第七話 約束
互いに得物と殺意を向けあって、これ以上言葉を交わすのは無粋だろう。
ヒロと真正面から戦ったことは無い。そもそも戦闘の分野が違うため、勝負にならなかった。奇襲でもなく下準備も出来ていない、それにこんな開けた場所で戦うのは圧倒的に不利である。しかし、ナイフを構えて、徐々に距離を詰めていく。
「──ぁああッ!!」
相手の刃が届く範囲に入ると、剣が振り下ろされる。横に軽く飛んでそれを避けると、隙の出来た胸元にナイフを突き出した。しかし、それはキンッと音を鳴らし瞬時にシールドで防がれる。痺れる手に苦笑いを浮かべながら腕を引くと、それを切り落とすかのように剣が通り過ぎた。
手を引っ込めていなかったら、左腕は無くなっていただろう。ヒロは本気なのだと、思い知らされる。
「この、野郎ォ──!!」
「──ッ!」
顔に向かって刃を向けると、僅かだがヒロは反射的に顔を顰め目を細めた。その瞬間に背後に回ると、腕を首に回して思い切り締め上げた。身長が高い故に俺に首を絞められれば、背を反らしたような無理な体勢になる。普通よりも苦しいだろう。だが、肘打ちを腹に叩き込まれ、耐えきれずに腕を離してしまった。
「負けられねぇん、だよ……!!」
「はっ、こっちだって──!」
首を狙った刃の一線が迫ると、それをナイフで受け止めた。ぎりぎりと金属の擦れる嫌な音が耳元で鳴り響く。少しでも力を緩めれば、無事では済まないだろう。こいつの馬鹿力があんなに頼もしかったのに、今は憎くて仕方ない。
拮抗する中、視線が混じり合う。ヒロは、覚悟を決めている筈なのに──酷く苦しそうな顔をしていた。
「んな顔すんなァ! ボケがァ!!」
「ぐっ──!」
剣を受け流し、苛立った想いをぶつけるように斬り掛かかる。しかし腕を上げた瞬間、体に鋭い痛みが走った。腹から胸元にかけて、斜めに斬り下ろされたのだ。浅くて助かったが、痛む部分が熱を持つ。一撃でも受けらた負ける、そう想定していたのだが、早くも傷を負ってしまった。
「ってぇ……っ!」
痛みを堪えながらナイフを突き出すと、切っ先がヒロの腕に掠る。衣服に血が広がったの見て、思わず二撃目を躊躇ってしまった。彼に血を出させて、痛みを与えているのは俺なのだと、それがどうしようもなく辛い。嫌だと思っても、もう進むことしか選択肢は無いのに。
隙を作ってしまい、すぐに反撃を警戒する。剣で斬られるか、シールドで追突されるか──いや、違う。
「──ガァッ……!!」
鎧を纏った足での蹴りが、傷を負った腹部に飛んでくる。予想出来たお陰である程度ダメージを逃せたが、こいつの蹴りは異常だ。ヒロの蹴りで内臓破裂したやつがいるって聞いたことがあるが、それを聞いた時は笑った。今なら蹴られた人間の気持ちが痛いほど分かる。実際体験したら笑った自分を殴りたい気分だ。
「ケホッ、ゲホッ──ッ!!」
「ぁああ゛ぁっ!!」
衝撃で後方に吹き飛び、背から倒れ込んだ俺に、のしかかるように追撃が迫る。振り下ろされた刃をナイフで受け止めると、眼前まで剣が迫り肝が冷えた。一瞬一瞬気が抜けない。力で勝つことは無理だ、読み合いで勝たなくては──。
「ぐっ……ユウキ、次に、俺が剣を振り上げたら──」
ヒロがまっすぐこちらを見つめている。
刃を交じり合わせながら睨み合い、彼は顔を近づけると俺だけに聞こえるように小さく言葉を発した。それを聞いて目を見開けば、ヒロはいたずらっ子のような笑みを浮かべる。
「──お、まえ……!」
驚愕に力が抜けると、その隙を狙って剣の切っ先が突き降ろされた。それを横に転がって避けると、距離を取るためにヒロの膝裏をナイフの柄で叩いてバランスを崩させる。相手がよろめいたのを確認して、股の間から抜けて大きく飛び退いた。
体勢を立て直してナイフを構えると、いつの間に距離を詰められたのか連撃が叩き込まれた。一撃一撃が重い。疲労でまた後頭部が痛み出てくる。早くケリをつけないと、余計に体の動きが鈍くなるだろう。
「──らぁあああ゛ぁっ!!」
「──ッ」
ヒロが、剣を振り上げた。
彼の目が──今だと伝えている。
──ユウキ、次に、俺が剣を振り上げたら
俺の腹ぶっ刺して、逃げろ──
急所では無いと言え、俺のナイフは特注品だ。
ただのナイフを刺した時とは違う、より痛みを与えるために傷口がぐちゃぐちゃになるように刃が加工している。ヒロはそれを知ってる筈なのに。
ミオとの未来を生きるために、お前を犠牲にしろって言うのか。なんて残酷なことを、ヒロ、お前自分が何してんのか分かってんのかよ──。
「ク──ソガァァアッ──!!」
ナイフをしっかりと握り、ヒロに向かって突っ込んだ。
ざくり──刃が肉に突き刺さる感触が、手に伝わる。
剣が地面に落ちる音がして、ヒロが激痛に耐えるように体を丸めた。ナイフを奥に差し込んで、俺はヒロの肩に額を乗せる。歯を食いしばり、叫び出したい悲しみに耐えた。
「ぐっ、がぁ……っ」
その息遣いが、耳元で聞こえる。苦しそうに短く息を吐きながら、ヒロは小さく笑っていた。
ヒロの動きが止まったことで、兵達が加勢しに来るだろう。早くここから離れないと。
「……はぁっ、はっ……早く行け……!」
「──こんなとこで、死ぬなよ……!」
ナイフから手を離すと、すぐに走り出した。
加勢しようと焦った兵の一人が馬を放置したため、それを奪って走り出す。僅かに振り返れば、倒れたヒロが兵達に囲まれているのが見えた。早く手当して貰えば助かるだろう、ナイフもわざと抜き取らずに残しておいた。
「ミオ、待ってろよ……!」
ヒロの想いを無駄にしないためにも、俺は進み続けるしかない。ミオは無事に林に着いただろうか。ずっと馬を走らせていたのは俺だし、彼女が一人で乗るのは久しぶりだろうか心配だ。
もう振り返らずに林に向かうと、馬が暴れ始めた。もう少しで着くのに、乗ってるのが主でないと今頃気づいたのだろうか。
「──うわっ! ぐぅっ……!!」
馬が前足を高くあげると、バランスを崩して落馬してしまった。すぐに受け身を取るが、馬は真反対の方向へ走り出してしまう。もうここからは走るしかない。だが幸いにも林は目の前だ、もう少しでミオに会える。
林に入って木々を掻き分けると、馬が通った痕跡を探した。名前を呼んで探そうか、しかし追っ手が来ていたら気づかれてしまう。更に状況は悪く、後頭部や斬られた場所が強く痛み出してきた。このままだと意識を失うかもしれない。
「ミオ……ミオ……!」
もう夜で、このまま林の中を探すのは危険だ。
早く見つけないと、早く──。
「ユウキさん!」
「ミオ……!」
声が聞こえた方へ向かうと、ミオが馬と休んで待っていた。ちゃんとここまで来れたらしい。それに安心しながら、彼女の元へ駆け寄った。
「大丈夫でしたか!? 怪我は?」
「隠れながら逃げきれた、平気だ」
暗くて俺が怪我を負っている事が気づかれていないようだった。触れられない限り誤魔化せるだろう。座っていた馬を立たせていると──遠くに明かりが見えた。それはゆらゆらと揺れて、何かを探すように移動している。
「──もう来たか……!」
さっきの兵が役割分担してこちらに来たのだろう。数は──二人。すぐに移動しないと捕まる。だが今の状況で二人の兵に追われた場合、逃げ切れる気がしなかった。馬の体力もあるし、帝国に着くまでに追いつかれるだろう。
どんどんと、光が近づいてきた。迷ってる時間は無い、ならばもう一度俺が時間を稼がなければ。
ミオの頬を両手で包むと、しっかりと目を合わせた。
「いいか、よく聞け……ローブを着て全身を隠してから、その馬で帝国へ向かうんだ」
「ユウキさんも、一緒です、よね……?」
ミオは俺の手に自分の手を重ねると、涙を堪えるような揺れた声でそう聞いた。それに答えず、覚悟を決めるとゴクリと唾を飲む。
幸せな未来を掴むための一歩が、もう少しで踏み出せるというのに。また、離れ離れにならなければいけない。
「そして、もし捕まったら……『誘拐されました。脅されて怖かったです。助けてくれてありがとうございます』……そう、言うんだ。出来るか?」
「な、んで……なんで、そんなこと言うんですか……? 私、自分の意思で──」
「シーッ、いい子だから……聞いて」
ミオは涙を流しながら、俺を見つめている。こういっても分かって貰えないだろうが、もしもの場合は考えた方がいい。もう、そういう状況になってきたのだ。手負いを庇いながら彼女が逃げ切れるとは思えない。
「別に諦めたわけじゃねぇよ? ただ、いま言った事は覚えといてくれ」
「……は、い」
「じゃあ、先に帝国に行っててくれ。さっきだって別れても俺はミオの元に帰れただろ? だから今度も大丈夫だ……必ず行くから」
願いを込めるように口付けを贈ると、荷物からローブを取り出して身にまとった。しっかりと頭まで隠すと、ミオが同じようにローブを身につけ馬に乗ったのを確認する。
「俺が兵に見つかったら、ここから抜けて走るんだ。ルート分かるか?」
「はい、教えてもらったので」
離れ難い、その気持ちをお互い感じている。ただ一時の別れだ、あんな事を言ったが諦めてないというのは本当だ。託された想いも背負って、俺達は必ず二人で生きなきゃいけない。
振り返れば、更に光が近づいている。話し声を聞き取ったのかもしれない。
「……ユウキさんは、どうやって逃げるんですか……?」
「少し時間稼ぎしたら、馬を奪ってそれで向かう。来てるのは二人だ、簡単に落とせるよ」
まあそんな簡単なことでは無いが、彼女は信じてくれただろうか。もう時間が無い、最後にミオに向かって微笑むと足を軽く叩いた。
「向こうで会おう」
「……約束ですよ」
暗くてよく見えないが、彼女もこちらに微笑んだような気がした。そして気合を入れるように一度大きく息を吐くと、注意を引くように音を立てながら走り出した。少し振り返れば二つの光がこちらに向かってきているのが分かる。こっちに、こっちに来い。俺はここだ──。
「居たぞ!」
「おい、待て。姫もこの辺りに隠れてるって言ってなかったか?」
「──チッ、どっち分かんねぇ。とりあえず捕らえろ!」
林から抜けて、遠くに向かって走り出した。ミオが逃げる時間を稼ぐために、一旦帝国から離れるように走って遠回りをしないといけない。もし想定通りになっているのなら、ローブのせいで俺の事を誘拐犯かミオか判断できずに攻撃が出来ない状態にあるはずだ。そうなると相手は投擲などで怪我をさせて、乱暴に捕まえることが不可能になる。
「はぁっ、はっ──キッツ……!」
斬られた怪我の手当は出来ていない。このまま出血し続けていたら、本当に死ぬかもしれないと最悪の可能性も浮かぶ。そろそろミオは、林から出ただろうか。
かなり頑張って撒いた方だと思うが、暫くするとついに二人の兵に追い抜かれてしまった。道を塞ぐように、馬が目の前で止まった。回り込もうとすれば、兵は馬から降りて立ち塞がる。
「悪あがきはここまでだ。さぁ、それ脱いでもらおうか」
何も言わずにただ立ち止まっていると、痺れを切らしたのか兵の一人が近づてきた。そしてこちらに手を伸ばして、ローブを掴もうとする。その瞬間、手首を掴んで思い切りこちらに引き寄せた。
「──なっ!?」
バランスを崩した兵の鳩尾に膝蹴りを何度か叩き込んで、手を組むとハンマーのようにして頭部に振り下ろした。倒れ込んだ兵に追い打ちをかけるように、軽く飛ぶと肘に全体重を乗せて背中に落とす。ごきりと骨が逝った音が聞こえて、鼻で笑うとそいつが腰に差していた剣を抜き取った。
「貴様! セラだな?!」
「えー、分かんないじゃん。姫ちゃんもこれぐらい出来るかもよ?」
「クソ、戯言を……!」
相手も剣を抜き、こちらに向かって構えた。正直剣での戦いは慣れていない。相手から武器を奪って戦う場合の訓練は受けたが、ナイフを手放す機会が少なくて経験不足だと言える。邪魔になるローブを脱ぐと、同じく剣を構えた。
睨み合う中、先手を取るためにすぐ踏み込む。一振りすれば軽すぎてすぐに弾かれた。しかし、二撃、三撃と徐々に感覚を取り戻していく。
「お前、別部隊のやつか。ヒロの直属の部下にこんなに雑魚いなかったもんなぁ〜」
「この減らず口めェ!!」
「あらら、短気すぎぃ。ざーこ」
怒りに任せたブレた一撃を、横にステップして避けた。力が入った攻撃が避けられた事により、相手に大きな隙が出来る。ガラ空きになった胴体に一太刀浴びせると、痛みで動きを止めた兵の背後に回る。そして剣を捨てると、後ろから腕で首を締め上げた。やっぱりこれがやりやすい。
「はいはい、いい子いい子! おやすみ……!」
「ぐっ、がっ……あ゛ぁっ──!!」
「──ふう、落ちたか」
人形のようにだらりと力の抜けた兵を地面に放ると、二人の荷物から捕縛用の縄を盗んだ。早めに復帰され追われたり援軍を呼ばれるのは不味い。これで縛ってここに放置してやろう。
「えーっと……あ、そうだ。すけべな縛り方にしてやろ、ぎゃはは」
よいしょよいしょと体のパーツが強調されるように縛り上げると、ちゃんと手足が動かないようになっているか確認した。俺って縛る才能あるかもしれない、完璧だ。この状態で発見されれば、さぞ人気者になる事だろう。
取り敢えず剣を一本頂戴してから、馬を一頭選んでそれをもらう事にした。兵が思ったより弱くて助かった、リネット王国は訓練の仕方を変えるべきだろう。脱ぎ捨てたローブをまた纏うと、馬に乗り帝国へ向かった。
「一時間ぐらいのズレか……? これなら、明日の朝には会えそうだ」
ミオも順調に進めているのなら、ここから帝国までそう遠くない。
帝国に入り、そこで会う事が出来れば俺達の勝ちだ。やっと、やっとミオと二人で生きる事ができる。職を見つけたり、最初の生活は大変かもしれないが、それでも彼女さえ隣にいてくれたら何も要らない。
それから暗い中を走り続けて、僅かに朝日が見えてきた頃──帝国が見えた。
あんだけ毛嫌いしていた帝国も、今では希望の光に見える。馬に「頑張ってくれ」と声をかけると、足で合図して走るスピードを早めた。
そして、領土の目の前まで来ると馬を降りる。このまま引きつれると目立つため、リードなどの装備品を全て外して自由にしてやった。
「食い物も何も持ってねぇんだ、ごめんな」
そう言って撫でれば、馬は嘶いて何処かへ走って行った。
ローブで頭まで隠したやつが入国しても、案外誰も気に留めていない。脅威の武力を保持し、ヤバそうな宗教団体もうじゃうじゃいると聞いた。こんなのが歩いてるのは日常茶飯事なのかも知れないし、犯罪者でもすぐ取り押さえられる絶対的自信があるのだろう。
さて、安全圏に着いたはいいが、彼女はどこにいるのだろうか。待ち合わせ場所でも決めておけば良かったが、そこまで考える余裕が無かった。深い場所には行っていないと思うし、俺が見つけやすいように目立つ場所にいるかもしない。
「しかし、目立つと怪しまれ──」
ぴたりと、足止める。
通りがかった公園に、綺麗な噴水があった。そこにローブを来た小柄な人物が、ちょこんと座っている。すぐに分かる、それがミオだと。込み上がる気持ちが我慢出来ずに走り出すと、彼女に分かるようにフードを降ろした。
ミオはこちらに気づくと、同じようにフードを降ろして立ち上がった。
腕を広げて、彼女は俺を待っている。
ああ、やっと。
この時が──
パァンッ────!!
────銃声が、辺りに響き渡った。
ミオが、目を見開き笑顔を失う。
俺はバランスを崩して、地面倒れ込んだ。
右足に走った激痛に、思わず顔を顰める。
何が、起きたのか。
まだ理解出来ずに混乱してると、ミオが鎧を着た奴らに囲まれているのが分かる。
そいつらに手首を掴まれ、彼女は必死に抵抗していた。
「く、そが──触ってんじゃ、ねぇぞ──!!」
起き上がり走り出そうとすれば、二回目の銃声が聞こえて弾が左肩を貫いた。
再び地面に転がると、ミオが俺の名を呼んでいるのが聞こえる。
じゃり、と足音を鳴らして、誰かが俺の隣に立ってこちらを見下ろした。フードの深い服で顔が見えづらいが、相手はそれに気づいてフードを親指で僅かにずらす。
「──オリバー、王子……」
「よくここまで来たね。でも残念、ゲームオーバーだ」
「なんで、あんたが……?」
王子の指示で、ミオがどこかに連れていかれる。指示を受けたのはアルデリガ王国の兵じゃない、帝国の兵だった。何故王子がここで動いているのか、理解できない。俺が知っている限りで、ミナアド帝国とアルデリガ王国の関わりは無いはずだ。
「私から姫を奪うなんて、なんて酷い男なんだ」
「は? 最初からテメェのもんじゃねぇし、渡す気もねぇよ……!」
「汚い口を聞くね。普段の君は偽りだったのかな?」
仕事中じゃないから、本性を隠す必要も無い。しかし、『私から姫を奪う』だなんてイカれた妄言吐くところを見るに、まともな奴だと思っていた俺の判断は間違っていたようだ。
「近くにこんな胡散臭くてドブみてぇな匂いさせたやつがいたなんて、俺の観察眼も鼻もおかしくなったみたいだ」
「君みたいな薄汚い番犬は早めに始末──っと、ちゃんと押さえつけといてくれよ」
俺が起き上がろうとすれば、駆け寄った兵が手を後ろで固定して押さえつけてきた。もがいて暴れると、じわりと服に血が広がるのが分かる。色んな箇所に傷を負って、正直もう体がボロボロだ。出血で頭がくらくらとしてくる。
「種明かししちゃうとさ、叔父が帝国と関わりがあってね。私ともに、今後交友国となるために動いてるんだ」
「──お前が、ミオに近づいたのは……!」
「君の想像通りかもしれないし、そうじゃないかもしれない。もしかして裏切りだって言うのかい? でも先に裏切ったのはそっちだろう」
順序は明らかに逆だ。俺達が逃亡してから交友関係結んで兵を手配するなんて馬鹿な話、流石に無理がある。王子は最初から帝国と繋がりがあり、俺達は運悪く逃亡先をここに選んでしまったのだ。そして俺を突き出してさらにリネットとの絆を強くして、裏で帝国と組んで何かするに違いない。リネット王国は、騙されていたのだ。ミオだけ助かった時、オリバー王子と幸せになる道があるならと考えた時もあった。だが、その選択すら俺達には無かった。
「恐らく君は死刑になるだろうね。ああ、もしそうならなかったとしても、私からユメサキ王に頼むから確定かな」
「こんなとこで死ねるかよ……死ぬならテメェを殴ってから死んでやる……!」
「次会った時に君が死体じゃなかったら、喜んで受けるよ。もう君らの思い描いた物語は終わりだ。さぁ、そろそろ行こうか……君達の国へ」
兵に縛り上げれ雑に抱えられると、馬車に放り込まれた。これでこのままリネット王国に向かって、俺を土産として差し出すのだろう。ミオとの結婚をより円滑に進めるために。
──こうして、九日間の逃走劇は幕を閉じた。
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