第五話 同業者

俺とゼロはレイナのトロッコを拝借して、一気に北上していた。

「タツヤさん、トロッコって便利ですねえ~!」

「まさしく車輪の再発明って奴だな」

「なんですか~、それ~?」

こんな世界じゃ車輪どころかオーパーツのお前が何を言ってるんだ。

俺とゼロは何回か交代しながら、北へ北へとトロッコを漕いでいった。



「タツヤさん、大きい高架橋です~!」

ある廃駅に近づいた頃、ゼロがそう言ってきた。

「まもなく一関だな。市街地だから生体反応があるかもしれん」

「はいッ!警戒しておきますッ!ぴぴぴぴ……」

そう言うと、ゼロは両手の人差し指を顔に持ってきて、触角の真似をしていた。

昨夜のコイツと今のコイツが同じだとは思えんな。

そう思っていると、ゼロが――

「タツヤさん、生体反応ですッ!市街地の方!」

「そうか。何人くらいだ?」

「若い男の人が一人……あっ」

「どうした、ゼロ?」

「多分……収束官の方です。衛星から、市街地に別の兄弟がいると通信を受けました。」

なるほどね。



それから間もなく、俺とゼロは旧一関市に着いた。

まわりの生体反応をうかがいつつ、廃駅跡を出ると――

既に二人が待ち構えていた。

「ようタツヤ!久しぶりだな!!」

「お久しぶりです。タナカ収束官。」

ヨシカワマサトにベルナデッタだ。

マサトは俺と同い年で、収束官をやっている。

不真面目な奴だから、コートとズボンは捨てて半袖半ズボンで仕事をしている。

ベルナデッタはゼロのタイプ違いらしいが、詳しいことは分からない。

旧文明収束官補助用有機型人工知能であることは間違いないが。

「しばらくだな、マサトにベルナデッタ。」

「ああ!ところで、ゼロちゃんはどこに?」

あれ?どこに消えたんだ?そう思っていると――

「ゼロお姉さま、いつまでタナカ収束官に隠れているのですか。」

「ふえ!?」

……俺の背後に隠れていたようだ。

どうやら、ゼロはベルナデッタが苦手らしい。



それから、俺はマサトと二人で情報交換をした。

「つまり、一関市街にはほとんど人は残っていないということか?」

「ああ、俺とベルナデッタでほとんどやっちまった。もう人っ子ひとりいねえな」

「そうか。一関には何か月いたんだ?」

「一か月はいたね。市街地は遮蔽物が多くて生体反応が見つからないもんでね」

俺たちがこんな調子で話をしている間に、ゼロとベルナデッタも情報交換をしているようだった。

もっとも、ベルナデッタが一方的に詰めてゼロを泣かしているだけにも見えたが……



ある程度話が済んだあと、マサトがこちらに顔を寄せてきた。

マサトにしては珍しく真剣な顔で、

「それからな、これはさっき俺が計算して分かったんだが――今年の夏は『大熱波』になるぞ。」

――と告げた。

俺は戸惑い、

「大熱波?周期的には今年じゃないだろう?」

と聞き返した。

「どうやらまた周期が変わったらしいんだ。今年の夏は、宮城以南は全て居住不能だ」

そうだったのか……。

ふと、長老様たちのことを思い出してしまった。

彼女たちは、どちらにせよ生きのびることは無かったのか……。

「っておいタツヤ、聞いてるか?」

「ああ、すまない。少し考え事をしていた。それでマサトはどうするんだ?」

「今年の越夏をどうするか考えてな」

「ああ、お前のベースは仙台だったな。俺たちのベースで一緒に越夏するか?」

ゼロは嫌がりそうだな。

「まあ、それもいいがな――少し考えてみるよ。」

マサトは思いつめたような顔で、そう告げた。

「タツヤさ~ん、ベルナデッタがいじめてくるんですよ~!」

声がした方を見ると、相変わらずゼロが泣きべそをかいていた。

アイツにはもうちょっと思いつめてほしい。



俺たち四人は廃駅跡で夜を明かした。

朝、俺とゼロは再び北上すべく出発の準備をしていた。

「マサト、結局どうするんだ?」

俺は、同じく出発の準備をしていたマサトに問いかけた。

マサトたちが来るなら、トロッコに乗りきらないかもな……

そんなことを考えていると、マサトは思いもよらない返事をしてきた。

「俺たち、南下するよ」

「え?」

そろそろ六月になり、夏が来る。ましてや大熱波だ。

そんなときに南下すれば、マサトはともかくベルナデッタですら危うい。

「マサト、正気か?」

「正気だよ。大熱波のもとで生きていられる人間はいない。ってことは、宮城以南にはこれから苦しんで死ぬ人間がいるってことだろう?だったら、その前に死なせてやるのが俺たちの仕事じゃないか。」

……俺はとんだ勘違いをしていた。

服装規定を守らず、どこかちゃらんぽらんな雰囲気で仕事をする――

それがマサトに対する印象だった。

だけど、こいつは違う。

自らの使命を理解し、それに忠実に生きる――

そういう男だったのだ。

「そうか。本当にいいんだな?」

俺はマサトに問うた。

「いいさ!それが俺の仕事ってもんだろう?」

「だけど、ベルナデッタはどうするんだ。大熱波じゃ、あいつも無事では済まないぞ」

「心配ありません。」

ベルナデッタが割り込んできた。

「私の使命はマサト様の補助をすることです。私はその使命を忠実に果たすべく、マサト様と共に参ります。」

なるほど。

ゼロとベルナデッタはまるで違うが、仕事に真面目な点は同じようだった。

「うえ~んベルナデッタ~~!!!」

今度はゼロが大泣きで割り込んできた。

「ゼロお姉さま、泣かないでください。私は職務を全うするまでです。」

「そんなごどいいがらあ~~!!私のベーズで越夏じよ"う"よ"~~~~~!!!」

昨日よりもさらに大泣きだな、全く。

なんだかんだ言っても、ゼロにとっては大事な妹のようだった。



大泣きするゼロを宥めながら、俺たちはトロッコの置いてあるホームに向かった。

しかしいざ出発しようとすると――

「あれ?トロッコがないな」

「タツヤさん、あそこ!」

ゼロの指さす方を見ると、マサトたちがトロッコを南方向に向かって漕いでいた。

そして、

「タツヤーー!!!いいトロッコだな、借りていくぜーーーー!!!!!」

そう叫んで、ベルナデッタと共に南の方へ消えていった。



ちゃんと返しに来いよ、マサト。





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