第2話 電車の中の忘れ物【後編】
目的地の駅名がアナウンスされ、僕と彼女は立ち上がる。
「楽しませてもらったアイスさんは、忘れ物だし…、一応駅員さんに届けてみる?」と、彼女はコンビニ袋を持って改札の駅員窓口へ預けに行った。アイスを渡された駅員さんは、保管いておくための冷凍庫などあるのだろうか。そもそも食品は預かってくれるのだろうか。
忘れ物のアイスから膨れ上がった妄想より、現実的な疑問が次々と浮かぶが、それはまた次の機会の彼女との会話のネタにしよう。
「お待たせ。」
彼女が戻ってきた。
「遅かったね。駅員さんは預かってくれた?」
「ううん。忘れた人がその場にいたから渡してきたよ。拾ってくれて喜んでた。」
「え?アイスの落とし主がいたの?」
「そうそう、若い女性だった。とても急いでいたようだから、なんで隣駅でアイスを買ったか聞きそびれちゃった。残念。」
そう言って彼女は、腕を絡ませて体重をかけてくる。夏を過ぎたのか過ぎていないのか、夜になると服装とも相まって少し肌寒い季節だ。
「寒いね、早く行こう。」
そう言って、歩く。
次の日、僕はトーストを焼きながら携帯でニュースをチェックする。日課だ。
「隣町で殺人が起きたらしいよ。まだ犯人が捕まってないんだって。」
地元ニュースを得意とするSNSが、今日のニュースをダイジェストで発信してくれる。周辺で新規開業したカフェの話題から地元のちょっとした事件まで、地域に特化した情報を様々だ。
「昨日の推理が当たってたかもね。」
芸術的な寝癖を披露しながらトーストを口にする彼女が、寝ぼけているのかボソッと呟く。
「さすがに非現実的だよ。」
あの妄想は、君に付き合っただけさ、という言葉を少し飲み込んで、日常に音を足そうとテレビをつける。
―〇〇県〇〇市のアパートから男性の遺体が発見され…―
―警察は被害者の交際相手を指名手配しており…―
―死亡推定時刻は昨日の…―
「あ、全国ニュースのレベルなんだね。」
「あ、昨日の、アイスを忘れた人だよ。」
彼女曰く、指名手配されている交際相手は、昨日出会ったアイスの人だったようだ。僕たちの今日の予定は、変更する羽目になったのだった。
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