第9話 愛の弾丸②
***
あれからも私達は図書館に通ったり、バラ園に行ったりしている。ちなみに今日はかなり天気がいいので、庭でのんびり日向ぼっこしているところだ。あー。ぽかぽかしていて凄く気持ちいい。私は大きな木の下で、のんびり読書するキラに寄りかかりご機嫌になる。
私達は自ずと生贄になる事に決めた。だからもう、あとはなるようになるのを待つしかない。王様達の浪費を眺めながら、時にそれを邪魔しつつ、お城を掃除する手伝いをしたり、勉強をふたりでしたり。大体そんな日々だ。
一緒にバラの手入れをキラとした時は蜂に刺されかけてアタフタした。けど。こんな風にしていていいのかという罪悪感は正直凄くある。でも、こうするしかないんだよなぁ、これ以上は何もできない。
「あっ、入っちゃった」
「どうしよう、お城……」
そんな声が聞こえて顔を私達があげると、そこには青いボールが転がっていた。
奥の方を見てみると、小さな子供が数人隠れている。怒られると思っているのだろう、怯えた表情だ。
「ご、ごめんなさい」
「わざとじゃないんですっ」
震える声で子供達が言う。キラは本を置いて立ち上がりボールを手にした。
「おいで、一緒に遊ぼう」
「!? 王子様!? だよね!? じゃないですよね!?」
「そうだよ、僕はキラージュ。王子だけど、気にしないでいいよ。ね、ローザ」
「う、うん」
一応そう言うものの、逆の立場なら絶対気にする。無理。
子供達は青ざめた表情でこちらを見てる。ですよねぇ。
「おいで、クッキーもあるから」
「クッキー!」
そういえばさっきもパティシエが作ったクッキー、持ってきてたっけ。
プレーンに紅茶味にチョコレート味。色々あって美味しいんだよなあ、これ。
ミルクティーもあるし、あとでゆっくり味わおうと思ってたやつだ。子供達、嬉しそうだしミルクティーもあげようかな?
「お茶もあるわよ。ミルクティー、飲める?」
「飲めます!」
「わあいわああい」
大はしゃぎの子供達の前に、お皿の上にクッキーなどを置いていく。
皆に近くで手を洗うよう指示して、近くに座ってもらう。
ガツガツとクッキーとミルクティーを食べる子供達。
「美味しい! 美味しい!」
「んー、おかわり!!」
「甘―いっ」
可愛いなあ。無邪気だなあ。和むなあ。
私は子供達を見て思わず口元が緩くなる。
キラも私も、自分はミルクティーのみで、もう完全にクッキーを食べる気がない。
お腹が空いていたのか、子供達の手は止まらない。
よく見れば涙目になってる子すらいる。
それにしても。皆服がボロボロだ。多分お風呂も入れてない。
「久しぶりにこんなに食べた! ありがとう王子様!」
「ううん。むしろごめんね」
「なんで王子様が謝るの?」
「むしろありがとうだよ。美味しいクッキーくれたもん」
「ミルクティーも。だからありがとうだよね」
「ねー」
子供達は可愛らしく主張する。
キラは切ない顔をして子供達を屈んで見つめた。
「僕達が本当は国民を幸せにしなきゃいけないのに、いつかちゃんといつでもお腹いっぱいご飯やお菓子を食べれる国に変えてみせるからね」
それは決意に満ちた声だった。
表情もいつもの柔和なソレとは全然違った。
私はかなりドキリとして胸が締め付けられるようだった。
「? ありがとう、王子様、大好き!」
「このお姉さんはお姫様なんでしょう? お姫様も、ありがとう。大好き!」
「え、私は、お姫様じゃ」
私がワタワタしていると。
「そうだよ、僕の大切なお姫様だよ。よろしくね」
「キラ!?」
キラが私の肩を抱いて宣言してしまった……。あああああ。恥ずかしい!!
子供達、拍手喝采。やめてぇ。恥ずかしいってば!!
「お姫様はローザ、僕はキラって言うんだよ」
「ローザ姫、キラ王子?」
「そうそう」
だからやめてってば! キラ! 暴走しないで!?
私、恥ずかし死ぬ!!
「ローザはすごいんだよ。聖女でね、魔法がすごく使えるんだ」
「そうなの!? キラ王子。魔法って難しいんでしょ? あたしも使えるかな」
子供の中のひとりがとても不安げに言った。綺麗なまっすぐな黒髪の小柄な女の子。どこか異国の雰囲気を漂わせて、少し子綺麗な服を着た彼女はこの集団から浮いている。
他の子供達も興味津々に私を見ている。視線が痛いレベル。
キラはニコッと笑う。
「ここでこれから皆でたまに遊んだり勉強会をしようか」
「勉強会! いいの! ボク達、そう言うの憧れてたんだ」
「でもお金ないし、本も買えなくて」
「大丈夫だよ。王子様の僕が本を用意するから」
「さすが王子様! カッコいい」
「ありがとう。そんな事ないよ。みんなを助けれもしない王子様なんて……」
子供の達の言葉に沈む声色でキラは言った。子供達は気づかないままハイテンションではしゃいでいる。私は微笑ましいと思いつつ胸が痛くなった。
この子達、よく見れば怪我も治療しないまま放置したようなあとがある。もう魔法で傷跡が消えないぐらい古いものだから、どうにもできないけど……凄く痛々しい。私の村では傷の治療ぐらいはできたから、きっと子供達はもっと貧乏な場所から来たのだろう。
「もし、何かあったら『キラ王子に呼ばれて用事があって来てる』って言ってね。僕が守ってあげるからね」
「うん! わかった!」
「ありがとうキラ王子!」
ピョンピョン跳ねる子供達。気が付けばクッキーのお皿は空っぽだった。
「ごちそうさまでした! キラ王子、ローザ姫」
「お勉強回楽しみ!」
「ねー」
「でもね。僕からのお願いなんだけど、皆聞けるかな?」
「なあにー?」
「聞きまーす」
キラは少し寂しげな笑顔でみんなを見た。
そして深呼吸すると、
「大人にはこのことは内緒だよ」
と言った。
「はあい!」
「わかりました、キラ王子!」
「僕とローザと皆との約束」
キラは力強く言った。
すると子供達は笑顔で頷いた。そしてしっかりとした約束の握手をキラとする。
「はい!」
「約束するー! 楽しみー!」
「また来るねー。キラ王子。ローザ姫―」
「バイバイー」
よく見ればもう日が暮れそうだ。子供は家に帰る時間である。
「はい、またね。皆」
キラもお兄さんらしい笑顔で子供達を見送る。と言うか、お城に人が入れる裏口ってあったんだなって子供達が出ていった先を見て思った。単に警備がガバガバなだけなのかもしれないけど。この国なら余裕であり得る。
「ありがとうございましたー!!」
周りに声が聞こえることを気にもしないまま、子供達は騒ぐ。それでも警備は飛んでこない。いいのかな、それで。
ドタバタと子供達は消えていった後、私とキラは見つめあって笑った。なんて幸せな一日だったんだろう。子供達、可愛かったなあ。何よりキラがすごく輝いていた。イキイキしていた。
こうして。
その日から、私たちは子供達に勉強や魔法を教えてあげるようになった。
「ここ教えてーローザ姫」
「はいはい。キラ、他の子にはこのマナーを教えれないかしら」
「いいね、ローザ。二班に別れよう。魔法とマナー、交代で指導しようか」
私とキラは、本や用意したノートを見て考えながら言った。
時計を見て決めた数時間ごとのスケジュールだとか、一日にやる上限だとか、そう言うのも決めた。締め切りはないにしろ、計画ある方が一日に詰め込みすぎなくていいかなって思ったのだ。
「ボクはどっちもやりたい!」
「あたしもー!」
子供達は大はしゃぎで手を上げる。
私とキラは苦笑い。
「どっちも全員やるか安心して!」
「やったー!!」
「わああああい」
「勉強頑張ったらお菓子だからね!」
「はあい!」
雨の日は休みで、晴れの日だけの楽しい楽しい勉強会。教える側も復習になって、すごくやりがいを感じる。
たまに暇を持て余してはパティシエに止められながら(理由は誤魔化す!)お菓子を手作りして差し入れしたり、多めに食べ物を用意して、にぎやかに行われたソレはよくわからないけど、まるで小さな学校のようだと私は思った。幸せだった。
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