第10話 新入生代表挨拶の暗号(5)
紅白の布で飾られた体育館の壁。壇上には大きなお花。左右に国旗と菱形の校旗が掲げられ、吹奏楽部の華やかな演奏と共に、わたしたち新入生は入場した。拍手とフラッシュの中を歩き、クラス別に並んで着席する。まるい感じの校長先生が、形式通りにお辞儀して、マイクに顔を近づける。
「生徒の皆様、保護者の皆様、本日はご入学、誠におめでとうございます」
「えー我が校は、学生の本分である勉学を尊び、勉学を通して仲間と切磋琢磨し、友情を育みながら、一人一人の個性を生かし、己を見つけ、互いに尊重し合いながら、社会に貢献していけるような人間形成の場を生徒に与え、生徒と向き合い、教員も共に成長を」
この辺までは、みんなちゃんと聴いていたと思う。
でも、そのあとが長かった。
「これを鑑み、本校では、レベルに合わせた教育を実現するため、成績順にクラス編成を行い、それぞれの校舎で、それぞれのレディネスに合わせた内容で、授業を行い、数学など個人差の大きい科目に関しては、定期考査の順位を考慮し」
いつの間にか、内容が祝辞から学校説明会に変わっていることに、校長先生は気付いてないみたい。文が区切れそうな時に、司会の先生がマイクを握るんだけど、接続詞とかで繋ぐから言葉を挟む暇がないの。かわいそう。今もチラチラと腕時計を気にしてる。
気にするといえば、わたしにも一つ、すごく気になっていることがある。入学式のプログラムに記された、新入生代表挨拶。
教室で配られた式次第を見たとき、まさかとは思ったけど、舞台袖に深月の姿を見つけて、やっぱりそうなんだって確信した。
深月が挨拶するなんて、そんな話、聞いてない。
真紀ちゃんと常葉にもスマホで聞いたら、やっぱり聞いてないって返ってきた。
心配で、しばらく様子を見てたけど、式が始まる前からずっと、紙にペンを走らせている。わたしの前の男子が、「あいつ、こんな時にも勉強かよ、すげえな」って言って感心してたけど、深月があんなに必死で書き殴るなんて尋常じゃない。だって深月は、普段、あんなに頑張らなくたって出来るんだもん。
今書いてるのは、絶対、挨拶文だと思う。
『深月、今書いてるみたいだよ、挨拶の原稿』
『今!?』
『((((;゚Д゚))))』
『もう、こうなったら、深月のために祈ろう!』
『深月!(>人<)』
『((((;゚Д゚))))』
『常葉も祈って!』
深月の名前が呼ばれて、わたしたちの代表は、壇上に上がった。
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