6 VS 元・人類最強 


 《神器・フィンヴルヴェトル》を構えたファシル。


 新たなる刀、《フツシミタマ》を構えたナギサ。


 先に動いたのはナギサだ。


 力強く地を蹴り、駆け出すが――しかし、ファシルはその場に立ったままで、先に攻撃を仕掛けることができる。


 ファシルは、細かい狙いをつけずに、鋭い氷柱をばらまく。

 威力や狙いよりも、広範囲であることを取る。

 『面』で逃げ道を封じる目的。


 対して、ナギサはたったの一閃で大量の氷柱を斬り飛ばして、こじ開けた空間に身を滑らせる。


「……当然、それくらいはやってのけるだろうね」

 小さく呟くファシル。


 防がれたのは、構わない。

 狙い通り。

 ――その、一振り分の隙が欲しかった。




 蒼銀の剣を、地面に突き立てるファシル。



「――――《蒼蓮白獄エーリヴァーガル》」


 刹那――――、

 筆で一塗りしたかのようなあっけなさで、世界が塗り変わる。

 

 全てが、凍りついていた。

 大地は分厚い氷で覆われ、木々も、周囲にいた魔物も、一切が動きを停止している。

 

 この美しい純白の世界は、生命の存在を許さない極限だ。


 全てが静止した世界で――――動く二つの影。


 ファシルは白い息を吐きながら、笑う。

 

 ナギサの足下にだけ、大きな斬痕が刻まれ、そこにのみ氷が存在してない。


「でたらめだなぁ……!! 私の白獄を……斬ったのか!?」


「す、すごいです……! 冬になっちゃった!? 神器も……、『冬』を斬れちゃうファシル先輩の作ってくれたこの刀も、ぜんぶぜんぶっ、すごい……!!」


 せわしなく、神器と刀をどちらも褒めるナギサ。

 忙しいことだと思いつつも、ファシルとしては、ある感情が浮かぶ。


 戦いの最中に相手への賞賛を口にできるその余裕。

 

 ――――――その余裕、崩してみたい…………と、思ってしまう。


 再び駆け出すナギサ。

 ナギサの疾走は、氷上にも関わらず平時と遜色がない。


(……足下を覆う魔力を、ゴム上の性質に変化させて滑りにくくしているのだろうな)

 理屈がわかったところで、驚きは減ってはくれなかった。

 魔力コントロールの精度、氷上を駆け抜ける胆力。

 どこを取っても、簡単なことではない。


 だが――――

 

 ――――今、この瞬間においては好都合。


 その絶技が、命取りだ。


 



「――――――《蒼蓮白獄エーリヴァーガル牙刺林アールンヴィズ)》」


 瞬間。

 塗り替えられた世界が、さらに別物に変質する。

 一面に広がる氷上の大地。

 そこから無数の、氷槍が伸びる。


 ――――凍土が、氷槍の森に切り替わる。


 どこに立とうが、回避は不可能。

 先ほどのように、ファシルを中心に氷を広げたのでは、ナギサは容易に対処してしまう。

 だから、今度は。

 回避不可能なタイミングで、

 回避不可能の広範囲で。


 ナギサが氷の大地に、足を踏みだそうとする、その瞬間。


 タイミングは、完璧だった。


 そのはずなのに。


 ――――ナギサは、中空を舞っている。


 ナギサは、氷に貫かれるよりも先に――――、いいやそれよりもさらに早く、ファシルが術式を発動させた時点で、既に空中にいる。


 体を地面と平行に。

 空中で、抜刀。

 ナギサを貫く軌道で伸びるはずだった氷槍は、術式を発動させることすらなく、切り裂かれる。


「…………なん……ッ、だッ……!? ……それは……!?」


 驚愕に、声を荒くするファシル。


 ギルナとの戦い。

 ウィスプを狩る実習。

 いずれもナギサには驚かされてきたが、それらとは次元が違いすぎる。


 ナギサの技能は、基本的な魔力操作を極めたことによる体術と剣技。

 そう思っていた。


 ――――――しかし、今のはなんだ?


 今のは、違う。

 術式が発動する前に、対処のための動作に入っていた。

 足下からの氷による攻撃。

 それくらい読むことはできるだろう。


 しかし、『読み』の候補として、それを計算に入れていても、当てずっぽうで決め打ちするのはリスクが高すぎる。

 

 今のケースでいえば、ファシルがフェイントを仕掛けており、足下からではなく、ナギサに直接氷柱を放っていたのなら、それで詰んでいた。

 空中では回避ができないのだから。

 

(ただのギャンブル……? それとも、未来が見えている……とでもいうのか……?)



 理屈はわからない。


 だが、とにかく事実だけがある。



 ここからは、『ナギサは未来を見ているかのような動きをする』ということも計算に入れて戦うしかない。 


 異様な事態だ。

 七属性に当てはまらない能力というのは、いくらでも存在する。

 

 ただ、ナギサレベルの体術の使い手に、『未来視』まで合わせたとしたら、そんなものを倒すことはできるのだろうか?


 思考はあとだ、とにかく今は……、


 次の一手はどうするか、とファシルが考えようとした瞬間、

 思考すら許さぬと言わんばかりに、ナギサは畳みかける。


 幾重にも生え揃った氷柱をへし折りながら猛進する氷柱が、一本。

 

 一本の氷柱がブン投げられてきている。


 ナギサは、氷柱を一本切り裂くと、それをひょいと持ち上げ、投げ放っていた。


 異様な投擲の威力。

 理屈としては、実習の時に見せた《ステラ・ルクス》と同じ。


 あれは『走る』という動作を完璧な魔力コントロールで強化していた。

 それを、『投げる』に応用すればいいだけだが……、言うほど容易くはない。

 

 なぜなら、『動き』と『魔力』を一致させるには、途方もない量の訓練が必用だからだ。

 個人差はあれど、一つの動作に対して、一生をかけても、完全にはならない。

 

 ナギサはもしかすると、『動作の強化』そのもののコツをつかんでおり、どんな動きも完全な強化ができるのかもしれない。


 巨大な氷柱の投擲。

 もはや、《巨人種》と戦っているのと同義であった。


 へし折られ、ブン投げられた氷柱が、無数の氷柱を粉砕して迫る。


「はははっ……、笑うしかないな……、悪夢か、これは?」


 乾いた笑みをこぼしつつも、ファシルは諦めていない。

 飛来してくる氷柱に対して、氷の壁を形成してガード。

 

 自身で創造した氷柱の強度くらい把握している。

 だから、それよりもさらに高い強度の防御壁を出すことも造作もない。

 投げつけられた氷柱は、あっさりと防御壁の前に砕けた。 


 ――――だというのに、


 きぃんッ…………、と。

 短い、澄んだ音が、鳴った。


 氷壁が真っ二つに引き裂かれたかと、さらにもう一閃。

 四分割の氷壁を、蹴飛ばされる。

 

 飛んでくる氷塊を斬る――――いや、違う、ファシルは別の手段を選択。


 魔力強化した手で氷塊を一瞬受け止め、ナギサもやっていた力を受け流す技術により、氷塊を逸らした。


 なぜそんな手段を選ぶか?


 答えは――――


 次の瞬間、斬りかかってくるナギサに対応するため。

 

 すぐにガードに使っていた手を、剣の柄に戻して、ナギサの一刀を受け止める。


 しかし、大上段から振り下ろしてきたナギサの動きは、次へ繋げるためのものであった。

 受けるために剣を上げたことで、がら空きになった腹部に前蹴りをたたき込んでくる。


「…………ぐッッッ、かはっ……!」


 この戦いは、あくまで訓練。

 互いに防護魔術がかけてあり、大きなダメージを受けることはない。


 それでも、防護魔術を貫通するほどの絶大な威力の蹴りにより、ファシルの口端から胃液が垂れた。


 ナギサの蹴りにより十数メートル吹き飛ばされる。

 自身の体で氷柱を何本も破壊しながら進んで、やっと停止する。


 酸味のある唾を吐き捨てて、ファシルは笑う。


「…………いたたっ……。ここまでとは」


 これで『いたたっ』で済むファシルの魔力量も大したものなのだが、それは今のファシルには慰めにならない。


 戦いが始まってからここまで、ナギサはノーダメージ。

 ファシルはここで一撃、良いのをもらってしまった。


 はっきりとわかった。

 神器など、勇者など、関係ない。

 世界を救ったから、魔王を倒したから、それがどうした?


 ――――――ファシルが、挑戦者なのだ。

 

 絶対的格上に対する、挑戦者チャレンジャー


 薄々わかっていたことだが……、

 ナギサ・ハバキリは、今のファシルよりも、ずっと強い。

 全盛期のファシルでも、勝てたかどうか……。


(……全盛期の私は、ルミリフィアに負けた。……では、ナギサならどうだ?)


 それはずっと確かめたかったことだ。

 ルミリフィア。

 現在の七家序列1位。


 ナギサが、ファシルを倒し、さらに、すべてを奪ったあの女にさえ勝てるのならば、ファシルの理想は大きく前進する。

 

 確かめなければならない。

 ナギサの強さは、現在の人類最強に届くのかを。


「……悪かった。出し惜しみなんて、最初からするつもりはなかった。それでも、結果として、最初から全力でいかなかったから、地べたを転がって胃液を吐き散らすザマになったわけだ」


「…………え、ええっ……!!? いきなりそこら中を凍りつかせたり、トゲトゲにしたのに、全力じゃないんですか……!? あれで……!? あんなの……、S級の氷竜でもないとありえないですよ……!!!!?」


「ああ……、あんなものはただのじゃれ合いだ。知っているだろう? 神器の戦いにおいて、本当に重要なのはなにか」


 ――――静寂。

 一陣、凍てついた風が吹き抜ける。

 

 静止した白銀の世界を、沈黙が流れる。





「…………《魔剣》」


 ぽつり、と。

 ナギサはその言葉を、口にした。






「……ああ、そうだ。《魔剣》だ」




 《魔剣》。

 

 それは、『魔紋を刻まれた剣』を指す言葉ではない。 

 

 魔術を利用している武器の総称が、《魔装具》だ。




 であれば、《魔剣》とは何か?


 そもそも、神器同士の戦いにおいて、ロングレンジの魔術戦は、究極的には無意味だ。

 

 なぜなら神器とは、この世界に存在する物質の中で最も硬く、魔力伝導率が高い。

 そして、大気の魔力伝導率は、基本的に高くない。


 ――――つまり、神器使いの魔術であろうと、魔術として大気中に放った時点で威力が減衰していく遠距離技では、神器には通用しないのだ。


 たとえ、国一つ滅ぼす一撃を叩き込もうが、それでは神器使いは倒せない。

 神器は、国一つ滅ぼす魔術を、一太刀で斬り伏せることができるからだ。

 




 ――――であれば、どうすれば神器使いを倒すことができるのか?


 答えは、あまりにも単純明快。


 斬ればいい。





 神器から放たれた魔術では、神器使いの戦いは決着しないが、剣技による近接戦なら話は別だ。


 神器使いだろうか、急所に一太刀入れれば、あっさりと死ぬ。

 それができるのは、神器だけ。


 

 これがどういうことか?


 

 必然――――神器使いの戦いとは、剣技を競うことに終始する。



 そこで発生するのが、《魔剣》。


 元を辿れば、《マガハラ》の剣豪に由来する。


 魔術など使わない純粋な剣技のみの戦い。

 因果なことだが、神器使いの戦いは非魔術師の剣戟に近づいていく。


 ただし、完全に同じではない。

 剣技と魔術を組み合わせることは、神器同士の戦いにおいても有効……、というより、その技量を競うことが、神器使いの戦いとなる。


 魔術戦ではなく、

 非魔術剣戟でもなく、


 剣と魔を一番上手く組み合わせたものが、一番上手く神器を扱える。




 では、ファシルの使う《魔剣》とは何か?


 基本的に、《魔剣》の術理は一人に一つということは、まずない。

 

 なぜなら、神器の戦闘において、相手の属性は割れていることが前提だ。


 《火》ならこうくる。

 《水》ならこうくる。

 属性に応じて、どんな剣技を使うのかは、ある程度は絞れる。


 さらに、そこから最良の剣を選び取る読み合い。

 

 《魔剣》の駆け引きとは、その領域までが大前提。


 

 ――――しかし、ここで一つ問題が生じることに、ファシルは気づく。



(ナギサにも、当然、《魔剣》と呼ぶべき必殺があるはずだが……、ナギサには属性がない以上、読むための手がかりがない……!)


 逆にいえば、属性による強化はないので、ファシルが有利のはずなのだが……。

 ナギサに当たり前の理屈は一切通じないことはわかりきっている。


 相手の出方が読めないのなら、先に仕掛けてそのまま倒すしかない。


 ファシルの《魔剣》は、一度はルミリフィアに破られている。

 それでも。

 いいや、だからこそ。


 もしもナギサがこれを破れるのだとすれば、ナギサは既に、現在の人類最強と同格ということになる。


「…………最終試験、といったところか……!」


 駆け出すファシル。

 同時、ナギサも駆けだしていた。

 彼女もファシルがこれから繰り出す技が、尋常ではないことくらい、魔力の質で察しているだろう。


 剣の間合い…………、その直前で、

 

 ファシルは、ナギサが足を踏み込む地点に氷柱を伸ばそうとするも――――、


 魔力を込めた踏み込みで、術式の発動そのものを潰された。


 まただ。

 ナギサはどういうわけか、発動する前の術式が見えているような動きをする。 


 そして、ナギサが先に刀を振り下ろしてくる。


 

 ――――――狙い通りだ。


 氷柱の奇襲は、潰されて構わない。


 これによって、ファシルが奇襲に頼ったと、そう思わせる。


 実際は、ナギサに先に刀を振らせたかった。


 ファシルはほんの少しだけ遅れて、ナギサの軌道に合わせて、剣を振る。




 スイングのスピードで負けている以上、先に斬られるのはファシルか。


 ――――――いいや、違う。




 ここからが、この《神器・フィンヴルヴェトル》の真骨頂。


 この技を《魔剣》たらしめる術理だ。


 ナギサの《フツシミタマ》と《フィンヴルヴェトル》が僅かに触れあう、その刹那。


 全開出力の氷結を浴びせる。



 

 最良のパターン――手元まで凍らせることができれば、確実に剣が鈍る。

 

 そうでなくとも、刃筋がブレれれば、斬ることなどできない。

 

 刃先に氷が付着しても、切れ味は鈍る。



 氷結の度合いにもよるが、相手の剣を確実に阻害しつつ、こちらは自身の冷気の影響など受けず、ベストの一刀を放てる。


 これが神器同士の戦いであれば、相手もまた対策としての術式を発動できる。


 例えば、火の神器にはこの術理では勝てない。



 だが、ナギサにこれに対応する術は、ないはずだ。



 しかし――――、



(――――――ッッ!?)

 

 ファシルが目を剥いた。



 ナギサの剣は、氷結の影響を、一切受けていなかった。



 そのまま蒼銀の剣を弾き、刀の軌道は少しも揺らがずに振り下ろされていた。




「ハバキリ流――――――《流星》」



 《ステラルクス》。

 その応用。




 踏みだし合わせることすら困難な魔力のコントロールを、


 ・刀を振り下ろす動作に合わせて、

 ・刃に正確に合わせて、

 ・それだけの魔力コントロールをしながら、相手の剣に刀を合わせた上で、一切のブレがない。


 神業を何重にも同時に成立させる、神域の剣。


 こちらの氷結が、神器による、魔王を倒した剣技すら、バカバカしい小細工に思えるほど、圧倒的で、真っ直ぐな剣。



 ――――――完敗だった。



 ファシルリル・ヴァナルガンド VS ナギサ・ハバキリ



 この勝負――――――――勝者、ナギサ・ハバキリ。



 □




「……ナギサっ! まったく……キミは、本当にどこまで……!」


 戦いが終わると、ファシルさんが駆け寄ってきて、ぎゅーってしてきました。


「わ、わわっ……、ファシルさん、負けたのに、……うれしそう……?」

「ふふ。キミの勝利は私の勝利さ。この戦い、私が負けることはなかったんだよ」

「な、なるほど……! でも、ファシルさんのくれたこの子のおかげなので、そのとおりです……!」


 わたしは、ファシルさんにぎゅーってされて、戦いのドキドキと、ファシルさんの、汗と、柑橘の……、わからないけど、なんだか大人の、ドキドキする香りと、いろいろ混ざった心臓の音を感じながら、あることを思い出していました。



 いつかの雪山。

 繰り返す、魔物狩りの日々。


 わたしは、氷竜の死骸の上で、ぽつんと座りながら、思ったんです。




 …………さみしいし、……寒い。……つまんない……。



 

 誰かを救うことも、感謝されることも、嬉しい。ご飯のためにも、たくさん魔物を倒さないといけない。

 寂しくなると、いつも思い出します。


 試験に落ちたときのこと。

 旅先で出会った、同年代の子供と上手く話せないこと。

 人と目をあわせられないこと。

 たまーに、剣士の子とか、刀鍛冶の子とか、そういう、趣味が合うかもって思った相手にも、一方的に話して、あんまり噛み合わなくて、変なやつって思われた日のこと。

 誰にも、なにも、伝わらない。

 わたし、本当に生きてるのかな。

 もう死んでて、幽霊になってたり?

 お母さん、幽霊が見えるから、霊能者、的なやつなのかも……。

 うわあー……。たいへんだ……。でも、そっちのが辻褄が合うなあ。


 いつも、いつも、ただ、上手くいかなかったことを、頭のなかでぐるぐるさせていることが、わたしの人生でした。


 なのに、なんでだろう。


 ファシルさんに会ってから、毎日、……ずっと……。

 まただ……。

 だめだなあ……。

 ファシルさん、ずっとつらそうなのに……。


 わたし、……毎日、楽しい。


 勝利をくれた刀に誓う。

 この刀をくれた、ファシルさんに誓う。

 

 この恩は、必ず、次も、わたしの勝利で返そう。



「…………ファシルさん……冷たい……」


 ぴた、って。ファシルさんの、氷属性の魔力が残るほっぺたに触れる。


「…………変だなあ…………、冷たいのに、あったかい…………」


 ファシルさんの冷たさが残る手に、わたしの目から、熱いしずくがぽたぽたとこぼれていた。




 □





 ナギサとの勝負の後。

 私は、自室でさっきのことを思い出していた。


 いきなり泣き出したナギサ。

 彼女の手が、私に触れる。


「…………はあ……っ…………、はあ……、さすがに…………ちょっと、あれは、ヤバかったな…………」


 口元に触れる。

 ああ、こんなになってるよ。

 ここまで術式が緩むとは。

 牙が……。クソ……っ。

 

 ……イヤになる。


 泣いているナギサを見て――――――


 綺麗だな、と思った。



 同時に……。

























 ――――――――その首筋に、噛みつきたいとも。









「………………もう少し、……耐えてくれよ、私の理性」




 ファシルリル・ヴァナルガンドは。


 元 《勇者》で、

 元序列1位の神器使いで、


 ――――――――《魔王》と同じく、《吸血鬼》だ。




 吸血鬼は、好ましい相手の血を欲してしまうという。


 そして、その嗜好とは別に、魔力循環が綺麗な人間は、血液もまた芳醇に、味もよくなっていくという。


 

 


 ――――――ナギサの血は、ファシルにとって、理性を溶かす猛毒さいあいだった。










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