第14話 新入生代表挨拶の暗号(9)
「これが文章だとすると、最後の『=』は読点。
( )は言葉の仕切りだと思うの」
「オレ、深月の挨拶、最初だけは全部覚えてるぞ。括弧で仕切って、暗号と比較してみようか」
常葉が鞄からノートとペンを取り出して、深月の挨拶の最初の一文を書き出した。それをどんどん括弧で括る。
(本日は)(私たちのために)(このような)(素晴らしい)(式を)(挙行していただき)(ありがとうございます)。
「括弧の数は、1、2、3……7。7個。そっちは何個?」
(ー8ー3α+7ー4)(+11ου)(ー2ο+8)(ー3α+9 ί+7+3)(ー7υー1ー3)(α)(+10ο+7+2ε+8ー2υ+5)(ー1ε+8ε+6ο+7+11)(ー2ο+8)(υー7)=
「1、2、3、4……10。10個」
「切り方が違うのかな。文節の切り方って、習ったけどよく分からなかったんだよな。人によって切り方違ったりしてさ」
「これ、日本語で書いてあるとは限らないのかもしれない。この(α)の一文字。これが日本語の(式)に対応しているとしても、あとに続く(を)が (+10ο+7+2ε+8ー2υ+5)である可能性は低いと思う」
「長すぎるもんな」
「それに、人によって仕切り方が変わってしまったら、答えもバラバラになってしまう。暗号なんだもの、誰が解いても同じになるように出来ているはずなのよ。
わたしはこれが、日本語みたいな流れるような言語でなくて、ブロックのように明確に区切れる言語だと思う。たぶん、日本語じゃなくて英語」
つぶやいた私に、常葉が身を乗り出して聞く。
「ちょっと待って。α とか ε ってギリシャ語じゃなかったっけ。日本語じゃないとしても、英語でもなくてギリシャ語で書いてあるってことはないかな?」
「その可能性はあったとしても低いと思うわ。ギリシャ語で書かれた文章なんて、さすがに深月も読めないでしょう。暗号の作成者と解読者が互いに理解できる言語でなければ、暗号が解けたところで、この手紙は役目を果たせない」
「そうか。じゃあ、やっぱり英語が第一候補だね」
「今、常葉が言ったから気付いたけど、ここで使われているギリシャ文字は5つあるわね。α、 ί、 υ、ε、ο 。これって単純に母音の a、i、u、e、o を表しているんじゃないかしら。そう考えると、一番短い(α)は冠詞の a 。一番ギリシャ文字を多く含む 二段目の (+1εαυー8 ίー2υ+5) は、eau を含む9文字の英単語」
今度は私が、常葉のノートに書き込む。
□ eau □ i □ u □
eauを含む単語なんて、あまり多くない。
深月が挨拶で使った言葉に限れば尚更のこと。
「beautiful……」
「beautiful だ! あいつ、『麗しい』って言ってた! オレ、深月の口からそんな綺麗な言葉を聞くと思わなくて、ビックリしたから覚えてる」
「それ、深月が聞いたら怒るわよ? 気持ちはよくわかるけど」
「ねえ、マキちゃん。そしたらさ、この数字の部分はアルファベットにできちゃうね」
+1 = b
ー8 = t
ー2 = f
+5 = l
「これを暗号に当てはめて、どんどん虫食い単語を解いていけばいいのかな!?」
「その手もあるけど、時間がないわ。駅に着くまでに全部解ける気がしない」
「げ。あと4駅で着いちゃうじゃん! マキちゃん、他にいい方法ある!?」
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