手錠で繋がる絆(9)
メアに追いつかなければ。ただ、それ一心で走っていた。
裏門にいた衛兵の横を全力で通り過ぎていく。衛兵の方がこちらに声を掛けようとしていたが、そんなのは気にしていられない。全力疾走を続け、平原へと向かっていく。
緑が茂るこの地に冒険者らしき人達が大勢集まっている。そして、その奥に僕達の身長を優に超える単眼の巨人が現れた。全身焦げ茶色の男が歩く度、人々は飛んでいく。恐れ慄き、履いていた靴が脱げ去っていくのも気にせず、逃げる人もいた。
後は街を守ろうとする人達だけが残っている。
巨人に関しては、剣を持った人間に拳を向けようとしていた。冗談ではない。あんな巨大な手で殴られたら、とてもではないが人間の形すら保ってはいられない。蚊の気持ちが痛い程分かる。かといって、人間は蚊のようにすばしっこくは動けない。
逃げてほしい。無理だと分かっていても。あの人にも、ここにいる全員に死んでほしくない。探偵としてではない。一人の人間として願いたい。
誰だって、死んでいい人間はいない。
願った瞬間、黄色い光がドーム状になって僕達を包んでいく。巨人の拳はその手で止まっていた。
その中で叫ぶ女の子。
「死なせはしないよ。魔物の思い通りにはならない。人間は死なせない! 人間が今回も勝つから、覚えときなよ!」
魔物に支配されそうな世界の中で生きる少女の想いが籠められていた。それが今の魔法。
間違いなく今叫んだ女の子も魔法を発動させたのも、メアだ。
彼女が戦闘補助のバリアを形成させたのだ。
しかし、意気込んだ彼女が苦い顔をしている。自分の手から放っているバリアの光が奴の力に耐えきれていないのだ。
少女はだからこそ今の時間で皆を助けようとしていた。
「逃げて! 今のうちに逃げて!」
拳の着地地点から逃げていく人々。しかし、メアだけは残っている。巨人もメアに目を付け、潰そうとしている。
彼女一人。
死なせない方法は分かっている。だから、駆け抜けた。逃げていく人達の波を駆け抜け、勇気を振り絞って。
彼女が汗だくで限界であることを顔で表現している。もうだめかと彼女の顔が少しだけ緩んだ時、こちらは彼女を抱え込み、逃げ出していた。
「うりゃあああああああああ!」
「えっ? 何で……何で君がここに!?」
「困ってる人を見逃せないんだよ! 見逃せないから動いてんだよ!」
何とか、だ。僕はバリアが破られ、巨人の拳が落ちてくる地点をギリギリで回避できた。こちらに凄まじい突風やら、地面の欠片などが飛んでくる。背中に勢いよく土が当たっていく。岩の欠片ではなくて良かったと思える位には柔らかかった。
ただ二度目の攻撃に耐えられるかは定かではない。そうであるのに奴はすぐにもう一発を放とうとする。
「ダメぇええええええ!」
メアの方はまたバリアを展開してくれた。今度はドーム型ではなく、一本のトゲの形をしている。
「メア!」
「これなら手も痛いと思うんだけどね!」
そう思うも、巨人の手にバリアが突き刺さって動けなくなる、なんてことはなかった。
ただ気を取られている間に何人かの冒険者が水や火の魔法を撃ったり、足元を突いたり。しかし、痛みが強くなければあまりダメージは通らない。足に火傷の痕などは見られども、全然効いている様子はない。
バリアでできたトゲも痛くあるだろうけど、微弱。
巨人は効いている様子を見せない。
「他の魔物とは違って人間と同じだよね……」
「メカニズムはほとんど人間と同じだよ。目が一つってとこは違うけど、それ以外は!」
「なら……!」
何とかできそうな気がする。
思うけれども、今の状況ではどうにもできない。相手の足払いで簡単に魔法が壊されてしまう。巨大だからこそ起こす風圧だけで全て破壊する。
ならば、相手の動きを止める方法が欲しい。
何かないか、と考える。
そこでふと彼女を抱きかかえ続けていることを知った。目が合って、恥ずかしくなる。きっと彼女はずっと思っていたはずだ。「いつになったら、降ろしてもらえるのかなぁ」と。
このまま僕は何処までも運んでいくつもりだったのだろうか。トイレも風呂も。
呆れた瞬間、ふとあることを思い出した。しおらとの手錠で繋がれた思い出だ。もしかしたら、名案になるかもしれない。
「手錠って、できる? バリアで手錠の形を作って、アイツにハメるってことできない!?」
「えっ?」
「奴が押す力に強くても、拳を引いて壊す力が弱ければ、何とかなるかも。ワニとかで聞いたことがあるんだ。確か、口を閉めて噛む力はとんでもないけど、開ける力はほとんどないって……そういうバリアって作れないかな?」
「アイツの手足に掛けるってことか! あの手より大きいバリア……やれないことはない……かな!?」
試してくれるとのことで彼女を僕から降ろした後に魔法を試してみてくれた。奴の手に二つのわっか。足にもう二つのわっか。奴が転んでも倒れるのを危惧してか、皆一旦引いてくれた。
その状況でカシャカシャと足や手を動かす。凶悪犯が手錠を引きちぎるシーンはあまりにも有名。その可能性もあるから細心の注意を払わなければならない。
それでも願う。
絶対離さないでくれ。
離れなければ。奴が倒れないようにぐっと堪えれば、隙ができる。
その際、僕は調子に乗っていた。
「水!」
「えっ、喉でも乾いたの!?」
「違う! 大量の水魔法で奴の足元を狙ってくれ!」
この声だけでは唖然とする人達だが、僕の意見に賛同してくれたメアがもう一度伝えていく。
「水魔法を使える人! こっちに撃って! サイン! なんか、攻略法でもあるの!?」
「あるんだ! とっておきの奴が!」
奴が転べば、狙いどころだ。
人間と同じ性質なのであれば、息をする場所も同じ。皆で大津波でも作って鼻の中に入れてくれれば、大津波が発生する。口や鼻に入れば、奴は窒息してくれるはずだ。
「いっけぇええええ!」
僕は勝てると過信していたが。
ダメだった。奴は鼻から水を飛ばして、再び立ち上がろうとしている。手錠でかくかくしつつも、まだ平気に動いている。
他の人達も「折角やれると思ったのに!」と。
メアも不安がっていた。
「……ダメだった?」
いや、まだだ。地面がびしょ濡れになっていることに気付き、すぐさま作戦Bを作り上げた。まだ奴の息を止める方法は残っている。
「いいや、想定の範囲内だよ」
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