第3話 校庭に降りる段々のとこ


「予想外だった。写真部に入るのに試験いるなんて」

「こんなの全然記憶ないんだけど。夕夏はこのルート覚えてる?」


 写真部を出たわたしと紗都子は学校感をより味わうため校舎を出て、陸上部が練習している様子を眺めていた。


「いや、こんなのはなかった」

「そうだよねえ。というか大体にして部活だよ?金と場所用意してるの学校だよ?あの部長なんであんなにイキってるの?」

「3年の6月だからふざけてると思われたんじゃない?とりあえずわたしと紗都子で1枚ずつ撮っていけばいいんだから」

「しかもスマホだめって。その辺のデジカメより新しいスマホの方がいいって。あ、ごめん、スマホないよね。うん、そうだったね。ごめんね、なんか。逆に」

「その上から目線要らないし。要は携帯のじゃだめってことでしょ」

「わたし家になんかあったかなあ。夕夏は?」

「わたしデジカメ持ち歩いてる、てた、みたい。鞄に入ってた」

「そうだ、夕夏ってwebフードライターやってたもんね。仕事としてやってるぐらいだからやっぱり写真は好きだったんだ」

「わたしみたいなのだと1人で店の外観から料理まで全部撮るから。でも、そうだね。うん、写真撮るのは好きだった」

「やっぱりあれだね、10代にはその人の原風景がって、あれ田中君じゃない?」

「うん、駐輪場に向かってるぽい」

「捕まえて話を聞こう!ほら、早く!」


 紗都子の肩に掛けそうで掛けない独特な鞄の持ち方。それを見たわたしは懐かしさのあまり一瞬立ち止まり、慌てて追いかけた。


「ごめんね。田中君、ちょっと写真部の事について教えて欲しくて」


 段々のとこに戻ってきたわたしと紗都子は田中君を挟むように座った。


「え?は、なんで?」

「さっきわたしと夕夏が行ったときの話。部長が写真の試験やるってやつ絶対聞いてたよね、横にいたから。で、単純に知りたいんだけど勝つ写真ってなに?」

「え、勝つ、って……」


 明らかに戸惑っている田中君は助けを求めるようにわたしを見た。


「わたしたち写真部に入りたいんです。だから受かりそうな写真の傾向を教えてもらえればと思って」

「ああ、そういう。そうですね、部長は」

 

 田中君は少し考えてから口を開く。


「子どもと高齢者が笑っている写真はあまり評価はしない、です。誰でもできるからって」

 

 あの人そういうタイプだったんだ。一概にそうとは言えないんだけどな。わたしはポケットの中に手を入れてiPodnanoをくるくると回す。


「おっけえ。じゃあそれを抜いて。後さ、これだけやっといたら間違いないっていうのはある?」

「報道というか戦争の写真はよく見てますね。意味がある行為だって」

「あー、ごめん。わたしと夕夏は今それ撮れないから。他にないの、海が好き、とかさ」

「自分の思想が乗ってると気持ち悪いとはよく言ってます、けど」

「うん、わたしどっちみち乗せ方わからないから大丈夫。ええと、まとめると、子どもと高齢者はだめ、報道写真寄りで行け、無で撮れ。で、いいかな?」

 

 田中君は無言で頷く。


「じゃあ本題に。田中君、わたしと夕夏と3人で漫画を描こう。これは決定事項だから。田中君の役割としては、わたしの絵を最大限に活かす背景を描く。これでお願い。写真やってるからそういう空間を演出する行為は得意だと思うんだよ」

 

 前はこんなに強引だっけ?さすがにもうちょっと自然だったような。そもそも本題に写真の話関係ないし。わたしは陸上部の練習に視線を向けた。


「え、おれ?なんで?」

「田中君、今は描くか、描かないかだよ。あとこの作業は絶対あなたの写真にもいい影響を及ぼすと思う」

「え、ああ。おれでよければ、別に、やってもいいんだけど」

「よし、了承したね!じゃあ、今日は解散。また明日集まろう」

「明日?もうちょっと間空けてもいいんじゃない」

「ねえ、夕夏。高校生でいられるの後、何日だと思う?270日ぐらいだよ。そして270日なら明日になったら269日だよ。あと絶対だれか風邪とか引くから実質あと260日ぐらいしか3人でこんなことできないんだよ?」

「それもわかるけど」

「おれ明日は写真を撮りに、行こうとおも」

「あー、写真ね」


 徐々に声が小さくなる田中君がしゃべり終わらないうちに、紗都子がかぶせる。


「写真に場所とか時間を求めちゃだめだよ、田中君。そんなの素人からみたら素人の言い訳だよ。それなら今撮っちゃおう。校舎を出たらある種もう戦争だから」


 ほら、行こう。急いで行こう。紗都子は田中君の腕を引き立ちあがらせ、そのまま店の出入り口に向かう。


 その様子を見ていたわたしは鞄の中を探りデジタルカメラを取り出した。


「ゆかああー、いっちゃうよおお」

「今行くから」

 

 久しぶりだな、これ。ボタンの感触で使い方を思い出したわたしは段々に座ったままカメラを構え、校門に向かう2人を撮った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る