第5話 太郎
この前、姉のひま子から母に電話があり、会社を辞めたので、近々大阪にも帰るとの連絡があった。宝くじが当たったからといって、すぐに会社を辞めてしまうあたり、姉らしいと思った。僕は今大学の図書館の机の上で、課題をやっている。大学が誇る立派な図書館だが、本なんか一切開かず、タブレットを操作している。周りもそんな奴等がほとんどだ。送信ボタンを押すだけで終わった課題が教授に届いてしまう。
「ふぁ〜」
弟の身体の中で、あくびをするひま子。勉強中の弟の中に居るのも退屈やし、かといってなんか思春期の子の、しかも弟の身体に入るのは、申し訳ない気持ちになった。
「隣座ってもいい?」
「あ、うん。どうぞ。」
「課題やってたん?」
「うん。締切10分前に滑り込みセーフ。」
「そうなんや。」
「もうすぐバイト行かなあかん。」
「太郎バイト何してるん?」
「焼き肉屋やで。」
「今度食べに行ってもいい?」
「いいけど遠いで?この辺にもいっぱいうまい焼肉屋あるやん。」
「でも近くの美味しい焼き肉屋さんには太郎は居ないやん。」
「え?まぁそうやな。」
「太郎のバイトしてる焼き肉屋さんは美味しい?」
「うん。美味しいで。」
「じゃあ行こうかな。」
「わざわざ俺に会いに?この辺の美味いところ、今度一緒に行こうや。」
「美味しい焼き肉に会いに、太郎のバイト先に行く。」
「わかった。」
太郎は帰り支度をし、隣で本を読み始めたカレンに無言で挨拶をし、電車に乗った。結局カレンが僕に言いたかった事は、よくわからなかった。
「今日もお願いします!」
焼き肉屋に出勤する時の挨拶だ。着いたら先に賄いを食べる。今日は、ビビンバ。ご飯少なめ、具多めにしてもらう。一応ダイエットをして鍛えている。だってモテたいから。
「太郎のバイト先の賄いうまっ!!地味に付け合わせのキムチが甘辛くて最高。」
ひま子は、太郎に話しかけてきた、女の子の事が気になっていた。多分うちの弟は、あの子に興味が無い。あの子はその事にきっと気付いてるんやろうな。タンパク質多めの太郎があの子の魅力に気付くまでは、時間がかかるだろう。
「ご馳走様でした。」
いつもよりお腹いっぱいになったひま子は、自分の部屋に戻っていた。
「げふっ!」
「くさっ!」
小さなおじさんは、私のゲップの臭いで気分が悪くなったようだ。
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