第13話 最後のおねだり

 十二日目の夜。

 今日は珍しく、まだ菜花さんにもれもんにも会っていない。

 というのも、今日はのんびりとパソコンで動画を見たり、ゲームをしたり、勉強をしたりと、部屋で過ごす日にしたのだ。

 久々にインドアな趣味を心ゆくまで楽しめたので、満足をした。

 そろそろお風呂でも入ろうかなと思い、立ち上がると、部屋のドアがノックされた。

 僕はそのまま立ち上がった流れで、ドアを開けると、ドアの前にはれもんがいた。

「……」

 れもんは黙っていた。

 しかし、表情は明るく、何かを成し遂げたような、満足感のある顔つきをしていた。

 とりあえず、れもんを部屋に入れて、ドアを閉めた。

 部屋の中のドアの前で、僕とれもんは立ち会った。

「なんか、連れ込まれちゃったみたいでドキドキする」

「なんだ? そんなことを言いに来たのか? 悪い子だな」

「えへへ。うそうそ」

 れもんが冗談を言ったので、僕はやれやれと思いながらあしらうと、れもんは軽く笑った。

「報告、しにきた」

 れもんの報告とは恐らく、吉野さんたちにれもん自身の夢や将来についてを話してくることについてだろう。

「そうだよね。どうだったの?」

 僕が聞き返すと、笑顔でれもんは言った。

「泣いてたよ。もちろんいいって言ってさ」

「そうか! よかったな。話して」

「うん」

 れもんは少し赤くなりながら、今度は太陽のように笑った。

「初めておねだりしてくれたって、やっと親らしいことができそうで嬉しいって、引き取った責任を果たせそうでよかったってさ」

「ほんと、僕もれもんにむりやりにでも、手をさし伸ばしてよかったよ」

「えへへ。ありがとう薫さん。救われたよ。本当にね」

 嬉しそうなれもんを見ていると、本当にれもんに手をさし伸ばしてみて、よかったとよかったと思う。

 こんな僕でも、誰かを救うことができるのだと、助けられる側だった僕が人を救えるのだと、僕は叫びたい気分になった。

「一応報告はこれだけ。それだけなんだけど……薫さんにお願いしたいことがあってさ」

「ん? なんだい?」

 れもんは、少しだけ緊張したような面持ちで口を開いた。

「明後日、買い物付き合ってほしい。ちょっと遠くのショッピングモールまで。だから、薫さんの一日……私に頂戴! お願い! おみあげとかも紹介できるから!」

「なんだ、そんなことか。もちろんいいよ」

 あまりにも大事なことを言いそうな雰囲気で言い出したので身構えたけど、なんだただの買い物に付き合ってほしいというだけじゃないか。びっくりした。

「やった! じゃあ、また明後日の朝。細かい時間はまた連絡するから」

「うん。じゃあまた、明後日ね」

「うん。おやすみ薫さん」

 れもんは、微笑を浮かべながら、部屋から出て行った。

 明後日は買い物。その翌日には家に帰ることになる。

 明日は、何をしよう。

 それについては、まだ何も考えていない。

 

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