第4話 抱きしめて抱きしめて①
一生キラを助ける方法を考える。体内に溜まった魔力は、本来自身が使うことで体外に排出される。けれど、キラは今の所指導を受けてないのもあり、魔法を使えないのだという。
「困った、そしてそろそろ追っ手に見つかっちゃう気もする」
いくら部屋の中とはいえ、キラの部屋を誰もが知らないわけがないだろうし。
まだ外でバタバタという音は時通り聞こえるし。多分今も追っ手達は諦めてないのだろう。
「大丈夫。僕も説得を手伝うから」
「いいの!? でもどうやって説得するの?」
なんか皆テンションが変だったよ!? まるで獲物を見つけたみたいに……ああああ。思い出すだけでゾッとするぐらい怖かった。
「もっと対策を考えるために、ちょっと時間稼ぎをまずしようかと。いくらなんでも出会ってすぐ婚約は無理なのは話せばわかるはずだよ」
「なるほど、確かに」
よく考えればいくら募集でとは言え、普通はもう少し相性を見たりしてから婚約者にするよね? 魔力だけで婚約者を決めるなんて、かなり変だよ。
「それに僕だって……」
「え?」
「何でもないよ」
「?」
キラ、さっき何か言おうとしなかった?
変なの。私は首を傾げる。
「そういえば、何か飲む? 冷蔵庫にアイスティーならあるけど」
「いいの? いただこうかしら」
さすがにここにきてから何も飲んでないから、喉が渇いた。
お水でもいいレベルに何か飲みたい。
さっき私がむせてたのを見て、それにキラは気づいてくれたのかもしれない。
「私も手伝う」
立ち上がり私はキラの近くにある食器棚を開けようとする。
けど。
「危ない!」
「きゃあ!」
私は転びかけてキラに抱き抱えられた。
顔が近い。近い。近い。
ドキッ、私は反射的に顔を熱くする。
その時だった。ズン、と魔力が私の中に入ってくる感覚があった。
キラはパチクリとして私を見る。
「なんか僕、急に体がちょっと楽になったんだけど」
実際キラの顔色は先ほどより幾分良い。なんか唇の色が少し色づいたような気もする。
「私も、何か体に力が少し入った感じがしたわ」
ホワホワ、って感じで体の中が暖かくなる感じがした!
まるで栄養を蓄えてるみたいな感じ。
「もしかして、ローザの力で僕のその魔力ってやつが抑えられたり吸われたりしたんじゃ」
「嘘!?」
「昔僕が読んだ文献で、聖女は他人の魔力の制御や吸収もできるってあったと思う」
「嘘。凄い!」
「相性はとても大事らしいから万能ではないけど、もしかして?」
その言葉に私は呆然とする。
もしかして、私達相性いいの!? そんな! 嬉しすぎる。
何より、私の力でキラの負担を軽減できるなんて。最高でしかないでしょう。
「まだ少しだるそうね。キラ」
「だいぶマシにはなったんだけど、完全に体が軽くはないね」
「実際、まだ魔力があちらこちらに漂ってるわ」
でも、どうやったらキラの魔力を抑えることができるのかしら。うーん。やっぱりこちらの強い思いを込めるしかないのだろうか。それとも。
「もしかして、光の魔力を意識しながら祈ればいけるかも」
直感だけど、光の魔力がキラの魔力を吸う、つまり扉を開ける。闇の魔力がこちら側から魔力を送る、蓋を閉める役割に使えるように感じた。もしかしたらどこかの文献で読んだ知識かもしれない。
確証はない。でも、試す価値はあると思う。
「やって見せて」
「うん」
私は差し出されたキラの手を握りしめる。
すると。
ブワッ。凄い力が私の身体の中に流れ込んできた。それでも、これが全てではないのが体感でわかる。魔力は生きてるから、きっとまたキラの中から沢山生まれてくるだろう。
体が一瞬痺れる。そして。
「はああ、はああ」
汗が止まらない。動悸も凄い。何これ。本当、何これ。
目の前がぐるぐると回る。なのに、身体はどこか心地良い不思議。
「ローザ、大丈夫?」
キラが心配そうに私に尋ねた。
「私が今吸えるキラの魔力は吸ったはず。キラ、どう?」
「生まれて今までないぐらい体調がいい気がするよ! 凄い。さすが聖女だね。ローザ」
「よ、よかった」
涙目になる私。ああ。うまく行って本当に良かった。
さっき以上に顔色のいいキラを見て思わずため息。
「そうだ。お父様達に説明しに行こう。僕の体調についても、婚約についても説得してみよう。策を練るよりまずはお願いだ」
キラはまるで子供のように無邪気にそう言った。
「そうね」
私はそう言ってご機嫌に部屋を出て、キラの後を追った。
***
王室に着くと。
「お父様、お母様。先程追いかけられていた婚約者候補のローザ・ルーン嬢を連れてきました」
はしゃぎ気味のキラは畳み掛けるようにそう王様に言った。
隣にはレイフ王子によく似た王様よりも背が高く美しい王妃様と不機嫌そうなレイフ王子が立っていた。レイフ王子は私を見て少し安堵したようにため息をついた。それを見て王様も満足げにこちらを見る。そして、
「なんだ、キラか。飯はさっき使用人が持って行っただろう。部屋に帰れ」
と言って鼻を鳴らした。
「話を聞いてください。僕の体調不良は自身の強すぎる魔力のせいだったんです」
「はあ? お前に魔力なんかないだろう。何嘘をついてるのだ。わしの気でも引きたいのか」
「そして今は元気になりました。原因である僕の力を制御してくれたのはローザです。ですから婚約は僕も候補に「そんな出鱈目興味ない。キラ。部屋に早く戻れ」」
「お父様!」
「まあローザ・ルーン嬢を捕まえたほうびに数日ぐらいは城の中を好きに歩いてもいいが……・外に一生出さんぞ。一族の恥が」
「…………」
無言になるキラ。
酷い。自分の息子にそんな言い方! いくら王様でも横暴よ!!
何より、魔力が全てなんて古い価値観すぎる。魔力より人間性とか、努力できるかとかじゃないの? そんなんだからレイフ王子がすごいワガママに育ってるって噂なんじゃん。
「そんなの酷いと思います!」
だから、私は耐えられなくてキラの前に立って叫んだ。
「ローザ!」
「私はキラージュ王子が好きです。昔救ってもらったからです。だから、キラージュ王子と結婚したいし、生贄をやめさせたくてここに来ました。絶対キラージュ王子と結ばれたいです」
「何をバカな事をほざいてるんだね。唐突すぎて意味がわからないね。ローザ・ルーン嬢」
王様は私の言葉を鼻で笑い、見下すように腕を組んだ。
まあ、唐突なのは事実だけど……。
「だから、聞いてください「そんな一般市民の妄言はどうでもいい」」
「!」
「キラ。お前は何をこの娘に吹き込んだんだ?」
「いえ、キラージュ王子は何もしてません「黙れ!」」
王様は叫ぶ。
「意味不明すぎてイライラする。まあ、いい。ローザ・ルーン嬢は城にとどまれ。まあ、最も城に呪いをかけておいたからしばらくは出られないけどな」
ふふんと王様は得意げに笑った。
「嘘」
なんて事。
「しばらくしたらわしの自慢の息子、レイフとローザ・ルーン嬢は話すがいい。すぐにメロメロになる事じゃろう。はははははは!!」
あっけに取られて固まる私。話が通じなさすぎて眩暈がするよ……。
「大丈夫。僕が君を守るから」
「キラ」
そんな私の肩をそっとキラは支えてくれた。
「僕も大好きだよ。ローザ。絶対結ばれようね」
「! キラ!」
王様は馬鹿でかい声で高笑いを続けているので、キラの声に誰かが気づくことはなかった。
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