第11話 愛の弾丸④

***


 あれからしばらくして、私たちはお城の中に戻った。

 キラの部屋で私達は無言で紅茶を飲む。何もないのにドキドキするのは、きっとキラといるからではない。ああ。本当不安で不安でしょうがない。


「顔色が悪いよ、ローザ。横になってたら」

「ありがとう、キラ。でも私なんだか凄くソワソワしてしょがないの」

「僕がそばにいるから、大丈夫だからね」


 キラが不安がる私の手を握りしめてくれた。


「うん……」


 暖かい。心が穏やかになる。


 ああ。私本当キラが好き。大好き。

 私が思わず微笑んだ時だった。

 ドンガラガッシャン!!

 嫌な音がした。


「うわああああ!! 化け物!!」

「魔物が出たぞー!」

「! やっぱり来た」


 私は立ち上がる。どうにかしないと。


「僕、警備を強化するようにお願いしたんだけどな」

「やっぱり聞いてもらえなかったのね」

「そうみたいだね……」


 予想通りすぎて呆れる。ため息すら出ないレベルに。

 ガシャン!! ドカン!! 


 何かが割れる音や倒れる音が聞こえる。

 私は魔力を体の中で整える。キラも今は少しは自分の魔力を使えるようになった。もしかしたらレイフ王子より魔力を使いこなせていて、強いかもしれない。だってレイフ王子、女の子と遊んでばっかりだし。


「行くよキラ。皆を助けに行かないと」

「そうだね。ローザ」


 私たちは部屋の扉を開ける


 すると。


「うわっ」


 そこには逃げ回るレイフ王子がいた。

 で、私たちを見つけると。


「おい! キラ兄様!! 俺を助けろ!! 俺が後継なんだぞ!!」


 私たちは無言で扉を閉めた。


「レイフ王子が面倒くさいし転移魔法で行こうか。キラ」

「凄い!! そんなの使えるの、ローザ」

「一応ね。簡素なものならできるわ。お城から外ぐらいなら」


 ふたりで長距離はさすがに無理だけど……。でも物を飛ばすくらいなら別。結構遠くに飛ばせる。ある程度のジャンルの初歩魔法は私は全部使えるのよね。エッヘン。自分磨きとか食事以外の空いた時間全部魔法の勉強に捧げてきたもの、当然よ!


「さすがローザ! 聖女だね!」

「聖女なんて肩書きなんて正直関係ないよ。努力で手に入れた魔法だから」

「あ、ごめん」

「ううん。気にしてないから大丈夫」


 私がもし、聖女と言われても本当に聖女になれなかったとしても。きっと今と変わらずキラといるために何かしてただろう。だって私はキラが好きだから。キラがいずれ生贄になると聞いて何もせずにしてられる性格じゃないから。


 周りになんて言われようが私はキラが好きで、キラと幸せになりたいんだもの。ダメって言っても聞きません。無理です。


「いけ、転移魔法! ほら、キラ。私に捕まってて」

「え。そんな事したら魔力も」


 言いたいことはわかる。触れればキラの魔力が私に流れ込むって言いたいんだろう。


「それは私が全力で吸うし、問題ないから早く!」


 本当は触れるだけでドキドキして恥ずかしいけど、そんな事今は考えてる場合じゃ

ない。

 無視! さあ。行くわよ。


「はいっ」


 ビュン!! 私達は飛んだ。


***


「痛い、痛い……」

「怖かった。でかい狼みたいなやつがいた」

「はあ。逃げていってくれてよかった」


 お城の前はボロボロだった。

 草木が剥がれるようになっているし、怪我人もいる様子だった。

 しかし、もう魔物はそこにはいなかった。


「怪我してる。大丈夫? 見せて?」

「あ、はい」


 そこにいる兵士の傷を私は光の魔法で治癒していく。


「え……嘘」

「聖女様がいるって本当だったんだ」

「すげぇ」


 あちらこちらで白くパァアアッと眩しく光るたび治っていく傷口に皆呆然としている。


 光魔法は正直魔力の消費が激しい。けども、私にはキラがいる。先ほどキラから吸った魔力が大量にあるので、全然平気で光魔法を使えるのだった。


「ふぅ……これで怪我人は全員かしら? もう大丈夫ね?」


 私の言葉に皆は土下座する。


「あわわ。そんな土下座なんていいのよ」

「いいえ! ありがとうございます! 聖女様」

「なんとお礼を言っていいのやら」

「おかげで跡も残らず、傷がなかったみたいです」

「感謝感謝です! 女神様―!!」

「女神じゃなくて聖女ですけど」


 私は照れ笑いを浮かべる。でも、皆無事でよかった。どうやらお城周辺だけの騒動で、村人は無事だったみたい。


 だからすぐ騎士団や兵士が動いてどうにかしてくれたんだって。素敵ね。どっかの

レイフ王子とは大違い! 当然、王様や王妃様も何も指示もしないで隠れたっきりよ。卑怯なの!


 ちなみにキラはガーゼなどをお城から持ってきてくれたり、軽い魔法で消毒の水を出してくれたりした。何にもしてないわけではないのである。

 途中キラは優しい言葉を皆に書けたり、お水を飲ませたり……私ができない気遣いをしてくれた。さすがキラだ。そういうとこ、好きー!!


 私がひとりでテンションを爆上げしてると、キラが私をふんわりと大きな手で撫でてくれた。あー。やっぱり好きー!!!! 大好きー!!!!


「とりあえず、情報を集めると。魔物は大きな狼が多かった。よくわからない化け物もいた、のよね?」

「はい、女神様。何かが飛んでるようにも見えました」

「何かが」

「降りては来なかったので正体は不明ですが、大きな翼を持っていました」

「なるほど、魔物が沢山いたのね。怖いわね」

「聖女様、お願いします! 助けてください!」

「どうか! 聖女様」

「うーん……」


 これは、どうしたら。私にとっても初めての経験すぎて、ピッタリな対応方法がわからない。

 魔女の力? 生贄を早く出さなかったから? うーん。多分違う。あえていうなら魔界だから魔王かしら。魔王の命令で、ってよりはこれはなんか独断な気がする。特にこの国は魔王に恨み買うことやってないはずだし。


 そりゃあ村人には恨みを大量に買ってるだろうけど……村人に魔界に通じる人間はきっといないだろうし。いたらビックリだけど。


 そういえば。何かから解放された気配がある。

 もしかして。


「ローザ? どこに?」

「ちょっとお城から出てみようかなって」

「でも、僕達にはお城から出れないように呪いが」

「出れたわ」


 まさかのあっさり出れちゃったわ。


「え?」


 きょとんとするキラ。まあ、無理もないわね。


「呪いがさっきの騒動で壊れて、私達街へ出られるわよ。キラ」


 嘘ぉ!?


 そんなバカな。


「えええ!? どさくさに!?」


 あっけなさすぎる。どんな適当な呪いなのよ、全くもう。

 私は少し浮かれながらお城の入り口を出たり入ったりしてみる。兵士達もさっき助けたものだから誰も止めない。


「ローザ。とりあえず危ないからお城に戻るよ」

「はあい、キラ」


 瓦礫だらけだもんね。お城の前。めちゃくちゃ荒れてる。

 今は兵士の皆が綺麗にしてる途中。正直私達は邪魔でしかないだろう。うん。

 当然良いこの私は大人しく室内に戻りますよーだ。


「でも。これ以上魔物が来ないといいんだけどね。ローザ」

「本当に。懲り懲りよ。これじゃあ仲良くキラとデートができないじゃないの」

「ローザ……」

「冗談よ。本音ではあるけども。平和な日々が一番だと思うわ。本当」

「そうだね。でもさ、なんか嫌な予感しかしないね。この国に魔物が来たのなんか大昔の噂以外初めてだよ。正直凄く怖い」

「私も怖いわ。でもキラがいるもの」

「ローザ」


 私の言葉にキラが不安そうに見てくる。


「何もしなくても、いるだけでキラは私の力なのだから」

「それは、魔力的な意味で?」

「まさか。精神的な意味よ」

「僕も戦力になれるよう頑張るよ。ローザ」

「ありがとう。みんなでこの国を守っていきましょう」

「うん」


 そう。私たちは運命の聖女とこの国の第一王子なのだから。

 きっと大丈夫。


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