしれない。
更に余力があるのか、メアは次の魔法を使っていく。
「最後に……いっけぇえええええ!」
彼女のバリアが重量となって、空から落ちてくる。巨人が頭突きをして破壊できるも、できなかった欠片が巨人の立っている場所へ一つ、一つ、また一つと刺激を与えていく。
濡れた地面が掘りやすいように。だいぶ弱っている地盤が、ポロリと。
ついに壊れた。
「おっ!」
とんでもない地響きが起きていく。地面に穴が開いた巨人は重力から逃れられない。耐えられなくなって壊れていく様は、突然道路に穴が開いて車などが落ちていく様子と通ずるものがある。
本当に圧巻。
後は巨人が落ちた穴に大量の水や土を入れていけば、完全に終わる。メアや僕ではなく、他の人達に任せることとなるだろう。
何とか、だ。
巨大な影で遮るものがなくなって、こちらに直接光を浴びせることができる太陽の暖かさを知った。座り込んで、その温もりを感じる。
に、しても皮肉な話だ。
巨人が出てくる話の世界を守ろうとしたはずなのに。その中で何故が巨人を倒そうだなんて張り切って。
少しだけあの滅茶苦茶な話も納得できる気もしてしまった。推しの死。メアがいなくなっていたら。彼女と会っていたのは人生の中の千分の一よりも少ない時間だ。それも自分がいる現実世界とは違うもの。もしかしたら、二度と会えない人物のはずなのに。それでも彼女の死などは苦しいものになっていたであろう。
「……ちょっとちょっと! まだ、何か不安なことでもあるの!? 敵倒したんだよね!?」
「あっ、メアか! ごめんごめん! そうだよな!」
「にしても、凄いね」
「そうかな。落ち着けば、分かる話だったかなぁ、と」
「謙遜されるとこっちがどんどん下がっちゃうよ!」
「ああ……まるで……えっ?」
それはつまるところ、と説明しようとして言葉の方が詰まった。
今の闘い。
足元を崩す作戦。
今回のことを想起すれば、あの事件はとんでもない方向へ駆けていくこととなる。
「まさか……まさか……」
「どうしたの?」
「いや、でも……可能だけど……どうして……?」
敵を倒したのに絶望的な表情へと変わった僕をメアはどう思っただろうか。慌てて僕の服を掴んできた。
「お、落ち着いて。大丈夫だよ! 大丈夫……!」
「ご、ごめん。事件の謎が一気に解けて、慌てちゃった……」
「ええ? それって、さっき言ってた事件のこと? 自殺した理由が分かったってこと?」
僕は首を横に振った。
「あの人を自殺に見せかける方法……今、僕達が実践したんだよ」
「えっ? わたし達、何か殺人犯みたいなこと……あっ、いや、あれは人型の魔物だから殺人犯にはならないと思うけど……その事件が本当は殺人で今みたいに地盤を壊したってこと?」
「そういうことになるかな」
ただ分からないことがある。動機の面でどうしても納得がいかない場所もあるし。本当に僕の探したものが真相なのかが分からない。証拠も欲しい。
現実世界でやることが一つ一つ増えていく。
今なら、事件の真相も見抜ける気がしてしまった。
だからなのか分からないが、また体が金色の光に包まれる。今回も異世界転移であったよう。事件の捜査中で探偵が死亡したなんてとんでもない物語はなかったのだ。
「事件を解きに行くんだね」
彼女はもう達観している。名残惜しそうに何だか笑っているようにも見えるが、それを必死で隠そうとしているようにも思える。
笑顔で見送ってくれる彼女には笑顔で。
「また会おうね!」
「うん! ってことは、また事件があった時ってことなのかな、会えるの」
となるとその際、僕は異世界転移をしているとのことになる。事件の度に異世界転移する探偵なんて見たことも聞いたこともないのだが。
会いたいけれども、ショックを受けて異世界転移するのも嫌なのだがなぁ。その上、行きたいなんて考えたら、しおらになんて言われるか分からないのだけれども。
色々考えているうちに、姿が消えていく。
彼女は一言だけ。
「ありがとね」
また異世界が消え、見慣れた幼馴染の顔が映る。
「さ、い、ん! さいん! 大丈夫!?」
目覚めた先は段ボールが散乱して、その中に僕が潰されているという場所だ。しおらは僕が目を開けたのを知るや否や、引っ張り出してくれた。
「大丈夫!? 頭打ってなかった?」
手錠を引っ張って、「病院行く!?」だとか「頭、大丈夫!?」だとか聞いてくる。朝子さんは何度も僕に謝罪を続けている。「あたしの管理が悪かったせいです! ごめんなさいごめんなさい」と。その二人の様子を今はスルーさせてもらった。
今度は逆にしおらを引っ張らせてもらう。
「ごめん! しおら!」
「えっ、何々!?」
自分の行きたいところは二つ。
予想通りのものを発見した。しおらはもう片方の手を口に当てポカンとしている。
「どういうこと!? あれ、何が……どういうこと!? って、おっと……」
「落ちないでよ……これが証拠になるな……どうやら犯人も被害者も予想していなかったことが起きたみたいだ」
「えっ、犯人って、これ、殺人事件なの? で、殺人なら犯人の方は予想してるんじゃないの? マジでどういうことなの? どうしちゃったの!? サイン!?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます