ミニマム

五木林

平坦

 平坦ふらっとは、噂通りだった。それどころか、噂以上のものは何一つない。

 その惑星を形容するのにそれ以上の言葉は必要ないので、実際そのまま名前になっている。

 

平坦ふらっとにふらっと立ち寄った」というのがどうも流行語らしく、船間通信で流れてくるのは二回に一回がそれだ。ようやく通信圏内に他の宇宙船が現れたと思ったら聞き飽きた文言を垂れて去っていくので、最近は気が滅入っている。ミームが持つ力とその虚しさは、母星に居た頃とちっとも変わらない。変なところで、不変なのだ。


 そんなことだから、ふらっと訪れた人で混雑しているかと思われたのだが、意外にも他の宇宙船は見当たらなかった。膝丈くらいの草が、それ以上高くも低くもならず、地平線まで等高に茂っている。それだけだった。

 見渡してみる。その場で回転すると、すぐに方向感覚を失う。乗ってきた宇宙船が唯一の目印であるのだが、これが急に鬱陶しくなってきた。見えないところまで行って、完全な平坦ふらっとを感じたくなったのだ。


 しばらく歩き、視界が扁平になったところで魔が差して、くるくると回転した。もう戻れなくなった。不思議といい気分で、その場に寝転がる。わざわざ観光に訪れる物好きは自分一人のようだし、誰にも見つからないだろう。噂になる前に風化して、平坦になれるのだ。


 

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ミニマム 五木林 @hotohoto

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