都市伝説に勝るギャル

Nん

第1話 メリーさん

__20時。眩い光がミラーボール放たれ、ホール中を七色に照らす。派手に着飾った多くの客が男女関係なく踊り、ホールスタッフに運ばれた酒を飲み、適当に駄弁る。そんな何処にでもあるクラブで、一人の女客の携帯が振動した。二つ折りの携帯をスカートのズボンから取り出した彼女は、細長い指で携帯を開いた。

〝非通知〟と画面に表示されたそれに、彼女は動揺することはなかった。ノリ悪く、彼女が携帯の画面に気を取られていることに気付いた金髪の女が、彼女と距離を詰めた。


「ちょっとー!なにぃ?あけみ、もしかしてマミーからぁ?」

「んぁー?違うってのぉ。なんか知らんやつ。つーかもうこんな時間ン?あとちょいで帰んなきゃジャン」

「ウケる」


果たして何がウケるのかは分からないが、あけみと呼ばれた彼女は警戒心など一切なく着信に応答した。彼女は念の為、この非通知が母親でないかどうかを調べることにしたのだ。


「あぃー、こちらあけみぃ」


周囲の騒々しさに負けないよう、あけみは気だるげにしながらも声を張った。必ず聞こえる程の声量で発したはずだったが、何故か電話越しの相手からは応答がない。

なんだ、ただの嫌がらせ電話か。あけみは面倒くさそうに無言で通話を切ろうとした刹那__紙のように薄くて飛ばされそうな女の声が漸く聞こえた。


《…わたし、メリーさん。今、新宿に居るの》


この声の主に対するあけみの第一印象としては、「いや、声ちっさ」である。そして、きちんと自己紹介が出来るあたり、どうやらただの嫌がらせではなさそうだと判断したのだった。

メリー、という名前なのだから恐らく外国人なのだろう。日本語うめぇな。

それがあけみの考えだ。


「へぇーあんたメリーサンって言うの、やばばジャン」

《……》

「え、シカト?ま、いいや。んで、なんだっけ。新宿居んだっけ?」

《………わたし、メリーさん。今、新宿に居るの》

「知ってるっての。あ、もしかしてあんたがなーさんの言ってた後から来る子?」

《………》

「ウチに電話したってことはクラブの場所分かんないっしょ?ちょーどいいや、教えたーげるから早よ来なって」

《………わたし、メリーさん。今、》

「もーーいいって、くどっ」

《わ、わた、わたし…わたし、メリーさん、今、新宿の2丁目に居るの》


すげー自己紹介と居場所の報告してくるジャン。

電話の相手を、あけみはこの程度にしか思っていなかった。


しかし、さりげなくメリーさんがあけみの居るクラブに近付いて来ていることに、あけみは気付いていない。やけに詳細に居場所を伝えてくる変な子としか思っておらず、声質的にクラブへ来そうなタイプでないことも感じていた。


そうしてあけみが通話をしながらミラーボールを呆然と眺めていると、先程の〝ウケる女子〟がジュースを片手にダンスエリアから戻って来た。


「まだ話してんの?」

「なーさんの連れの子。なんか迷子っぽい」

「ウケる。つーかあけみ時間平気そ?」


ウケる女子に言われ、あけみは右手に身に付けていた腕時計を確認する。メリーさんと話している間に時間は刻一刻と過ぎ、20時半に近付いていた。


「やばっ、帰んないと」

「だーよねぇ」

「なーさんの連れの子、代わりに案内しといて」

「りょ」

「てことだからメリーサン、悪いけどコイツの電話番号教えるからよろっ」


あけみは電話越しの声にろくな確認も取らず、淡々とウケる女子の電話番号を明かした。メモを取る様子は聞き取れなかったが、今時の人は大抵がスマホだ。スピーカーをオンにしたり、イヤホンを装着したままでメモ機能をフル活用しているのだろう。

あけみは、細長いシルエットの自分のガラケーを握り直した。


あけみはウケる女子の電話番号を伝えるなり、早急に通話を一方的に切った。勿論、メリーさんにはきちんと別れの挨拶をしてからだったので、あけみにとってもメリーさんにとっても惜しみなく電話を切れるはずだ。

そしてあけみは、ウケる女子とも「ばいちゃ」と軽く手を振りながら別れ、クラブを去った。

だが、ウケる女子は一つ疑問が残っていた。


「なーさんの連れの子って、マミコって名前じゃね?」


メリーサンって誰。

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