第4話 漫画の窓
「ねえ、ほら。授業っていうかその後のも全部終わってるんだけど」
「あ、ああ。うん。終わってる、ねー」
「紗都子以外全員帰ってるよ。というか大丈夫なの?クラスでの立ち位置」
「大丈夫。寝不足でよく夢を見ている子っていう設定だから」
誰もいない教室で寝ていた紗都子は首を回しながら腕を伸ばす。
「写真部は行かないの?」
「行くよ、行く行く。昨日ちょっと激しく調べ物をしててさ。本当に寝不足になってしまったという」
「写真は?」
「夕夏に借りたデジカメで撮ったよ。昼休み先生に頼んでプリントアウトもしてもらったし」
「へえ、どんなの」
どうしようっかなー。紗都子は鞄から学校のプリント配布で使うA4の紙を取り出した。
「……それ紙質大丈夫なの?」
「大丈夫、ものがよければ正義だから」
「ちょっと見せてよ」
わたしが持っている紙を取ろうとすると、紗都子はすっと手を引いた。
「一緒に部室でせーので出そうよ。その方が正しい演出だと思うんだけど」
「いいの?ハードル上がるけど」
「え……」
紗都子はわたしを見ながらゆっくり手を降ろす。
「だってそういうもんでしょ。ここで見せておいた方がダメージ少ないよ。わたしからアドバイスもできるし」
「え、完全にプリントしてしまっている写真にできるアドバイスなんてある……?」
「それは。まあ、言い方、とか」
「あー、大喜利出すときのフリップのタイミングみたいな」
「そうそう。だから一回見せてよ」
「う、うん」
紗都子は机の上で紙を裏返した。
紙には紗都子がノートに書いたと思われる4コマがプリントされており、わたしはそっと読まずに裏返した。
「ねえ、ちょっと。せめて読んで欲しいんだけど」
「これはだめだよ。ああいうタイプが一番怒るやつだから」
「いやいや、こういう子どもならではの発想が」
「じゃあ直接聞いてみれば?」
わたしは紗都子が撮った写真を改めて見て、やっぱりこれはない。そう自分の第一印象に確信を持った。
「これ本当に笹木さんが?」
「はい」
もう一度PCモニターを見た部長は何度か頷く。
部室には部長以外おらず、わたしと紗都子はなんとなく入口付近で鞄を持ったまま立っており、ちなみに紗都子の写真は一目見た部長が裏返してそのまま机の上に放置されている。
わたしが昨日撮った写真。紗都子と田中君が校門に向かって歩く後ろ姿は、自分で見たらやりすぎかとも思うが、同時にそれぐらいしないと伝わらないということもわかっていた。
「プリントアウトは」
「わたしの家そういう環境なくて」
「それでSDカード」
「はい」
うん、そういう、うん。部長はさらに頷きながら独り言を呟く。
「あのー、それで夕夏のはどうなんでしょうか?」
横からモニターを覗き込みつつ遠慮がちに紗都子は言った。
「この写真。タイトルとかってある?」
タイトル?そんな急にタイトルって言われても。とはならない。わたしは考えてきてたから。
「うーん、特には。タイトルまでは。でも、しいていえば『15年後』ですけど」
「へえー、夕夏のってタイトルあるんだ。じゃあわたしは、『漫画の窓』で」
「なるほど。15年後、ね。うん、わかった。笹木さん、わたしも3年だからあんまり時間ないけど一緒にやろう」
部長は紗都子を無視して右手をわたしの前に差し出した。
「あ、うん。よろしく。えっと、紗都子は?」
「いいよ、笹木さんの付き添いで来る分には」
部員の付き添いってどういう立場なんだろう……。ふと横を見ると紗都子は軽く涙を浮かべながら自分が撮った写真を丁寧に折りたたんでいた。
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