第2話 私の未来の旦那様②

***


 あれからキラ王子についての情報はまるで村に入ってこない。だけど、私の聖女としての魔力はどんどん上がっている。光と闇の魔法が使えると言う聖女の証。強い魔力。そして勉強で鍛えた魔法の知識。うん。バッチリである。


 今も村ではひとりだけど、毎日元気に生きている。村長なき今、現村長は私に興味を示さない。まあ、変に嫌われるよりはマシだけど。

 そろそろ春が終わり始めてきた。夏が始まるのも遠くない。でも、もう少しこのここち良い気温のままで痛いと思う今日この頃。


「号外だー! 号外だー!!」


 村の情報家が叫んでいる。大きなメガネは曇って、手には紙を持っている。そして彼によりそれを貼られると掲示板の前に人だかりができている、何々?


「え……!?」


 嘘。嘘。嘘。


「王子様の婚約者募集!? 平民でも候補になれる!? ですってぇ!?」


 つまりは! 私でも応募OKって事じゃないの? そしてそこで審査中に聖女アピールすれば落ちても聖女としてお城に滞在できるんでは!? いや、そこは落ちちゃダメ。聖女兼憧れのキラ王子の婚約者になるの!!


 なんかもう一体何になりたいのかわからないけれど、とにかくキラ王子を助けれればそれでいいの。そしてでもやっぱり結婚したいの。

 ああああああ!! どうしよう。でもそれってお姫様、王妃様って事? 生贄じゃなくなったらキラ王子は後を継ぐんだよね? 本当頭が大混乱中。


「私、王子様の婚約者応募する! ねぇ、どうすれば応募できるの? 情報屋さん!!」

「プロフィールを書いた応募用紙をお城に送ればできるけど……あの、引っ張らないでくれるかな」


 私は情報屋の首を引っ張って詰め寄ってしまっていた。あわ。いけないいけない。


「その後お城にめぼしい淑女を集めてまとめて審査だって聞いたよ」

「お城に行けるのね! やったあああ!」

「ロ、ローザ。まだ受かったって決まったわけじゃ」


 う。そうなんだけどさ。

 この九年ずーっと願っていた最高のチャンス到来だもん。これがはしゃがずにられますか!!


「応募用紙、頂戴!」

 そして私は無事、書類審査に合格したのだった。


***


 私は今、馬車に揺られている。質素だけどしっかりした馬車の中で、ドキドキの気持ちでお城に向かっている。綺麗なドレスをお城の人が着せてくれてまるでお姫様な気分だ。ひまわり色の綺麗なふわっとしたドレス。真ん中に白い大きなリボンがついている。靴だって赤いヒールがおしゃれで、もう、たまらない。


 馬車の中には飲み物もフルーツも積んであって、いたせりつくせりだ。さっきブドウを食べたら甘くて瑞々しくて最高だったわ! アイスフルーツティーも美味しいし。マカロンという名前のお菓子もあった。すごく甘くてたまらなかったわ。


「はあ、楽しみぃ」


 当然心のテンションはMAXである。もう、こんなに幸せでいいのかな。でもこんな風に村人にも食べ物を振る舞ってくれればいいのに。みんな飢えてるんだよ。私だけこんなに贅沢な食べ物を食べていいのかなぁ。


「つきましたよ」


 そう案内人のおじさんに言われて私は馬車を降りる。目の前には夢にまで見たお城があった。

大輪の薔薇があちらこちらに咲き誇り、白いレンガは汚れ一つない。


「中にご案内します。まずは魔力の測定を。利き腕を差し出してください」

「? どうして?」


 疑問に思いつつ、私は素直に右腕を差し出す。白い怪しげな機会に私の腕を入れると。


「!? 機械が壊れた!」

「ご、ごめんなさい!!」


 ヤバい。やらかした。そう思ってると、使用人の偉そうな人に使用人の女性らしき人が何かを耳打ちをした。


「ローザ・ルーン様、中へ。他は一度待機で」

「えええ!? なんであんな子が!? あたしは公爵令嬢よ!」

「わたくしは魔力もあるんですのよ」


 綺麗な服を着た女の子達が騒ぎ出す。

 私は呆然としてその場に立ち尽くす。

 すると、偉そうな人が咳払いした後強い声で


「ローザ・ルーン様のみ、中へ!」


 と言った。


「は、はい!」


 怯みながら私は頷き、お城の門を潜った。

 中は想像以上に真っ白で豪華で、語彙力がなくなるぐらいヤバかった。

 高そうなものがいっぱいあるけれど、名前すらわからないものがほとんどだった。肖像画がやら他多いのは気になったけれど、キラ王子のものは何故かどこにも存在しなかった。


 キョロキョロしながら私は使用人達に案内されていく。

 そして、王室の中に連れてこられた。


 ああ。ここに、キラ王子が……って、え??


「ローザ・ルーン嬢。どうかしましたか。レイフ王子の前で」

「レイフ、王子?」


 え? え? ええ?? キラ王子は??

 なんで弟王子のレイフ王子が目の前にいるの?

 長いウェーブのかかったオレンジの髪に草原のような色の釣り気味の瞳、噂通りの

ルックスのレイフ王子は確かに美しい。むしろ凛々しいとも思う。でも。


「なんで!?」

「失礼ですよ、ローザ・ルーン嬢。貴女はレイフ王子の婚約者候補になりにきたのでしょう。挨拶なさい」

「ええええええええええ!?」


 私が!! レイフ王子の!! 婚約者!! 候補!?

 なんですと!?


「……あ、ありえない」

「待ちなさい!」

「ありえないいいいいい!! いやあああ!!」


 私は気がつけば王室から逃げ出していた。

 当然私は集団に追いかけられる。

 ふわふわのドレスに足を引っ掛けそうになる。

 なれないヒールで走りにくい。ヤバい。転びそう。


 どうしよう。私、大変な事態に追い込まれてる!?


「捕まえた! 皆、いたぞー! ローザ・ルーン嬢はここだ!!」


 使用人の中で一番イカつい男の人が私に手を伸ばす。

 道はいっぱいある。けれどいっぱいありすぎてどうしていいかわからない。


 だって私今日お城に初めて来たんだもん!


「キャー!


 だめ、このままじゃ捕まっちゃう。


 そんな時。


「こっちだよ」

「え?」


 別の方角から私の手を掴む誰かが現れた。多分、この感覚は華奢な男の人。


「え? え? ええ?」

「静かに。逃げるよ」

「はい」


 私は顔を上げられないままなすがままにされる。


「ついた」


 そしてその男の人はそのままとある部屋に私を連れ込んで扉を閉める。そのごため息が聞こえた。私はやっと顔を上げる。


「ありがとうございます。助かりました、すみませ、」


 結果、言葉を失った。

 だってそこにいたのは。


 天使のような金色の髪の空色の瞳、長いまつ毛に華奢な長身。色の薄い綺麗な形の唇が、私を見て微笑んでいる。


 服は少しくたびれているけれど、やっぱり品がいい。


 そう……。


「キラ王子!!」

「御名答。久しぶりだね、聖女ちゃん」


 私が会いたかった、キラ王子本人だったのだから。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る