第9話 保証人の権利
2章に入ってからも、わたしと紗都子、そして田中君は毎日のように紗都子の家に集まり田中君は写真、わたしは写真と勉強、紗都子はヘッドフォンでアニメ鑑賞、もしくは漫画を描く等それぞれ自分がやるべきこと、やりたいことを続けた。
準レギュラーの部長に関しては、この部屋に連れてくることを2人にやんわりと拒否されたため、わたしだけが週1回程度部長の家に赴き情報交換を行いつつ関係は繋いだ。
そして淡々と進んだ第2章は12月7日に終りを告げる。
平日の放課後、わたしはいつものように紗都子の家に寄りデジカメの写真の整理。田中君は用事があるらしくその場にはいなかった。
「あの一、夕夏ちょっといいかな?」
「うん、いいよ」
わたしはベッドに座り部長に見せるべき写真を選んでいた。
「あのさ。昨日のことなんだけど。わたしさ、田中君と、その、いわゆる、あれだよ。こう、まぐわった?というか」
「マグ割った?コップが割れたの?」
「そうじゃなくて。平仮名でまぐわったという。いわゆるその、体の、その関係というか、性的な交渉というか。そっち系の」
「はあああ!?いつ、どこで!」
「いや、昨日は昨日なんだけど。ここで、みたいな?」
そう聞いた瞬間、わたしは静かにベッドから立ちあがり床に座った。
「そんな明らかに避けなくても……」
「だって普通に気持ち悪いでしょ。30代後半が10代の高校生としたベッドに座るなんて」
「ごめん、今は一応両方10代っていうか。で、ちなみにこういうことに」
「そういう問題じゃなくて実年齢のことを、って?」
わたしは紗都子が差し出した紙を取った。
「待って、婚姻届?え、ごめん。え、どこまで本気?」
「うん、全部本気。田中君も『これからは2人で1枚の写真』だって」
「それ田中が言ってたの?全然うまくないんだけど」
「夕夏、あの田中って言ってるけど……」
「田中の2人で1枚もそうだし、紗都子もだよ。10代の男と、その、してね。すぐ結婚するなんてどうかしてる!」
「えー、まあ今だから言うけど。わたしは前から田中君のことをそれなりに、憎からずというか。それでね、ここを」
紗都子はわたしが持っていた婚報届けの保証人の欄を指す。
「夕夏に書いて欲しくて。だって夕夏以外に誰がいる?いないでしょ!」
「いいよ、わかった。書く、書くよ。ただ何も保証しないからね!」
「すごいね。保証をしない保証人というのも。でもこれで12月24日には間に合いそうだよ」
「……クリスマスに合わせるの?それ冗談じゃなくて?」
「クリスマスに入籍した人一杯いるんだよ!バカリズムだってそうだし!」
「そうだよね。ごめん、それはわたしが悪かった。2人のことだし外部がどうこういうのは間違ってる」
「そこまで改まらなくてもね。夕夏は保証人だから一応入籍に関する質問や感想を言う権利はあるよ」
「わかった、これ後で書くよ。あ、ハンコ無いけど」
「ああ、ここに」
紗都子は押し入れを開け、自ら改造して作った隠し場所から印鑑を取り出した。
「笹木って微妙になくてさ。これわたしが作ったから。ああ、作ったというのは言葉のあれで注文を」
「それはわかるけど。紗都子いつからハンコなんて」
「実は前からここにあったんだ。夕夏はただのBL同人置き場と思っていたかもしれないけどさ。大事なものはここに入れてるから」
「それ、色々気になるけど。でも、うん。後先になってごめんね。おめでとう、紗都子」
わたしはそう言って右手を出す。
「散々言われた後だから微妙な気持ちだけど。ありがとう、夕夏」
紗都子は笑顔で私の手を取った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます