第8話 愛の弾丸①
図書館の中でキラが開いていた古びた本。
そこに書かれていたのは……。
「生贄は意味ない? 魔女との約束程度でしかないし絶対的な効果はない!? だって!? 今までの伝説はデタラメ!? って嘘ぉ!? そんなのキラや私が生贄になる意味ないじゃん」
「そうなんだよね。ローザ。しかもこの本には今までの嘘のはっきりとした証拠も載ってるんだよね、この本」
「どこに合ったのこの本!」
私の手はワナワナと震えた。
「隅っこに隠れるように合ったよ……埃かぶってたレベルに」
それは最悪。絶対適当につまみ読みしたよね。王様達。
生贄ぐらい大事な事をするならもっと真剣に文献探して勉強して欲しいんだけど!?
「王様達にこの本を見せに行こうよ!」
私はキラから本を奪って立ち上がる。
けど、キラは頭を横に振った。そしてため息を吐く。
「著名な研究者や作者じゃないし、誰も多分信じないよ。そもそも父様達は僕を追い出したいだけってのもあるから」
「そんな! 酷いよ王様達!」
「父様達は自分が正しいと思ってるから、話し合いにならない気がする」
最近キラが王様たちに辛辣だ。まあ、無理もないよね。そう思われるような事を王様達はキラにしてきたのだ。王様達が悪い。
「確かにそれはそうだけど!」
「それよりも、最近は税金の無駄遣いがひどい。僕たちも使ってるには使ってるけど、それを嗜めようとすると咎められる始末だ」
「確かに、最低限の服でいいって言っても派手なドレスを出してくるわね、このお城」
「国民達が困ってるというのに、僕達だけがこんな風にしていていいものか」
「それは」
「僕が自分から生贄として魔女の元へ行き、この環境を変えれないだろうか」
「私も、それがしたい」
「ただ魔女の逆鱗に触れてしまえば全ては台無し、この国も消えるだろうけど。頑張ろう。ローザ」
「うん」
「そしてこの国を変えて見せよう」
出来るなら。
そうするほうが私もいいと思う。
魔女がどんな人なのかは知らないけど、外部の人だから少しは刺激をくれるかもしれない。魔女=悪人なんて決まりはないわけで。うんうん。もしかしたら凄い優しい人かもしれない。きっと伝説になるぐらいだしずば抜けて頭はいいんじゃないんだろうか。
少なくとも、きっと私達の知らない知識は持ってるだろう。
「この国の王族のやってる事はもう、国民に噂になってるみたいだし」
「確かにレイフ王子が遊び歩いてる分、皆が知っていたわ」
「とにかく、この国の民を救わないと。僕達王族のせいで苦労させ続けていて申し訳ない」
「キラは優しいのね。他の王族は誰もそう思っていないのに」
それどころか平民の私をかなり見下してるわ。
きっと対等な人間とすら一切思ってない感じね。自分は神様で私はゴキブリか何かぐらい格差があると勘違いしてそうだわ。
そりゃあ知識量とかは王族の方が勉強できてるからあるだろうけど、それだけなのに。
むしろ遊んでるだけで勉強してないんじゃないの? レイフ王子は。
いつも華やかな女の子のそばに偉そうに威張っているって聞いたわよ。
「誰のおかげで国があると思う? 僕達じゃない。国民だよ」
苛立ち気味にキラが言った。
「そうだけど、それもあの三人は分かってない感じだわ」
毎日見た事ない服着て、食事は当然残すし。
キラは一応毎日違う服だけど、新しい服ではなく着古したものを着ているのに。
本当、贅沢な人達!!
「レイフは豪遊大好きで勉強嫌いだし父様も母様も派手好きで深く考えないから、すぐ宝石商に騙されたりしてるし、僕が調べて偽物だっていうとキレ散らかすし……本当困ったもんだよ」
まさに浪費そのものね。
そのお金で税金を減らすなり、何か食糧でも配布してくれればいいのに。
あとは学校を立てるとか。他の国は学校ってものがあるって聞いたことがあるのに、この国にはないのよね。不思議。皆で集まって一緒に勉強できる学舎私も行きたかったなあ。お金はかかるみたいだけど。
魔法だけじゃなく教養や料理も学べればいいんだけど。はーあ。国が建てなきや誰が立てるの、それ。平民だけじゃ無理よ。無理無理。
「昔はレイフも甘えん坊で素直な子だったんだよ。お兄様、お兄様って可愛かったなぁー。はあ」
「だからこそ、ああなったのかもしれないわね」
想像は容易いけど、あの両親と周りじゃ、のびのび育ち過ぎればこうなるわよね。
きっと甘やかしまくったんだろうなあ。いや、きっとっていうより絶対か。
「そうだね。いつかレイフも気づいてくれると嬉しいんだけど」
「気づくかなぁ……?」
さすがにもう無理なんじゃないかな。
プライドが育ちすぎているというか、うん。
「とにかく、早くこの国を平和な国にしたいよ、僕は」
疲れ気味にキラは言う。
…………。
「さすが。やっぱりキラはこの国の王子様ね」
「そんな事」
「あるわ。立派に第一王子の考え方よ」
本当。国民思いの王子様だこと。惚れ直すわ。
暖かな風が吹いてカーテンがフワリと揺れる。ああ、そろそろ外がオレンジ色になってきた。お城の外が良く見える窓を見て私は少し穏やかになる。
もう少ししたら夕飯に探される頃だろう。今日も無駄に豪華な食事なんだろうなあ。
「他にも本を探そうか、ローザ」
キラが先ほどの文献を閉じて言った。
「そうね。もう少しぐらいなら大丈夫だろうし……まだ気になる文献があるかもしれないし。高いところとか端っことか」
「頑張ろう。ローザ。僕達だけでもこの国をよくしていけるように諦めずに行こう!」
「うん。キラ」
「そしていつか結婚しよう」
「うん。キラ。……ってえ?」
今、何て?
……結婚!?
結婚って行った!? けけけけけけ結婚!?
「ダメかな」
「ダメじゃないけど!!」
ええええええええええ!?
私は口から泡を吹きそうになる。
でも!!
キラは王子様なわけで。
つまりはそれって。
私、私。
心の準備が……!!
「返事はいらないよ。でも考えておいて」
「…………」
嬉しすぎて言葉にならない。無理。
「一緒にいるうちに思ったんだ。一生懸命で優しくていい子だなって」
「え」
「僕はそんなローザが大好きだから」
「それは私も! 大好きだよ、キラ」
私は早口に捲し立てた。
キラは吹き出しそうになって笑う。
「僕の事を大好きってはっきり今聞けただけ、嬉しいよ。ローザ」
「キラが大好きだから聖女になったんだよ! 前も言ったじゃん」
「でもそれは、僕をよく知らないから言える言葉かなって思ってて。実際はこんな腰抜けのダメな王子だから」
確かにほぼ一目惚れではあったけども!
「キラは素敵だよ! 優しいし、国のことをよく考えてるし、いざとなった時はカッコいいし」
今の私は、あの時以上にキラを愛してる。大好きだ。
知れば知るほど、私はキラが好きになっていく。夢中になっていく。
「ありがとう。嬉しいよ。ローザ」
チュ。
「!? キラ!?」
おでこに軽く口付けれて私の中にキラの魔力が流れ込んでくる。
この暖かな魔力は、前よりも熱くねっとりとしたものに感じられた。
まるでふたりの気持ちが濃くなったからなんじゃって思うぐらい濃厚な感じだ。
「クスッ。大好きだよ、ローザ。ほら、早く本を探さないとお昼の迎えに使用人が来るよ」
「う、うん! 頑張って探す! 少しでも多くの文献を見つけたいからね!」
時計を見るともう結構な時間だ。お腹も空いてきた。
「頑張ろう! ローザ。僕、もう少し奥の方の本棚を見て来るね。しばらくしたら戻るから」
私にそう言って遠くの本棚の奥へ消えたキラの耳は真っ赤に染まっていた。
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