第15話 本心は隠れているのか、そもそも本心ではないのか
「車、運転出来たんだね」
「まあね。免許を取ったのは夏だから、まだ慣れてないし、もし雪が積もってたなら運転してなかったさ」
僕は今、れもんと吉野旅館から一番近いショッピングモールに来ている。今はショッピングモールの駐車場にいる。れもんとした約束通り、今日と言う一日は、れもんにあげることにしたのだ。
ここまで約一時間、車で揺られていた。
れもんは旅館にいるときとは異なり、少しおしゃれをしているように感じた。いや、正しくはいつもより大人っぽい恰好をしているような気がした。
駐車場にあるエレベーターの前で待ちながら、僕は今日の予定をれもんに尋ねることにした。
「今日は、ここをどうやって回るつもりなんだ?」
「え~っと。まあなんとなくは決めてるけど、薫さんとしたいなってことが歩いてるなかで思いついたらやるつもり」
「そうか。じゃあ、ほとんどノープランだな」
「うん。まあ、退屈はさせないようにするよ。誘ったの、私だし」
「ふふ。そっか」
れもんは僕の目を一切見ないで言った。
その後、僕たちはエレベーターを使って、ショッピングモールの中に入った。
「ま、荷物増えてから歩くのあれだし、最初は無難にゲーセンでも行こっか」
「うん。いいよ」
れもんがゲームセンターに行くことを提案したので、僕はすぐに返事をした。
僕とれもんは並んで歩き出した。
中学生にしては、女性にしては背の大きいれもんとは、ほとんど目線が同じだ。僕とれもんは肩を並べて歩いている。
「薫さん、ゲーセンとか行かなそうだけど」
「そんなことないよ。言っただろ、インドア派だって、ゲーム好きだって」
「インドアなら、ゲーセンとか行かないもんかなってさ」
「まあ……確かにあんまり行かないけどさ。ゲーセンは好きだよ。家にあればいいなって思う」
「ふふ。そか」
れもんは笑った。
それからショッピングモールの中にあるゲームセンターに入ると、れもんはきょろきょろと周りを見回しだした。ゲームセンターに入ると、騒がしい音が耳に入ってきた。とは言え、ショッピングモールの中にあるためか、ゲームセンターにしてはそこまでうるさくはなかった。
「来たけど……結局UFOキャッチャーとかしたら、荷物増えるしな~」
「あれでもやらないか、あのレースゲーム」
僕はゲームセンターの中にあるレースゲームを指さした。
「やったこと、ある?」
「ないかも。というか、女の子が一人でやるもんじゃないし、あれ」
「確かに」
確かに、基本的には女の子が一人でやるようなものではないような気がする。
レースゲームは、基本的に二席あるため、友達と競ったりして遊ぶことが多い。一人でやるには向いていないかもしれない。
それこそ、この前ここに遊びに来た僕の親友である、若葉ぐらいヘビーなゲーマーじゃないと、一人でやることなんてないだろう。
「でも、やってみたいかも。さっき薫さんが車運転してるの見て、かっこいいなって思ったし」
「そっか。じゃあやろっか」
「うん」
れもんは静かにレースゲームがあるところへ歩き出した。しかし、そのれもんの表情はとても楽しそうに見えた。落ち着いてるけど、僕との外出を楽しんでくれているみたいだった。
れもんは、そもそもゲームをどうやらそんなにしないみたいで、操作をする前のステージ選択とかから手こずっていた。でも、わからないなりに楽しんでいるようで「すごい、こんだけぶつかっても無傷。無敵じゃん」などと、ゲームの世界観にツッコみを入れながら、口角を上げていた。
レースゲームを終えて、僕たちは運転席から立ち上がった。
「さてと……次はどうする?」
僕はれもんに尋ねた。
「どうしよっかな。一人じゃ普段できないこと、したいんだけど……」
れもんは考え出した。僕から提案してもいいかなと思ったけれど、どうやら一生懸命考えているみたいだったので、待つことにした。
「あ、プリクラ撮りたい」
「お、いいね。撮ろうか」
れもんが言うと、僕はまたすぐに返事をした。
そのまま、二人でプリクラがあるところまで移動したが、どうやら少し並んでいるようだった。列には、カップルや女の子たちがいた。
「結構即答だったけど、プリクラとかよく撮るの?」
「よく撮るわけではないけど、卒業式の後とか、ライブとかの前とかに行ったりするね」
「ふ~ん。あんだけインドアって言ってたから、もっと陰キャ寄りだと思ってたけど、違うの?」
「ど、どうなんだろう……わかんない……」
親友の黛とか若葉は、よく自分自身を指して「ぼくたちはさ……陰キャだから……」「そう……家にこもってゲームのランクを上げて……それが楽しいの……」「アニメとかツイッターでかわいい女の子だとか、綺麗なおとこのこを見ているだけで楽しいのさ」とかぼそぼそ言っているが、僕はなんというかインドアではあるんだけど、彼らとはゲームの楽しみ方とか、アニメの楽しみ方が違う気がしている。
「ま、その顔で陰キャって言われても、信じないけど」
「そ、そうか」
「彼女さんとはよく撮る?」
「いいや、あんまり。というか、僕の彼女はゲーセンみたいな場所多分苦手だし。ゲームは好きだけど」
「そっか」
れもんは、少し黙った。
その沈黙は、僕たちが列の先頭になったことにより、すぐに破られることになった。
「ほら、来たよ。順番」
「うん」
そう言うと、僕たちはプリクラ機の中に入った。
「ちなみに、私基本的に何もわからないから」
「ええ……僕も詳しいわけじゃないけど」
「何もわからないわけじゃないでしょ?」
「うん。まあやってみるよ」
「うん。よろしくね薫さん」
僕はなんとなくプリクラ機の画面を操作し始めた。
まあ、本当にやんわりとなんとなく指示に従い、僕とれもんは結局なんともぎこちない感じでプリクラを撮ることになった。何度か撮影をしている時、れもんが口を開いた。
「もうちょいくっつかないと、変じゃない?」
「ああ確かに」
れもんが言ったことは、もっともだと思ったので、僕はれもんに肩から近づいた。れもんも僕に寄ってきた。
「さてさて……」
れもんは画面を見て、僕たちが写った写真を見た。
「ああ……これだね。最後にくっついたやつ。これが一番変じゃない」
「ふふ。そうだね。これが一番変じゃない」
いわゆる、「映え」とかそういうのを気にするほど、プリクラに慣れていないから、変じゃないものを選ぶしかなかった。
れもんも僕も、なんとなく微笑むぐらいのことしかできていなかった。でも、なんかいい感じの写真だ。
「一応、加工できるけど、する?」
僕はれもんに尋ねた。
「う~ん。加工しなくてもいいかも」
「ええ……プリクラの意味……」
「でも、加工しなくても加工してんじゃないのってくらい薫さん綺麗だし」
「そう褒められると困るな……でもまあ、れもんも綺麗だし、お姉さんに見えるしたまには加工しないプリクラもいいな」
僕がそう言うと、れもんは少し瞳孔を開いた。
「そ。褒めてくれて嬉しいな」
「ふふ。どうも」
そう言うと、れもんはプリクラ機の画面の完成のボタンを押した。
「薫さん、はいこれ」
「ああ。ありがとう」
プリクラ機から出て、れもんから全く加工していないプリクラを、僕は受け取った。
「お腹減った!」
れもんは元気よく言った。
「じゃあ、ご飯を食べに行こう!」
「うん」
僕も元気よく返事をすると、れもんは嬉しそうに頷いた。
「適当なファミレスでいい? 私、お小遣い貰ってきてるけど、そんな盛大に使えるわけじゃないから」
「いいや、僕が奢るからさ。いいところにしようよ」
「やだ!」
「……でもれもんはまだ中学生だし、ほら……」
「やだ!」
れもんは、子供っぽく言った。
れもんはどうしても、自分も払いたいらしい。
なんで自分も払いたいのか、まったくわからないけど、れもんがそう言うならそうしたほうがいいだろう。
「わかった。じゃあファミレスにしようか」
「うん」
れもんは、笑いながら頷いた。
ファミレスでの食事は、適当な雑談をしながらだった。
今は食後。飲み物を片手に、れもんと話をしている。
「薫さん、本当に明日帰っちゃうんだよね~」
「うん」
「いつ頃帰るの?」
「朝かな」
「うわ~見送り出来るかな~起きれないかも~」
「起きてくれないと困るな」
「はい、頑張ります」
れもんはそう言いながら、ニコッと笑った。
それからファミレスの窓から見える外を見ながら、れもんは口をまた開いた。
「ありがとう、薫さん」
「え?」
「私を助けてくれて、手を差し伸べてくれてありがとう」
れもんは口角をあげ、少し顔を斜めに傾けながら言った。
「おかげで、前に進めたよ」
「そっか。それはよかった」
僕がしてきたことが、肯定されたような気がして、嬉しかった。
「あと、子供扱いしてくれて嬉しかった。私、あんまり子供みたいに扱われないからさ」
「嫌じゃなかったか? 子ども扱いされるの」
「嫌じゃないよ。なんだか安心できてうれしかったよ」
「そっか」
僕もれもんに微笑んでみた。すると、れもんは少しだけ顔を赤くした後、連続的にそっぽを向いたり、僕を見たりを困ったような表情で繰り返した。その後、れもんはまた何事も無いように話し出した。
「大人ってすごいね。あんなに責任感を持って、私みたいな赤の他人の子供にも、あそこまでしてくれるんてさ。私じゃ、まだまだ大人になれそうにないや」
「あはは。僕も、菜花さんみたいな大人にはまだまだなれないよ」
「そっか、薫さんからしたら、菜花さんはもっと大人だもんね」
「うん」
菜花さんのれもんに対しての態度は、つい憧れてしまうようなものだった。ドラマやアニメで見るような、情熱にあふれた彼女の物言いは、素晴らしいものだと思う。
「私も大人ならな~」
「大人になってしたいことがあるのか?」
僕は独り言のように言ったれもんに対して、尋ねた。
「……」
れもんはまた外を見た。彼女の目はどこか憂いを帯び始めていた。
「もし、薫さんともっと早く出会ってたら……」
れもんは少し間を置いた。
「薫さんと……同い……」
そこまでれもんが言うと、大きな声で店員を呼ぶ声がれもんの口を塞いだ。
「すみませーん! 注文お願いします!」
僕とれもんは、あっけに取られてしまい、つい大きな声で店員を呼んだ人のほうを見てしまった。
僕はそれから、れもんに目線を合わせた。
「ごめん、聞きそびれちゃった。なんだって?」
「……」
れもんは微笑んでいた。
ただ、どこか悲しいさを含んでいるような雰囲気を感じた。
それはまるで、失恋をしたときのような表情だった。
「ごめん。なんでもない。もっと早く会ってたら、もっと私が前に進めたかなって」
「ふふ。そうかもしれないね」
きっと、何かをごまかしている。
でも、ごまかしているからといって、問い詰めるようなことはする気は起きなかった。
なぜなら、れもんから悪意を感じなかったからである。
むしろ、れもんからの全力の善意というものを、れもんの口調や表情からありとあらゆるすべてから感じた。
「あ! デザート食べてない!」
「ああ、そうだね。食べようか、デザート」
「うん!」
そうしてれもんは、キャラメルのかかったパフェを、僕はティラミスを頼んだ。
その後、ショッピングモールの中でれもんの服を僕が選んだり、お土産を買ったりしていると、あっという間に夕方が来た。
僕とれもんは、暗くなる前に旅館に戻り、また明日僕を見送りに来るという約束をしてから、別れた。
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