第4話 もえ子

「相変わらずもえ子の家は、リッチやなぁ。」


ただ、見えてる景色は私の家とは比べ物にならないくらいの広い部屋なのに、もえ子の身体の中はとても暑い。そして狭い。人の身体の中に入って、初めて窮屈な思いをした。


「痛てっ!」


すると、いきなり何かに蹴られた。


「あ!えっと、どうも。」


ひま子は思わず、お腹の子に挨拶をした。もえ子の身体の中が暑くて狭い理由は、もえ子妊娠中やからか!と、こんなよくわからない状況を割と早い段階で受け入れてしまった。


「あっついなぁ〜クーラー付けてんのに!あーもう無理。イライラする!」


「ママー!抱っこー!」


「ママ今暑いねん!うるさい!」


息子が大声で泣きはじめた。同時にお腹の子も、今日はめっちゃ蹴ってくる。なんかいつもに増して身体も熱いし、頭が燃え上がりそうなくらいイライラしてしまう。いつもの癖でSNSを開く。わざわざ友人限定公開にしてまで、私はそこに愚痴を吐き出す。たまたま、ひま子の投稿が目に入る。花束の写真と共に、会社を辞めました!と書いてある。


「あいつ自由そうで良いなぁ。もえだって育児辞めたい。誰かもえにも花束ちょうだいや。子育て頑張ってるで賞。」


息子が涙目で、こちらを見ている。


「さっきはごめんね〜しゅん君。ヨシヨシ。」


しゅんを抱きかかえながら、こんな可愛い子にも恵まれてて、こんな良い家に住んでるもえなんかが、愚痴ってるSNSなんて誰も共感してくれて無いんやろうなぁ。そんな事を考えながら、キッチンに向かった。


「もえめっちゃ料理上手いよなぁ。誰も褒めてくれやんけど。」


煮込んでいたビーフシチューをかき混ぜると、一旦火を止める。先に作っておいた、アボガドとトマトとモッツァレラチーズのサラダ、今朝焼いておいたパン、子供達用に別に作った、優しい味のクリームシチューを手際よく机に並べていく。ママから、家族に出すご飯は手抜きするなと言われている。ママ譲りでもえも料理は嫌いでは無い。金持ちやからって、シェフに料理作ってもらったりせえへんからな!と、あてもなく心の中で叫んでいた。


「ただいま!おっ!めっちゃ美味そうな匂いするやん。まぁもえのご飯いつも美味いけどな。」


瞬間湯沸かし器になっていた、もえ子の身体の沸騰が旦那のたった一言でおさまった。私ってほんま単純やわ。お腹をさすりながら、いつでも出てこいやぁー!待ってるで〜とお腹の子に、心の中で呟いた。


「いただきまーす!」


皆んなで晩御飯を食べる。お腹の中では、ひま子もビーフシチューを味わっている。隣の赤ん坊も、口をもぐもぐ動かしているように見えた。


「もえ子の美味しいご飯食べて、元気に産まれてくるんやで〜。また外の世界で再会しよな!」


満腹になったひま子は、自分の部屋に戻っていた。肩の上で小さなおじさんが、腕立て伏せをしている。


「おじさん何で私を選んだん?」


「可愛いから?21、22、23」


腕立て伏せをしながらサラッと答える小さなおじさん。私の夢やとしたら、都合の良い事言わせてしまってるなぁ。とひま子は小さなおじさんを見ながらニヤけていた。次は誰の身体かなぁ。前回あんなに夢よ早く覚めてくれ!と思ってたのに、おじさんのたった一言で調子が良くなってしまった。


「誰でもかかってこいや〜!」

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