第5話 入学式に立てた式(4)

 パンパンパン、と深月みづきが無感動な拍手を送る。


「いいんじゃない?」


 正直がっかりした。


「なんだ、もっと褒められるかと思ってたのに」

「そんなに落ち込むなって。常葉ときわも数列が使えるようになったんだなって、俺、感動した」

「本当か……?」

「ほんとだって。ただ、時間かかったなあって思って。見ろ。俺たち以外もう全員、校舎ん中だぞ?」

 周りを見れば、確かに外にいるのはオレたちだけだ。

「うっそ、オレそんなに時間食ったか!?」

 千夏と真紀がうんうんと頷く。

「じゃあ、深月ならどうやって解くんだよ。上履きに履き替えるまでに教えろ」

「いいよ」

「余裕だな。いいのか? オレ、走るぞ?」

「常葉って50m走6秒2とかじゃなかった?」

「大人げないわね」

「オレはまだ大人じゃない。スリー・ツー・ワン!!」


「102÷3=34 余りなし。

 後ろから3人 100・101・102

 それぞれ    D  ・ E  ・ F

 以上」


「はっや!!」


 オレが放心している間に、深月が下駄箱を開け、パタンと閉じる音がする。

 

「負けた……」

「負けたわね」

「負けちゃったね」

 後から歩いてきた真紀と千夏が残念そうに言う。

 膝に両手をついて屈辱を味わうオレ。

「ドンマイ、常葉」

「あなたの数列もかっこよかったわ」

 通りすがりに、肩をポン、ポン、と叩かれて、オレは悔し涙が出そうになった。

「くっそ、マジで悔しい!!」


 深月はA組のある北校舎へと歩いて行く。

 背を向けて離れていく深月に指をさし、オレは叫んだ。


「神木深月! オレはお前に宣戦布告をする!

 来年までに、ぜってーお前に並ぶからな!!」


 顔半分だけ振り向いて、深月はその時、ちゃんと歯を見せて笑った。


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