第10話 愛の弾丸③
***
楽しい楽しい毎日は、あっという間に過ぎていく。
「ローザ先生―ここ教えてー」
「はいはい、今行くわ」
「キラ先生もマナーもっと教えて。わたし素敵なレディになるのよ。そしてカッコいい男の子っに好きって言ってもらうの!」
「そうだね。頑張ろうね。君ならできるよ!」
生徒の子供達は私達が作った教科書を開き、みんなで唸りあったりマナーを覚えたりする。
筆記用具も用意して、ちゃんとノートも取って実技だって頑張ってる。さっきは、とある子が水を手から出したのよ! 凄くない? この前はキラが教えた少し簡単な社交ダンスも踊っていて、可愛かったわ。
「次はこれ教えてよ、ローザ先生」
「わかったわかった」
「先生! 先生! 先生!!」
「はいはい」
「先生、大好きー!」
私はローザ姫という呼び方を辞めさせて(さすがに恥ずかしすぎるもの!)、先生というあだ名をつけさせる事にした。これも悪ふざけだったんだけど、なんだかとても気持ちいい。ちょっと調子に乗ってしまいそう。
子供のたちの服装は今もボロボロだけど、さすがに服装を変えると家族に私達の存在がバレてしまうから、申し訳ないけど何もできないのよね。はあ。お風呂に入らせることも同じ理由で無理。
私達ができるのは知恵を付けさせる事や常識を教えるぐらい。正直私も常識がなかったから、キラのおかげで賢くなれたのよ。そういう意味で子供達には大感謝してる。私も結局は叩き上げの聖女だから、王族が習うようなマナーは何も知らないから。
それにしてもキラはマナーをしっかり知っていてカッコいいわ。惚れ直しちゃう。
歩き方や紅茶の淹れ方ひとつが全然私達と違うんだもの。すぐ見惚れちゃう。
「ねぇねぇ、キラ先生ってローザ先生が一番好きなんでしょう?」
「そうだよ。大好きだよ。世界で一番愛してるよ」
私は顔を熱くして押し黙る。キラは当然という顔をして発言をした女の子を撫でた。
すると女の子は少し不満そうにキラを見る。そしてモジモジする。少し不貞腐れた感じに頬を膨らませた女の子。泣きそうだ。
あらら? これは……? なんだか嫌な予感。
「キラ先生。わたしキラ先生のお嫁さんになりたいな」
「それは無理だよ。僕にはローザがいるからね」
即答だった。
満面の笑顔で、キラは言い切った。私は恥ずかしさを感じる前に呆気に取られてキラを見た。
「そうだよね。ローザ。ローサは僕のお嫁さんだもんね」
「え、あ」
「違うの?」
「そうだけど! そこは一応おプラートに包むとか」
「なんで? 僕はローザが意外に求愛されても困るだけだよ。だってローザ以外眼中にないんだから」
真顔でキラは子供達の前で言い切るので私は恥ずかしさがやっとやって来てその場にへたり込む。あああ。嬉しい。嬉しいけど、死ぬほど恥ずかしいよキラ。
子供達、明らかにニヤニヤしてるし。そうだよねぇ、そうなるよねぇ。
私が子供達でも居心地悪くなるかニヤつくわ。
「ローザは? 僕しか興味ないよね? ね?」
「そ、そうだけど!」
「僕だけ宣言してなんだか寂しいなー」
「! 私もキラが世界一大好きで、キラのお嫁さんになるために聖女になったけど!」
「うん。知ってるけど、最近言わなくなって寂しくなったなって」
「キラの意地悪―!」
全くもう。絶対今の私真っ赤だ。はあ。キラも赤いけど、なんなのこの晒し者状態……。
どうせ私達はバカップルですよ。ふん。両思いですよっ。ふんっ。
そう思うと私までニヤケそうになる。ダメ。こうやっていちゃつけるのが本当は嬉しくてたまらないのは、仕方がないよね。ずっと私はキラとこうなりたかったんだもん。
でも子供達の視線が痛いよ。
「先生達、ラブラブー」
「イチャイチャしないでぼく達に早くもっと勉強教えてよー」
子供達は教科書を持って不服を言い立てる。
ごもっともである。今はデート中ではないのだから、子供達にちゃんと勉強を教えないと。私達は子供達の先生であり、見本なのだから。
「今日は新しい魔法を教えるよー!」
「わーい、ローザ先生待ってました!」
皆で和やかに勉強するのは本当に幸せで。
「あ、ピピだ!」
「にゃあん」
「可愛い白猫ちゃん、にゃーん」
ピピもこの学校もどきの生徒みたいなものだ。しょっちゅう顔を出してくる。
「こら、皆ピピに気を取られない。魔法の勉強」
「えー。ピピとも遊びたいよぉ」
気持ちは凄くわかるけど!
ピピ可愛いもん。
「授業が終わったらね!」
「はぁい。ローザ先生」
「にゃああん」
はいはい。いいお返事ですこと。
私はニコニコ笑顔で魔法の授業を始めた。
***
ある日。その日は朝から何だか嫌な予感がした。
「皆ごめん。先生達ちょっと用事ができたからまた今度ね」
「えー。残念」
「お願い、帰って」
本能だった。ここに今、生徒を置いておくべきじゃないと思った。
「わかったよぉ」
「先生さようならー」
渋々生徒達は従ってくれて、私はホッとした。
キラは自体が飲み込めてなくて、不思議そに私の動きを窺っていた。
「はい。さようなら。皆」
私はその日、魔法の授業を切り上げて、皆を街へ帰した。
皆が見えなくなって、私はホッとする。キラがやっと私の方へ寄ってきた。
「何かあったの? ローザ」
「魔力的な感じの変な感じがすごいするの。何だろう。不吉な感じ」
ゾワリと寒気がする感じ。何だか凄く気持ち悪い。
「それってローザの聖女的な本能的なやつ?」
「多分、それもあると思うけど、もっと具体的に魔物の気配とか、血の匂いがする」
私にしか聞こえない遠くからの唸り声とかもある。
さすがに人間の言葉は混ざってないので、戦争にはならないとは思うけども。
「それって騎士団やお父様達にも一応伝えたほうがいいんじゃ」
できる限り国にも対策してもらいたい、というキラの気持ちは私もわかるけど。
「多分、誰もわからないレベルだから、理解してもらえるかなぁ」
「うーん。うちの騎士団の魔力はあんまり高くないから。レイフですらどうだか」
確かにレイフ王子って口ほど魔力高くないんだよなぁ。それでもこの国の中ではだいぶ上の方の魔力って事で、色々お察しくださいって感じ。それは正直魔力に対しての教育が緩いからってのは絶対ある。だからこそ、魔法の勉強はもっとしっかり誰でも受けれるようになるべき。
かつ騎士団も武力は高いみたいだけど……それだけって印象。気性は荒いメンバーが揃ってて好戦的だとは聞いたけどね。この前見かけた時はちょっと怖い雰囲気を感じたわ。体格は正直あまり恵まれてなくて、やっぱり王族だけが裕福な生活をしてるのではと思った。ここ、使用人も貧弱って言ったら悪いけど、あまり健康的な外見をしていないのよね……きっと最低限のご飯もあたっていないんじゃってレベル。可哀想に。
「何もないといいけど……」
キラはボソリと呟いた。
本当に。
「平和なまま、そして無事生贄のふりをして皆を助けられますように」
私は願うように言った。
どうか、どうか。神様お願いします。
一部を除き、国民は健気に生きてます。いい子です。だから、助けてください。いじめないでください。本当に心からお願いします。
しかし、その希望は悲惨にも打ち砕かれてしまうのである。
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