第11話 新入生代表挨拶の暗号(6)

 深月が壇上に現れた瞬間から、止むことのない老若男女のため息。


 わたしは祈る。

 どうか深月が、無事に挨拶できますように。


 深月が原稿を広げ、息を吸う。

 会場は水を打ったように静まり返る。


「本日は、私たちのために、このような素晴らしい式を挙行していただき、ありがとうございます。


 麗しい春のこの日、私たちは明菱高校の一員となりました。


 私たちは、新たな友情、新たな学び、新たな成長と変化を楽しみにしています。


 ここで懸命に学び、充実した生活を送ることを、両親とそして先生方に誓います。


 しかしながら、私たちは入学したばかりで、この学校のことは、まだ何も知りません。


 先輩方、ご指導いただけますよう、よろしくお願いいたします。


 特別なこの日を記念して。


 二〇××年度 新入生代表 1年A組 神木深月」


 淀みなく語られた言葉に、大きな拍手が沸き起こり、わたしも手が痛くなるまで拍手した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る