第8話 第1章完
いつもの放課後、紗都子の部屋にいたわたしと紗都子がそれぞれ漫画を読んでいると、インターフォンの音が鳴った数十秒後、ふらふらと足取りがおぼつかない状態の田中君が部屋に入って来た。
「ちょっと田中君!大丈夫!?」
え、そんなに?慌てて駆け寄る紗都子に少し違和感があったが、わたしも同様に、大丈夫?と声を掛ける。
「いや、ごめん。写真甲子園。落ちた……」
「え、写真、甲子園、落ち、た?」
「ああ、そうなんだ」
写真甲子園という単語によりわたしは一気に冷静さを取り戻す。
「さっき文書で通知来てて。部長もちょっと落ち込んでた」
「そっかあ。落ちたか、うん。とりあえず田中君が無事でよかったよ。わたし、てっきり、そうだね。てっきり盗まれたカメラと中古販売店で対面したとかそっち系だと」
「笹木さんもごめん。せっかく入ってくれたのに」
「いいよ。あんな急にやって通るとは思ってなかったし」
「あのさ、田中君。甲子園って負けたら土持って帰るよね。この場合何を持って帰るの?」
「いや、わたし達写真甲子園行ってないし」
わたしは漫画を手に取り続きを読み始めた。
「とりあえず直接伝えたくて。おれ、これから撮ってくる。なんか今やっときたい」
田中君はそう言って部屋から出て行った。
「これは甲子園の魔物が彼の写真魂に火をつけたね。これは未来変わる予感がするよ。でも大丈夫だよね?範囲内だよね?」
「何が範囲かはわからないけどいいんじゃない、元々写真部なんだし。あ、先に言っとくとわたしも写真頑張ってみることにした。実務的なのが中心だから部長とか田中君とはやり方違うかもしれないけど。進路もそっちを目指すつもり」
「え、進路って。やばいよ、夕夏も魔物に取り込まれてるよ……」
「きっかけの一つではあるけど」
「それならわたしも取り込まれたほうが楽だったなあ。一限レフ買うためみんなでバイトとかしてさ」
「やればいいでしょ。紗都子も写真を」
「うーん、そこはごめん。1度きりの人生、自分に嘘はつけないよ。正直、写真撮ってるより漫画読んでる方が楽しいっていう。ただ果てしない疎外感、それはある」
「描いてる漫画その辺いじればいいんじゃない。3人で写真頑張るとか」
「一応はリアリティショーだからそのままを描ききるよ!あと部長忘れてるよ、一応漫画では準レギュラーだから」
「あ、うん。そうだった、ね。大丈夫、写真の出来とかは部長に相談とかする予定だから」
「よし、じゃあこれからは新しい章だね。いま6月29日だから、明日は普通に会って7月1日から2章でいい?」
「紗都子のさじ加減だから別にいつでもいいよ」
そして7月から第2章が始まることとなった。
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