9月某日

 どうして――。

 どうして何もかもうまくいかないの。

 私の何がいけないの。

 アプローチもした。努力もした。それでもうまくいかないから、素っ気なくしてもみた。全部ダメ。アキラさんの私への態度は、出会ったときからずっと変わらない。

 そのくせあんなバイトには愛想良くして。信じられない。大学生の男なんて不潔に決まってるのに。

 それに――。


 昨日、仕事終わり、またアキラさんがあの不細工なチビと一緒に歩いているところを見てしまった。

 はらわたが煮えくり返りそうだった。あんな汚い生き物より私が劣っているっていうの!?

 どう考えても私のほうが、若くて、可愛くて、綺麗で、アキラさんに似合っているのに。


 こんなのおかしい。何か間違ってる。

 アキラさんは、本当は私の事が好きなはずなのに。


 だって、私に「いつもありがとう」と言ってくれた!

 ――他の店員にも同じことを言うじゃないか。

 でも、私のことを覚えてくれて、変化に気付いてくれた!

 ――お前以外のことも覚えていたじゃないか。


 アキラさんが私を好きな根拠をひとつ挙げる度、どこからかそれを否定する声がする。

 うるさいうるさいうるさい!

 私は目をギュッと閉じて、瞼の裏にアキラさんの綺麗な笑顔を映し出す。

 その唇がゆっくり動く。

 に、あ、っ、て、ま、す、ね――


 そう、アキラさんのは私に「似合ってますね」って、「素敵ですね」って言ってくれたんだ!!

 それは、私だけに向けられた、私が特別という証なんだ!!


 もう声は聞こえなかった。

 その代わりに、アキラさんの声がする。

 瞼の裏のアキラさんが私に微笑みかけてくる。

 ――似合ってますね

 ――素敵ですね

 ――可愛い

 ――好きだよ


 アキラさんはきっとそう言ってくれる。だって私は特別だから。

 明日、アキラさんに告白しよう。仕事は休んで、会社から出てくるところを待ち伏せしよう。

 ああ、ついに明日、私たちは結ばれる。

 アキラさん。

 アキラさんアキラさんアキラさんアキラさんアキラさんアキラさんアキラさん


 アキラさん――

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