第七話 同業者

 タツヤたちは線路沿いに移動しているらしいので、俺とベルは駅前で待つことにした。

「マサト様、間もなく到着するようです」

「おう、分かった」

しかし、タツヤに会うのは何か月ぶりかねえ。

俺もあいつも、よくここまでくたばらずに生きてこれたもんだ。

そんなことを考えると、がたんごとんという音が聞こえてきた。

アイツら、線路を乗り物に乗って移動してきたのか。

楽そうでいいねえ。


 やがてしばらくすると、タツヤとゼロちゃんが駅から出てきた。

「ようタツヤ!久しぶりだな!!」

「お久しぶりです。タナカ収束官」

タナカタツヤとゼロちゃんだ。

タツヤは俺と同い年で、収束官をやっている。

真面目な奴だから、支給の制服を着て仕事をしている。

ゼロちゃんはベルのタイプ違いらしいが、詳しいことは分からない。

旧文明収束官補助用有機型人工知能であることは間違いないが。

「しばらくぶりだな、マサトにベルナデッタ」

タツヤが挨拶を返してきた。

だがゼロちゃんの姿が見えない。

「ああ!ところで、ゼロちゃんはどこに?」

するとベルが、

「ゼロお姉さま、いつまでタナカ収束官に隠れているのですか」

「ふえ!?」

タツヤの背後に隠れていたのか。

どうやら、ゼロちゃんはベルが苦手らしい。


 それから、俺はタツヤと二人で情報交換をした。

「つまり、一関市街にはほとんど人は残っていないということか?」

「ああ、俺とベルナデッタでほとんどやっちまった。もう人っ子ひとりいねえな」

「そうか。一関には何か月いたんだ?」

「一か月はいたね。市街地は遮蔽物が多くて生体反応が見つからないもんでね」

まさか一晩で皆殺しにしたとも言えんしな。

俺たちがこんな調子で話をしている間に、ゼロちゃんとベルも情報交換をしているようだった。

まあ、ベルが一方的に詰めてゼロちゃんを泣かしているだけにも見えたがな。


 ある程度話が済んだあと、俺はタツヤに顔を寄せた。

大熱波のことを言わなくちゃな。

俺は珍しく真剣な顔で、

「それからな、これはさっき俺が計算して分かったんだが――今年の夏は『大熱波』になるぞ」

――と告げた。

タツヤは戸惑い、

「大熱波、周期的には今年じゃないだろう?」

と聞き返してきた。

「どうやらまた周期が変わったらしいんだ。今年の夏は、宮城以南は全て居住不能だ」

俺はそう返した。

タツヤは何かを思い出したかのような表情で、しばらく考え込んでいた。

俺は思わず声をかける。

「っておいタツヤ、聞いてるか?」

「ああ、すまない。少し考え事をしていた。それでマサトはどうするんだ?」

俺か……「計画」のためには南下しなければならない。

だが「計画」のことを話すわけにはいかないしな。

俺はタツヤに、

「今年の越夏をどうするか考えてな」

と返事をした。

「ああ、お前のベースは仙台だったな。俺たちのベースで一緒に越夏するか?」

たしかタツヤのベースは盛岡だったな。

盛岡なら越夏出来るだろう。

だがそういうわけにもいかない。

「まあ、それもいいがな――少し考えてみるよ」

俺はそう返事をした。

「タツヤさ~ん、ベルナデッタがいじめてくるんですよ~!」

ゼロちゃんは泣きべそをかいてタツヤに助けを求めていた。

お前もずいぶんと気に入られているんだな、タツヤ。


 俺たち四人は廃駅跡で夜を明かした。

朝、俺とベルは南下すべく出発の準備をしていた。

「マサト、結局どうするんだ?」

同じく出発の準備をしていたタツヤに問いかけられた。

うーん、「計画」のことを話すわけにもいかないからな……

俺はタツヤに向かって告げた。

「俺たち、南下するよ」

「え?」

そろそろ六月になり、夏が来る。ましてや大熱波だ。

そんなときに南下すれば、俺はともかくベルですら危うい。

「マサト、正気か?」

タツヤが尋ねてきた。

嘘をつくのは心苦しいが、「計画」のためだ。

すまない、タツヤ。

「正気だよ。大熱波のもとで生きていられる人間はいない。ってことは、宮城以南にはこれから苦しんで死ぬ人間がいるってことだろう?だったら、その前に死なせてやるのが俺たちの仕事じゃないか」

タツヤは驚いた表情をしていた。

俺と同じく詐欺師出身のはずなのに、仕事に対して真面目に向き合う――

それがタツヤの印象だった。

だが、同時に他人に対しても真面目に向き合う。

そういう男なのだ。

「そうか。本当にいいんだな?」

タツヤが問うてきた。

「いいさ!それが俺の仕事ってもんだろう?」

俺はそう返した。

本当にすまない、タツヤ――

タツヤはさらに問いかけてきた。

「だけど、ベルナデッタはどうするんだ。大熱波じゃ、あいつも無事では済まないぞ」

「心配ありません」

ベルが割り込んできた。

「私の使命はマサト様の補助をすることです。私はその使命を忠実に果たすべく、マサト様と共に参ります」

ありがとう、ベル。

だけどベルにも俺の「計画」は知らせていない。

ベルにも嘘をついたことになるのか……。

「うえ~んベルナデッタ~~!!!」

今度はゼロちゃんが割り込んできた。

「ゼロお姉さま、泣かないでください。私は職務を全うするまでです」

「そんなごどいいがらあ~~!!私のベーズで越夏じよ"う"よ"~~~~~!!!」

昨日よりもさらに大泣きだな。

なんだかんだ言って、ゼロちゃんは妹想いの姉のようだな。


 俺とベルは一足先にホームへと降りた。

線路沿いに歩いていくつもりだったが、そこにはトロッコが置いてあった。

なるほど、タツヤたちはこれに乗ってきたのか。

「計画」まで時間が無い。

タツヤ、嘘をついたうえにトロッコまで拝借して悪いな。

「ベル、これを借りて行こう」

「よろしいのですか?」

「なあに、タツヤだから大丈夫さ」

俺たちはトロッコを漕ぎだした。

段々と遠くなる駅の方を見ると、タツヤとゼロちゃんがホームに降りてくるところだった。

「タツヤーー!!!いいトロッコだな、借りていくぜーーーー!!!!!」

俺はそう叫んだ。


 悪いな、タツヤ。

返しには、行けないみたいだ。

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