第5話 抱きしめて抱きしめて②
***
「キラ兄様は本当に出来損ないで、俺と違ってすぐ具合を悪くするんだ。見た目も貧弱だし、体力もない。あんなやつこの国をつげるわけがない」
「え、そんな事「本当に恥ずかしい兄だ!」」
「…………」
恥ずかしいのは兄の事を初対面の私に悪く言うお前だよ。
そんな気持ちを抑えながら私はレイフ王子と歩いていた。背の高いレイフは足が早く追いかけるので背いっぱいで早足になるしかない。なので、まともな会話が成り立たない。聞いているだけで一杯一杯だ。
「それに対して俺は優しくて女にもモテる。そんな俺と話せて光栄だと思え! 平民よ」
平民。私の名前はローザ・ルーンですけど? 娘、ですらなく平民。なんだその呼び方。
呆れた顔で私はレイフの後を追う。けどもレイフ王子は足を止めない。ついでに口も止めない。
「俺は魔力も強い。才能もある、そして顔もいい。最高だろう」
「はあ」
やっと返事が出来た。
私はかなり息が上がっている。本当に足早すぎるってば、レイフ王子。
「あっ」
「何をするんだ! 平民の癖に俺にふれるな!」
レイフ王子を追いかけて転びかける私。レイフ王子に寄りかかりそうになり……突き飛ばされかけて……。
「ローザ!」
キラの声がして、
バシュンッ。何か重みのある眩しいものが飛んできた。魔力の塊っぽかった。
それにぶつかったレイフ王子の手は少し赤くなっていた。
「ローザに酷いことをするな!」
「キラ! 今のキラが……!?」
すごい勢いと力だったけど。
まだまだ操縦とか覚えないとやばそうだけど、ね。
「!? 僕、魔力を使って!?」
「ええ、今のは間違いなくキラの魔力だわ」
私はビックリしながら言った。この前吸った魔力と同じ感覚だ。
「キラ様が魔力を」
「大変だ! 王様に伝えないと!」
「王様―!!」
ざわつく周囲。
一方でレイフ王子は私の手が触れたところを払って綺麗にしている。
全くキラに興味がない様子だ。それどころか正直めんどくさそうにしている。
「キラ! 魔法を使ったって言うのは本当か!」
「お父様、そう見たいです!」
王様がやってきてキラをみて嬉しそうにした。
金髪巻毛の太った王様は、お腹をでっぷり揺らして笑う。若返って痩せてればキラによく似た美男子なんだろう。
キラもなんだか嬉しそう。けども。
「よかったな! キラ! これで生贄としてさらに箔がついた!」
「!?」
呆然とするキラ。無理もない、私も固まった。
後ろで大きな欠伸をするレイフ王子。ええええええ!?
あっけに取られている私を無視して、王様はニヤニヤしている。王妃様も気づけば隣にで同じ顔をしていた。
「あの、王様」
「なんだね、ローザ・ルーン嬢」
「王様は、キラの初めての魔法をおめでたいとか思わないんですか!?」
気がつけば、キラを王子と呼ぶのもやめてキラを呼び捨てにして王様に話しかけていた。
「この歳じゃ何も使えないだろう。まあ、先ほど使用人に聞いた感じだと、魔法でレイフに怪我がなくてよかったとは思うけどな」
まあ、レイフ王子に関しては確かに怪我がなくてよかったかもしれないけど……この国にとって初めての魔法は本来家族でお祝いするぐらい大事なことじゃん。確かに普通は一桁の年齢で発動するけれど……それにしたってそっけな過ぎる。
そもそもがキラの体調不良が治った事でも、もっと大はしゃぎしてもおかしくないはずなのに。だって家族でしょ? それも凄いそっけなかかった。きっとキラに興味も愛着もないのだろう。そう思うと切ない気持ちになった。
「王様はそんなにキラがお嫌いですか」
「無能だからな。王族にとって恥で金食い虫だと思うよ」
「身体が弱かったのはキラのせいではありません! 理由を探らなかった皆さんにも責任があります」
「探ってくれとは言わなかったから仕方がなかろう。昔は賢い子だったのに」
「今もキラは賢い優しい人です! なんで王様はそれがわからないのですか!」
「ローザ、いいから。僕は大丈夫だから」
「生意気だぞ、ローザ・ルーン嬢!」
王様が私を睨んだ時。
「お父様! ローザに酷いことを言うのはやめてください!」
「キラ!」
「わしに楯突く気か。キラ」
驚く私と、王様に、キラは頷いた。
「僕が無能かどうかはどうでもいいです。ただ、彼女に手を出すのはやめてください。僕の事をお父様達が嫌いでもいいんです」
「ああ。嫌いだよ。生贄にして早く処分してやりたいぐらいだ」
「王様!」
「いいんだよ、ローザ。僕なんか「キラも僕なんかって言うな!」」
「!?」
気がつけば、私はキラの口を塞いでいた。
キラも王様達もあっけに取られている。
「私にとってずっとキラは憧れで、大好きで、大事な男の子なんだ! 卑下しないで!」
「でも」
「そりゃあ私とキラは再開して少ししか経ってないけど、それでもたくさん知って行きたいと思うんだっ。支えたいと思うんだ!」
「ローザ……ありがとう」
そう。私な一目惚れが原因だとしても。
おかげで私は頑張れたし生きてこられたんだから。
まるでキラが生きる価値のないように言われたら腹が立つよ。
そこに、レルフ王子が歩み寄ってきた。
「ははは、女にフォローされてみっともないなキラ兄様!」
「レイフ」
キラは明らかに苦手そうにレイフを遠ざける。それを少し面白そうに、レイフはさらに歩み寄る。うわあ。性格悪い。
「所詮この世界は能力が全てだ。魔力もようやく使える程度しかなく根性もない、そんなキラ兄様に聖女と言われてるこの平民との結婚や後継は無理だ。釣り合わない」
高笑いをしてレイフは言った。
「そもそも、普通の生活すらもできてないのに王族にいる方がおかしいけどな! ハハハハ」
私は眉間に皺を寄せてレイフを睨む。キラは少し俯きがちだ。
「そうね。キラは生きている意味がわからないけど、殺す価値もないものね」
今度は王妃がそう言って笑った。
本当口と性格が悪いなあ、この王族達。
私が魔法で王族達を攻撃しようとすると、それに気づいたキラが首を横に振った。
「ダメ」
「キラ、でも私許せないっ!」
いくらなんでもこの態度や言い方は酷いよ。
キラは何も悪くないのに。
「そんな事、したらローザの立場が悪くなるよ」
「……でも」
「下手すれば犯罪者扱いで島流しだよ」
「それ、は」
困る。
私、どうすばいいの? キラの顔色も悪いし。
何か何か私にできる事はないかな。ああああ。
せっかく魔法が使えるのに、それでどうにかする方法が浮かばない。私、馬鹿だから。はあ。こんな時私に教養があればとか、関係ないことに思考がどんどん飛んでいく。
唇をかみしめて私が俯いていると。
「ああああああああああああああ!! 鬱陶しい!!」
レイフ王子が叫んだ。鼓膜が破れそうになり私はビクリとする。
使用人や兵士たちも笑ってる。
すると王様達もウムウムと頷いて笑い出す。
え? 何? 何??
「キラ兄様は早く生贄に出ていけばいいのに!」
「本当ね、早く国にとってもわたくし達にとっても、生まれて初めて役に立ってほしいわ。ウフフ、ねえ貴方」
「ワハハハハ。そうだな。王妃よ!」
「産まなきゃよかったわ、わたくし」
「確かに育てた時間が無駄だったなぁ、王妃よ」
「税金泥棒がすぎるよなぁ。キラ兄様は」
爆笑する王族三人。私はあっけに取られて三人をただただ見るしかできない。
「っ!」
キラが泣きそうな顔でしゃがみ込んだ。
そして。
「! 待って、キラ!」
キラはその場から逃げ出した。
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