新入生代表挨拶の暗号

第6話 新入生代表挨拶の暗号(1)

 深月を指差し、肩で息をするオレに、千夏がそっと囁く。

「常葉、気付いてる? 深月に並ぶってことは、学年首席になるってことだよ?」

 ハッ

「そうだった。あいつの合格者番号、1番じゃねーか!」



   * * *



 常葉と千夏が、昇降口でワーワーやってるのを見届けて、俺は自分のクラスのある北校舎へと向かう。明菱めいりょうの校舎は北と南に分かれていて、A・B・Cが北校舎、D・E・Fが南校舎。おかげで、あいつらとクラスどころか、校舎まで離れちまった。


 でも、しゃーねぇ。今年一年は我慢してやる。

 常葉が俺と並べば、来年は隣のクラスだ。


 いや、待てよ?


 常葉→真紀→千夏→俺 の順に上位を占めれば、常葉と俺、同じクラスじゃね? いっそ、四人で1・4・7・10位にランクインすれば全員同じクラス。だが、そこまでは狙ってできるもんじゃねえな。


 真紀が後ろから駆けてきて、俺と並んで歩く。廊下の窓から吹き込む風がすげーいい。真紀は、風に遊ばれた髪を気にして耳の後ろに掛け直し、涼し気な目で俺を見る。


「深月、いいの? 常葉に首席の座を狙われて」

「別にいいよ。俺は、学内の順位なんてどうだっていい」

「それは、全国レベルで考えないと意味がないって話?」

「いや」

「じゃあ、世界?」

「そういうことじゃない」

「宇宙」

「どんどん話がでかくなっていくな。ちげーよ」

「じゃあ、何?」

「言ったら怒られるから、言わない」

「くだらない理由なのね」

「俺にとっては重要なんだよ。順位なんかよりずっと」

「そう。でも、覚えておいて。深月を超えるのは、常葉よりも私の方が先だから。それまで誰にも抜かれないで」

「へーい」


 ポケットに手を突っ込むと、クシャッと紙の音がした。

 そういえば、こんなもん、家から持ってきたっけ。

 思い出して、中から青い封筒を取り出す。


「なに? それ」

静月しずきから届いた手紙。祝いのメッセージと、一回り小さい封筒が入ってた」

「小さい封筒の中には、更に小さい封筒が入っていたりしなかった?」

「まだ開けてないからわかんないけど、違うと思う。あいつの留学先、アメリカだし」

「開けないの?」

「封筒の表に、『今日、困ったことがあったら開けろ』って書いてあるんだ。まだ困ってないから、まだ開けてない」

「じゃあ、中身は三枚のお札かもしれないわね」

「おふだよりおさつの方がありがたい。単位は万で」

「ドルだったら?」

「ドルか……。使いにくいな」


 俺は、こんな風にくだらない話を、いつまでも四人でしていたい。

 中学まではそうだったし、これからも。


「じゃあ、深月。またあとで」


 真紀はB組のドアを開け、長い髪を背中に払って、教室へ入っていった。

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