6コマ目 from you to me

僕の名前は影山かげやま孤依こい

 こんなにまだ暑いというのに夏休みは終わってしまう。暑いうちはずっと夏休み、そういう制度にして欲しいと心から思う。

 理由は単純だ、学校が憂鬱ゆううつなものだからである。

 僕みたいなかげで生きてるような、いわゆる背景はいけいキャラが教室に居るだけで空気が悪くなるように感じる。いやむしろ何も変わってないのかもしれない、存在が薄いから。

 主人公、影山かげやま孤依こいはこんな事を考えながら登校していた。

 学校に着いた孤依は2年3組の教室へと真っ直ぐ向かった。

 当たり前の事だが、夏休み明けの学校で久しぶりに会うというのに、僕に話しかけてくる人は誰一人としていない。自分で考えていて悲しくなる。

 この席、教室の後ろ端の窓側の席はよく主人公席などと言われるがそんなことはない。むしろ一番後ろでちぢこまれるため僕のような背景キャラにとって最高な場所だ。

 教室内ではみんな、夏休みの思い出を語っている。

 夏祭りだとか、家族で旅行だとか。僕だって家族で旅行には行ったがそんな事を話す親しい人はいない。


 孤依こいが教室に着き、十分経ったあたりで担任の教師、前川まえかわ喜代きよが「おはようございますー!」と、入ってきた。

 教卓の前に立つと、チョークを持ち座席表のようなものを書き始めた。もしかして……。

 僕以外の人は楽しみにしているであろう、席替えだ。

 夏休みに入る前にクラスの陽キャ男子が先生に聞いていた。いつ席替えをするんですか? と。それもすっごく楽しみに。周りの人たちもそれに釣られて、早くしたい! と言っていた。

 本来であれば席替えというイベントはウキウキワクワクするものなんだろうが、僕は全くそうではない。

 だって……気まずいんだもん。僕みたいな無口むくちインキャが隣に来られた相手の気持ちを考えてみろ。

 えーっ……と誰だっけ? こうなるのが自然だ。実際、今の勇逸ゆういつの隣の長浜ながはまくんは僕のことを知らなかったから。

 そんな孤依こいの気持ちもむなしく、席替えが始まってしまった。

 左の前の人から順にクジを引いて行ってる。いよいよ次は僕の番だ。どうか端っこの席であって欲しい。せめて壁側。

 僕が手に取った紙には23の数字が書かれている。先生が1から順に適当に書いていくため、まだどこの席になるかは確定しない。

 友達と何番だったか話すグループがいくつか出来ている。毎度のこと、僕は一人である。

 そして一番最後の人が引き終わって先生が番号を書き始めた。クラスは全部で34人。僕の23番目までに一つでもかどが空いていたら12分の1で勝ちを獲得できる。

 そんな孤依こい願望がんぼうむなしく、喜代きよの23の筆は教室のほぼど真ん中であった。

 あ、終わった……最悪だ。両端でも、前の方でも後ろの方でもない、theど真ん中で反応に困る場所だ。

 全ての席が決定し、ため息をきつつも指定の席に移動した孤依こい

 現実を見たくない孤依こいは机に突っ伏した。それをずっと見ている一人の人物が――。

 え、なんか視線感じるんだけど……僕、見られてるよね……?

 恐る恐る顔を少し上げて右隣を見てみると、やはり孤依こいを完全に見つめている。

 うん、こんな人クラスに居たっけ……? っていう疑問の眼差まなざしだ。きっとそうだ。

 孤依こいがそう思っていると次は声が――。

「ねぇねぇ! 孤依こいくん、だよね!? うわー、前から喋ってみたいなって思ってたんだよね! よろしく!」

「え、あ、あ、はい……」

 いわゆる日常会話のようなものをしたのはいつぶりだろうか。慣れない会話に戸惑ってしまう。

 この人はクラスの中心的人物の佐藤さとう華恋かれん容姿ようし端麗たんれい、運動神経抜群、成績は……ちょっといいうわさはないが、とにかく可愛いとクラス内でも男子が言っている。

「私、佐藤さとう華恋かれんね! 佐藤さとうってうちのクラス2人いるじゃん? だから華恋かれんって呼んで!」

「……えっと、まぁはい……」

 今まで名前呼びなんてしたことない。自分だって名前呼びされたことはない。プリントを配ったりするときは毎回「あのー、」という匿名とくめいを指す呼び方だ。

「ねぇ孤依こいくん、なんでずっと下ばっかり見てるの? 下に幸せなんて落ちてないんだよ?」

「こ、この前、前見ながら歩いてたら、犬のふん踏んだから……」

 孤依こい屁理屈へりくつを聞いた途端、華恋かれんは大きく笑い始める。

「あはははっ! 孤依こいくん、最高っ! 喋ったら面白いんだから、もっと喋ってこ!?」

 えぇ……。


 これは背景役だった僕の人生が色づく話である。


 ♪〜(OP《オープニング》曲『恋愛シミュレーション!』)


「うん、入りもバッチリだな!」

「だねー、なんか自分の声じゃないみたい」

「なんか緊張するわね……」

「なに怖気おじけづいてるのよ、貴方あなたの曲は大したものよ」

「そ、そうです……。私たちで頑張って作ったんですから……」

fromフロム youユー toトゥ meミー』が完成し、一話〜六話の一気見をする事になった夜輝ほたるたちは集まっていた。

 作り終えたことへの達成感や、ここからはもう変えることの出来ない緊張感。色んな感情はあるにせよ皆が楽しんで最後まで見ていた。


〜『from you to me』六話最終場面〜

「ねぇねぇ! 孤依こいくん! 次はあっち行ってみない!?」

 修学旅行三日目の自由時間、本来であれば男女混合の五人班で行動するのだが、周りの友人が二人の場を作ってくれていた。

「ちょ、かっ、佐藤さとうさん待ってよ!」

「なんでまた苗字みょうじ呼びに戻っちゃうかなぁ〜? せっかく二人なのにさっ」

 華恋かれんほほを膨らませ、ねていた。

 華恋かれんに着いていくように孤依こいは歩き、伏見ふしみ稲荷いなり神社じんじゃ千本せんぼん鳥居とりいを潜って行った。

 五十分ほどかけて一周した二人。その間にも沢山の会話の描写びょうしゃがあった。

 孤依こいが階段につまずき、華恋かれんが笑いながら手を貸したり。

 孤依こいの負け確定のどちらが先に鳥居を三十個潜れるかの勝負など。

 二人の楽しむ描写が流れたのち、よくやく千本鳥居を回り終えた。

 そのタイミングでEDエンディング曲『アネモネを赤く染めたのは』が流れ始める。

 御社殿ごしゃでんに辿り着くと孤依こいはヘトヘトで、華恋かれんは汗を浮かばせながらも満面の笑みで振り返った。

「楽しかったね!」

 本当であれば疲れていて、「僕は疲れたよ……」と言いたいであろう孤依こいだが、そんな華恋かれんの表情を見て孤依こいも笑いながら、

「うん、だね!」

 と、精一杯の笑みで言った。

「みんなのところに戻ろっか!」

 華恋かれんは班の他の人と待ち合わせしている場所に向かう提案をし、歩き出したがそれに孤依こいは着いていかず立ち止まった。

「……ねぇ!」

 そう華恋かれんを呼び止めた。振り返る華恋かれん

 振り返る華恋かれんと共に曲はサビに入る。

「また、一緒に来よう!」

「それって将来、また二人で来たいって事でいいのかな〜」

 今まで通り、少しからかいを含めた照れ隠し。いつもは、「からかわないでよ……」と孤依こいは言っていた。だが。

「うん、そう。また二人で一緒に来よう!」

 今までと全く違う返しに戸惑い、そして赤面せきめん顕著けんちょに表した。

「ってことは影山かげやま華恋かれんとしてまたここに来るのか〜」

 精一杯の照れ隠しを吐きながら、孤依こいの方に走っていき手を取った。

「ほら! みんな待ってるよ、行こ!」

 華恋かれんの手を強く握り、一緒に並んで二人は走って行った。

 その後ろ姿を背景にキャストを映し出し、from you to meは完結した。

 終わった途端、和泉いずみが俺の方を見て興奮こうふんげに言ってくる。

「ねぇ夜輝ほたるくん! 続きは? 続きはないの!?」

和泉いずみ……俺たちが作ったアニメなんだからこれが最終回ラストって分かるだろ」

「えー」

 和泉いずみはさておき、全てを一気見した感じ、このアニメの親目線、凄く面白いものになったと思う。

 だがまだ最後にやることが残ってる、それは。

「俺たちメンバーの名前を決めよう」

 どういうことか分からない、そんな顔で先輩以外の三人が見てくる。

「制作会社名の様な名前と個人の名前を決めるのね」

 この状況に理解を示す先輩。その通りで、例えばあの桜坂さくらざかアニメ研究部は【桜坂さくらざかアニメ研究部けんきゅうぶ】と、堂々とした名前で登録している。名前も、本名の人も居れば個人の活動名にしてる人もいるみたいだ。

 ちなみに俺たちは部活じゃないからそんな堂々とした名前をつけることは出来ない。

 いまいち理解できていない三人に俺と先輩が説明をした。説明を終えると再び和泉が興奮こうふんげに、

「ねこ! catは入れたい!」

 今日の和泉いずみ、異様にテンションが高い。

竹姫かぐやらしいわね。んー、他になんかないかな」

 俺たちはとりあえず、紙の真ん中に和泉いずみの提案したcatを書き、流石にそれだけでは物足りないので考えてみた。

glowグロー……? とかいいんじゃないかな!」

 珠璃じゅりの言ったグロー……? とはどう言う意味か、英語難民の俺には到底理解し難い。

「育つって意味だっけー?」

 とにかく分からないものには口を出さないのが一番だ。育つだろうがそうでなかろうが分からないから俺は黙っておこう。

「確かにカタカナにしてみたら同じグローだけれど、鈴宮すずみやさんの発音的にそれはかがやくの方のグローかしら?」

「う、いいやー。珠璃じゅり、なんでそれを入れようと思ったのー?」

「えっと、それはさ……」

 言いづらそうに指をモジモジとさせる珠璃じゅり。一体全体なんなのだろうか。

珠璃じゅりさん、私は、いいと思います」

 アニメ視聴後、全く喋っていなかった秋貴あきが口を開いた。理由は単純、喋りたくなかったからである。

 しかし珠璃じゅりのピンチに思わず喋ってしまった、そんなところだ。

「あなたは本当に後輩こうはいくんの事が――」

「ちょっとギサキ!?」

 慌てた様に先輩せんぱいの口元を押さえている。陽気ようき和泉いずみといい、珠璃じゅりといい、今日はなんかあるのだろうか。とりあえず夏休みのせい……とでもしておこう。

 沙貴さき珠璃じゅりの手を払うと、それでは理由をどうぞと言わんばかりに手を珠璃じゅりに向けた。それに続いて珠璃じゅり

「まぁこのアニメの発案者が夜輝ほたるなんだから、夜輝ほたるの名前から取ってかがやくのglowを入れたいなって思ったのよ」

 珠璃じゅりがせっかくそう考えてくれたのであれば、その名前を使わないと言うのはなんだか申し訳ない。

珠璃じゅり、ありがとな。それでいいと思うぞ! そしたらグローキャット……キャットグロー……うーん」

語呂ごろが良さそうなのは後者こうしゃだねー」

 和泉いずみに続いて先輩せんぱいも。

「みんなでやったのだから、キャッツグローの方がいいんじゃないかしら」

 キャッツグローに決まり、それからロゴを考え先輩が三十分程で描き終えた。

 Catsキャッツ glowグローのCを猫っぽくして、キービジュアルに入れ込んだ。

 アニメのEDエンディングにもCats glowと各々の名前を。

 俺と和泉いずみ先輩せんぱいはそのままの本名で、珠璃じゅり秋貴あきさんは二人のグループ名【ハピパレ!】の下に二人の名前を入れた。ハッピーパレットからハピパレ! になったそうだ。

 佐々木ささき先生にももちろん夏休みに入る前に聞きに行ったが、

「なんか本名は嫌ねぇ……それじゃみつきちゃんでいいわ! ひらがなで!」

 と、メンバーで一番子供らしい名前になった。

 名前も決まり、全てをやり終え応募ページへとうつった。

 至って単純なもの。アニメの名前、俺たちメンバーの名前、九月に載る時のあらすじ紹介。あとはメアドとか学校名とかだ。

 全ての応募内容を記入し、いざ応募のボタンを押す時。

 この時のために俺たちは頑張ってきた。そう考えるとなんだが終わってしまうという切ない感情も生まれてくる。

 だが今はその切なさよりも、全てをやり終えた。珠璃じゅり沙貴さき秋貴あきと、そして竹姫かぐやと。その達成感で夜輝ほたるはいっぱいだった。

 応募のボタンを押したあと、Cats glowのここにいる五人は顔を見合わせながら笑っていた。もちろん秋貴あきには目を逸らされて。

 その日は、アニメを六話見たというのもあってそろそろ空も茜色あかねいろに染まる頃合いだった。

 特にやり残した事もなく、今日は帰ってもう休もう。そう意見が一致し、皆は解散した。

 最後に夜輝ほたる珠璃じゅり沙貴さきに「宿題、ちゃんと忘れない様に」と、釘を刺されはしたが……。それに竹姫かぐやは他人事の様に下を向いていた。



 しかし、珠璃じゅり沙貴さきの忠告も虚しく、夜輝ほたる堕落だらくした夏休み生活を送っていた。

 アニメ制作中、溜まりに溜まったアニメや漫画の最新刊などを消費しなくてはいけなかったのだ。もちろん、夜輝ほたるはこの生活を堕落したものだとは思っていない。三十一日までは――。

 なんだがんだ、珠璃じゅりの買い物には今まで何度も着いていってあげていた夜輝ほたるだが、この夏は自らの娯楽ごらくを「課題をやらなきゃいけないから」と言った理由で断っていた。

 当然、来るべくして来た八月三十一日ラストデー夜輝ほたるはふとスマホのカレンダーを見た。

「……ん? 嘘だろ……」

 夏休みの残り日数は今日一日限り、それに対して課題は全て残っている。これは夢だ。そう思い、テンプレ通りに顔をつねってみる。

「いてっ……」

 当たり前のように痛みは感じ、今日が夏休み最終日である事をしっかりと認識した夜輝ほたる

「大丈夫だ、まだ一日も残っているんだから! アニメのキャラとかだって最終日に徹夜して終わらせてたじゃないか!」

 独り言を呟きながら数学、英語、物理などの課題として出されたものを机に取り出してみる。

 ……終わった。宿題が終わったという意味では無論ない。ゲームオーバーの方の終わりだ。

 先ほどまでの独り言を吐く気力すら失い、ベッドに横たわりスマホを手に取ると、新しくCats glowに名前が変更されたグループMINEマイン和泉いずみが、

『宿題、全部終わった!』

と、ニコニコな猫のスタンプ付きで送信している。

 それに感化かんかされた夜輝ほたるは起き上がり、スピーカーのBluetoothブルートゥースを起動させスマホと連動、続いてアニソンを主に出している夜輝ほたるの好きなアーティストのプレイリストを再生した。

「全部は終わらないかもしれない、だが! 終わらせることの出来るものはあるはずだ!」

 そう言って机につき、いざ勉強を始め出した。


 時間は14:23。机につき、課題を進めてようとしていたはずの夜輝ほたるはなぜか、縦積みにされたラノベと共にベッドに横たわっている。

 あれからまず、一番早く終わるであろう漢文の問題を解き始めた夜輝ほたる

 何を血迷ったのか、部屋の本棚の前に置いてあった紙袋に目を付けてしまった。夏休みの間に買っていた【うちはギャルだけどオタクのアイツには優しくしない】というギャル系のラブコメ小説の七巻まで。

 あまりアニメも見ない、小説も読まない京平きょうへいが珍しくオススメしてきたラノベだ。

 京平きょうへいは「七巻まで全部貸そうか?」と言ってくれたが、なにせあの京平きょうへいがオススメするラノベなのだ。全部買って読んでみたい。

 まぁおおかた、アイツは屈指くっしのギャル好きだからこのラノベのヒロインの柏木かしわぎ柚葱ゆきかれたのだろう。

 ともかく、課題が終わっていないということだ。

 課題から目を逸らしながらリビングに降り、昼食を取ってから、ようやく真面目に課題に取り込み始めた。

 夜の九時になっても尚、終わる気配はなかった――。


 ――君、雨に濡れるのが趣味なの?

 ――私も、おんなじ様な事あったから分かるなー。

 ――それじゃー、お互い頑張らないとだねっ!

 あれは中三になる前の春休み。夜輝ほたる沙貴さきに辞去された日のことだ。

 ――バイバイ夜輝ほたるくん。

 普段は【後輩こうはいくん】と呼ぶのにも関わらず、真剣な話になるときは必ず【夜輝ほたるくん】と呼び方が変わっていた。

 夜輝ほたるはその事実と沙貴さきの表情で全てを悟って、何も言えずにいた。

 その事をただ悔いていた夜輝ほたるは、帰路から少し外れた小さな公園のブランコに座っていた。小降りな雨の中、傘をさすことなく――。


「ホタちゃーん! もう朝よー!?」

 ドアのノック音と共に母親の声が家の中にも俺の耳にも響く。

 机の上で数学の問題集とノートだけが広がっている。

「起きた起きた! すぐ下行く」

 とりあえず母親に返事をし、学校への支度をしてる最中、「なんで今頃あの時の夢を……」と、いう風に疑問に思っていた。


 登校している中、俺はいつもより足取りが重かった。

 その理由は単純だ。今日が『海夏かいかアニメコンクール』の結果が出る日だからである。決して宿題が終わっていないからなどではない。

 断じてそうではない。大事なことだから二度と言った。

「あーっ! 緊張してきたっ!」

和泉いずみさんを見習いなさい。この淡々たんたんとした表情、いつも通りって感じね」

 自分のことが話題に上がったのにも関わらず全く話し出す素振りがない。

「どうした和泉いずみ

 若干声の震えを持たせながら聞いてみる。俺も緊張してるからだ。

「わわわわわ、私だって、もちろん緊張してるよー」

 話始めでは緊張してるのが伝わったが、語尾の話し方でやはり半減する。

 あれから和泉いずみは学校に着くまでの間ソワソワした様子で口を一才開かなかった。

 その間も俺と珠璃じゅりが不安のセリフを吐くも先輩せんぱいが、

「不安の言葉は繋げば繋ぐほど、更に不安になるものよ」

 と、俺たちをなだめながら学校へと着いた。

 この日の学校は授業はなく、二学期の始業式をした後にホームルームをして放課といった流れ。大体一時前。

 放課後は美月みつき先生も当然結果を一緒に見るため、先生の失恋話を聞いた、職員室から奥に進んだ人気のない教室で見る予定だ。秋貴あきは十一時放課ということで後に集合。

 学校に着いてからは課題をやっていないことなど頭に出てこないほど、アニコンの結果で頭がいっぱいだった夜輝ほたる

 普段は寝るはずの校長の休み明け挨拶、夜輝ほたるはソワソワが止まらなかった。もちろん和泉いずみはその中でも寝ていたけれど――。


 そして運命の放課後。

 秋貴あきとも合流して、あの教室で昼食を取ったが当然喉は通らない。

 結果が出る十五時までは最後の悪足掻わるあがきも出来ないのだ、ただ待つことしか。

 十五時から五分前。『海夏かいかアニメコンクール』のホームページを開き、結果発表の枠が出るまで待ち望んだ。

 いよいよ十五時になった。なのにも関わらず、夜輝ほたるは表示された結果発表の枠をクリックしようとしない。

夜輝ほたるくん? どうしたのさ」

 和泉いずみが察してくれたのか、気にかけてくれる。和泉いずみだって朝から緊張していたのに。

「はぁ、やっぱりヘタレよね夜輝ほたるは。なんならアタシがクリックしてあげようか?」

夜輝ほたるくん、みんなで作り上げたものなのだから大丈夫よ」

「オタク先輩……遅いです……」

「ほらほら霧雨きりさめくん、先生だって早く見たいわよ?」

 和泉いずみに続いてみんなが声をかけてくれる。

 背中を押してもらってるという感覚よりは、横になって一緒に進んでくれてる。その方が正しいだろう。

 俺は桜坂さくらざか高校の日本一のアニ研でアニメ制作をするのが夢だった。

 でも、珠璃じゅりがいて先輩せんぱいがいて、不思議なやつだけど和泉いずみだってずっげぇ協力してくれる。秋貴あきさんだって佐々木ささき先生だって。

 むしろこっちにきて正解だったのかもな。

 Cats glow、みんなの想いが伝わり夜輝ほたるは結果欄をクリックした。

 アニメ的展開であれば、ここで賞を取っているのであろうが、意を決した先には夜輝ほたるたちが望んでたものはなかった。

 最優秀賞『桜坂高校アニメ研究部』

 海夏賞『――、――、――、――』

 最優秀賞にも特別賞、通称つうしょう海夏賞にもCats glowの名前はなかった。

 今にも泣いてしまいそうな感情は押し殺し、精一杯笑って夜輝ほたるは言う。

「まぁだよな……! 分かってたけどさ、けど……」

 やはり笑顔の裏には涙が浮かんで見える。夜輝ほたるだけでなく、当然ながら他のメンバーも。

「悪い、ちょっと一人になりたい」

 そんな夜輝ほたるの言葉に珠璃じゅりは止めようとするが、それを沙貴さきが「一人にしてあげなさい」と言うように肩に手を置き止めた。

 先輩せんぱいの気遣いもあり夜輝ほたるは荷物をまとめて、一人で帰り始めた。

 足取りの重い中、それでもある場所にしっかりと向かって歩いていた。

 夜輝ほたるたちと沙貴さきが離れてしまったあの日行った公園。

 今朝の夢の記憶があったからだ。

 あの場所は夜輝ほたるにとって大事な場所の一つ。

 いつもの帰路から少し外れた住宅路。その一角に細い通り道があった。

 数十メートル歩いた所にブランコだけがある小さな公園。

 昔は砂場や滑り台、鉄棒にシーソーなどもあったが、今やブランコのみとなっている。

 勇逸のブランコでさえ、老朽化ろうきゅうかの影響で今年度末に撤廃されるらしい。

 そんな知る人ぞ知る場所。夜輝ほたるはブランコに座った。

 スマホで海夏かいかアニメコンクールのホームページを開き、変わらない結果をただ眺める。

桜坂さくらざかはそりゃ最優秀賞だよな……」

 このアニコンでは通年、応募したアニメは別ページにて全話見れる事になっている。

 そっちのページへと移り、桜坂さくらざかのアニメ『絶対平和主義の私の転生先は魔王様!?』というthe異世界系のアニメを再生してみる。

 自分たちのアニメが悪かったとは思わない。ただ比較対象が悪かった。夜輝ほたるはそう思った。

 アニメの一コマ一コマがまるで別物。本当に同じ学生が作ったのか疑ってしまう。

 一人一人の声も編集力も比にならない。いくら先輩せんぱいの絵が上手くたって、珠璃じゅりの作曲力があろうと、和泉いずみの声がどんなに良かろうと……。

 こんなにも悔しくて、悲しくて、今にも全てを投げ出したくなってしまうくらいなら、初めから負け試合をしなければよかった。

 夜輝ほたるはそう、どんどん否定的な心で桜坂さくらざかのアニメを見進めていく。

 アニメ一話も中盤まで来て、主人公が現実世界で死んでしまい目を覚ましたら魔王になっていた。

 ますます夜輝ほたるの自己嫌悪感が増していくと、まるであの日のように――。

「やっぱりここにいたんだね、ここ探しにくいよー」

 声の先を見ると、前の記憶と今の景色が重なり、夜輝ほたるは気づいた。


「バイバイ、夜輝ほたるくん」

 一度、夜輝ほたる沙貴さきは離れる事になった。

 沙貴さきのその呼び方、表情ののこを浮かべながら夜輝ほたるは自然とあの公園に来ていた。

 理由はない、なんとなく足が向いただけである。

 その日も夜輝ほたるはやるせない気持ちに囚われていた。

 幸い、小雨が降ってきた影響もあって涙は隠されて。

「君、雨に濡れるのが趣味なの?」

 顔を上げると猫耳付きの黒い傘を刺した、茶髪の長い髪の女子が首を傾げていた。

 そんな悪趣味のあるやつなんぞいるわけがないだろ。そう思いつつも夜輝ほたるは答えた。

「いきなり雨が降ってきたんだから仕方ないだろ」

「あれ、もしかして泣いてました……? 一人にした方が」

「いや、別に大丈夫ですけど、」

 夜輝ほたるの震えた声でなんとなく察した女子。

 出会い頭は敬語は使っていなかったが、自然と堅い口調になっていた。

 夜輝ほたるの遠慮も気にせず、二つあるうちのもう一つのブランコをタオルで拭いてから座る。

「ここ座っていいー?」

「もう座ってないか?」 

 そんなありがちな会話でも今の夜輝ほたるには楽しく感じた。

 小雨だからか、夜輝ほたるをからかうためなのかわざと傘を閉じてブランコを虎視こし眈々たんたんと漕ぎ始める。

 ギィーギィーというブランコの音だけ続き、会話は完全に途絶えていた。

 この人はただブランコをしにきたのか? こんな裏ルートにあるような公園に? そう思った時、女子はゆっくりとブランコの流れを止めた。

「ブランコってすぐ飽きるねー。小さい頃はもっと楽しかったはずなのにね」

「えっと、そうだな、?」

 反応に困る会話。なぜなら五分ほどブランコをこの女子は楽しんでいたからだ。

「何があったの? 私で良ければ話聞くよー?」

 回りくどい聞き方はせず、単刀直入に。まだ出会って数分だが悪い人ではない、それはわかる。

 今はそんな人柄よりも、誰かと話したかった。この悲しみを打ち解け合いたかった。

 不幸な事に珠璃じゅりは春休みのこの期間、家族で旅行に行っているのだ。先輩せんぱいはわざとその期間に合わせて夜輝ほたるを呼び出していた、珠璃じゅりなら必ず文句を言って止めていたから。

 夜輝ほたるは一瞬話すか戸惑いはしたが会ったことを淡々と話し始めた。

「――――――でな。別れを告げられたんだ」

「えっとー、つまり二人は付き合ってたの?」

 今のエピソードの中にそんな描写は一つもなかった。最後の言葉だけしか聞いてなかったんじゃないか? 自分から聞いたくせに対応が実にしおだな。

 夜輝ほたる沙貴さき珠璃じゅりの今までのエピソードの最後からの思っていた全くの別物の反応が返ってきたため、夜輝ほたるは目をパチクリとさせる。

「ごめんウソウソ。私も、おんなじ様な事あったから分かるなー」

「おんなじこと……?」

「うん、中二の頃の話なんだけどねー、かえでっていう友達がいたんだよね」

 いたんだよね、文脈の過去形でなにやら不穏な空気を察し真面目に耳を傾ける。

「小学校の頃から仲良かったんだけどね、中二の頃にかえでがちょっとしたことでいじめられてちゃってさ」

 女子はこのような話題なのにも関わらず、変わらず単調な調子で話づける。

「ホントなら私がそばに居て、味方になってあげるべきだったのにさそれが出来なかったんだよね。……だからかえでは」

「え、まさか……しん、」

 ハードなイジメの先に自殺をした少年が転生をして、そっちの世界で少しづつ人と打ち解け合うアニメを見たばっかりだからだろうか。嫌な予感がした。

「いや、死んでないよ? 勝手に私の友達を殺さないでよ。引っ越したんだよー、もうひどいなー」

「す、すまん」

 とりあえずこれは俺の落ち度である。謝っておこう。

 それはそうと、思っていたより『おんなじこと』という状況に近い。

 先輩せんぱいが同級生に距離を取られていたのを知っていたのに、俺と珠璃じゅりは何もできなかった。それが原因かは分からないが、関係してるはずだ。

 俺の謝罪も、相変わらずの何を考えているか分からない表情で流して、声を広げるように言った。

「会えるか分かんないけど、次会える時が来たなら絶対に、あの時はごめんって、ホントはこれからも仲良くしたいって言おう、それが私の目標なんだよねー」

 自分と同じ境遇きょうぐうにいる人がこんなにも立ち直り、次のことを目標に生きている。自分ならここまで立ち直ることは出来ないだろう。

「俺も先輩せんぱいに会った時、絶対に言わないとだな。今までの感謝とか先輩の絵がもっとこれからも見たいって」

「うんうん! それじゃー、お互い頑張らないとだねっ!」


 あの時の笑った顔、特徴的な話し方と声。

 立ち直るキッカケをつくってくれた恩人を忘れてた訳ではない。あまりの外見の変化に気づいていなかった。

和泉いずみ、もしかして去年の……」

「よかったー、まさかあの時会った夜輝ほたるくんは別人だったのかなって思ってたから」

 あまりにも夜輝ほたるは鈍感すぎるため、あの日の女子と竹姫かぐやが同一人物だと気づいていなかった。それに竹姫かぐやは、まさか自分の勘違いなのかなと少々不安であったのだ。

 和泉いずみは前のように聞くことはなく、自然と隣のブランコに座って言った。

「今日は泣いてないんだねー」

「別に前も泣いてたわけじゃないしな」

 一応誤解は解こうとした夜輝ほたるに「そっかー」と抑揚よくようの感じられない声でいい、ほんの少し間が空いて夜輝ほたるが話出す。

「まぁな、あの時はどうすることも出来ないって状況だったけど、今回は桜坂さくらざかの作ったアニメを見ちゃったらなんも言えねー、って感じなんだ」

 圧倒的な差を見せられると人は、悔しさよりも納得の感情が出てきてしまう。俺は今回のことでそう思った。

和泉いずみの声はスッゲェ良かったし、珠璃じゅり秋貴あきさんの曲も、先輩せんぱいの絵だって、みんなだけなら桜坂さくらざかといい勝負出来ると思った……だからこそ俺がもっと人が惹かれるようなアニメを考えていなかったっていう証拠なんだ。ごめん」

 夜輝ほたるは自分の夢に付き合わせ、みんなに敗北を味合わせてしまった。そのことを自分のせいだと卑下ひげすることしかできなかった。

 夜輝ほたるのそんな自らの嘲笑あざわらいに、竹姫かぐやが表情を変えて声を強くする。

「あのさ、夜輝ほたるくん。それは違うでしょー」

 和泉いずみはムッとするわけでもなく、声を荒げるわけでもなく、ただ感情を表に出していた。

珠璃じゅりのこととか、沙貴さき先輩のこととか秋貴あきちゃんの事とかを褒めて、負けたのは自分のせいだっていうのは理由にはならないよ」

和泉いずみ……ごめん」

 和泉いずみは座ったばかりなのに立ち上がり、学生カバンを漁りながら。

「なんなら私が一番悔しいんだよ!」

 そう言って取り出したのは付箋ふせんだらけの台本。

 今まで二人で本読みをして、セリフを入れてきた。だけど俺は和泉いずみの台本に気付いてすらいなかった。

 和泉いずみは取り出した台本をめくるというよりも、付箋の箇所で特定のページを開くと沢山の書き込みがされたページ。

「なんで夜輝ほたるくんはアニメをいっぱい見てきてるはずなのに分かんないのかなー、入賞しなかったからごめんって。そんな言葉を貰うために私たちは頑張ったわけじゃない!」

 台本に指が食い込みクシャッとなるのが分かる。和泉いずみは本当に怒っている。

「じゃあなにを俺は言ったらいいんだよ!」

 何に怒りをぶつけてるのか。和泉いずみにムカついてる訳でも入賞しなかったことに苛立ってる訳でもない。俺はこんな自分に嫌気がさしてるんだ。

「だから、夜輝ほたるくんはアニメ見てないの⁉︎ 人は何度も謝られるより、一度ありがとうって言ってもらえた方が何倍も嬉しいんだって! それは二次元アニメの中の話だけじゃない、三次元リアルだってそうなんだよ!」

 和泉いずみがアニメを見ていたとこなんて見たことない。そのセリフを知っているという事は俺が知らないうちに見ていたのだろう。

 なんと言っても台本の書き込みを覗いてみると、見覚えのあるキャラの名前が書かれていて、【――みたいに可愛く】【ここは――みたいな冷静な声で】

 一つのアニメだけじゃない、幾つものアニメのヒロインキャラの名前と、自分のセリフに対する自分なりの考察。

 和泉いずみは俺たちの、俺の夢のために努力しキャラを演じ切ってくれた。そんな和泉いずみの顔を見上げてみると目柱が赤く。

和泉いずみ、ごめん。ホントごめん……」

「違うよ……なんで、なんで何も悪くないのに謝るのさ……」

 雨の滴ではない。和泉いずみは涙を一粒、そしてまた一粒とこぼし、俺に見せていた台本に何度も落とした。

「なんで、和泉いずみが泣くんだよ……」

 メンバーの前では泣かない、そう決めていたのに。

夜輝ほたるくん、来年のアニコン応募するよね、絶対勝つよね」

 まだ涙声で携帯を取り出すと、来年度の応募ページが。

和泉いずみ、俺たちは今年のアニコンで入賞出来なかったんだ」

 それがどういうことか、言わなくても和泉いずみは分かった。

「どうしてそこまでアニ研にこだわるのさ、私たちは別に部活じゃなかったけど応募したじゃん」

「確かにそうだけど……」

 涙を抑え、二人は静かに話している。

「第一、奇跡でも起こらない限り俺たちが勝てる訳なんて――」

 俺は桜坂さくらざかのアニメを見たばっかりだから言える。圧倒的な差がある、勝ち目なんてない。

 前に一度、

桜坂さくらざかのアニメはな、ちゃんとしたアニメ制作会社が作ってるアニメといい勝負、いやもしかしたらそれ以上かもしれないんだ!」

 と、和泉いずみに言ったことがある。幾つものアニメを見た和泉いずみなら桜坂さくらざかの実力を理解しているはず、なのに。

 百八十度回転すると大きく息を吸って。

「それじゃー、私たちで奇跡きせき起こしちゃおうよ!」

 この明るさ、この声の雰囲気は華恋かれんに似ている。

 けれどこの感情は紛れもなく和泉いずみ竹姫かぐやのものでできていた。奇跡きせきという言葉がまるで普通のことのように、怖がることも、恐れることもなく、はっきりと和泉いずみ竹姫かぐやの感情として。

「和泉、お前バカだろ」

 確かに俺は落ち込んでいた。自らを貶さなくてはやっていけないほどに。

 だけど和泉の声と今までは見たことないくらいの笑顔を見ると自然と俺まで笑顔になっていた。笑っていた。

「いやいやー、夜輝ほたるくんだって同じくらい頭悪いでしょー」

 二人はお互いに笑い合い、今までの悲しみムードが一瞬にして吹き飛んだ。

 笑ってる理由なんてわからない、多分ないんだと思う。

 でも俺たちは笑っていて、俺は自然と声に出た。

「ありがとな、和泉いずみ!」

「うん、合格」

 一度は諦めかけてしまいそうだった夢。

 今は明確に来年のアニコンで入賞する、海夏かいか賞じゃなくて最優秀賞を取る。桜坂さくらざかに勝ってやるんだって。

 それは俺だけの夢ではなく、和泉いずみも同じ夢を心に宿してくれてるんだって。

 俺たちの話も落ち着きがみえそうになったタイミングで、何やら角の方から騒がしい声が。

「ちょっと、押さないでもらえるかしら」

「はぁ? ギサキがずっとそこにいるからあっちの会話が聞こえないんだっつーの!」

「あ、ぁぁ、姉様ねぇさま珠璃じゅりさん……バレますって……」

 ピタッと目が合った。なぜか目が合うとどうでも良くなったのか堂々とこちらへ向かってくる。

「ふんっ、偶然ね。こんなところで会うなんて」

「いや、明らかに帰り道と違うだろ」

 思ったことをそのまま、実際こんな隠しクエストでしか来ないような場所なんだから仕方ない。

「はぁ、鈴宮じゅりさん。和泉いずみさんがいつもと違う道で帰ろうとしてたから心配になって後をつけてみたらそこに偶然夜輝ほたるくんもいた、そう素直に言えばいいじゃない」

「ちょっ、それは言わない約束じゃ……!」

珠璃じゅりー、もうなんとなく分かるからいいよー?」

「うぐっ……」

 三次元リアルでこんなにもわかりやすく「うぐっ」なんて言うやつ、珠璃じゅり以外にもいるのか?

 珠璃じゅりは悔しそうな顔で上を向き、

「あーもう! なんでいつも私が最終的にこうなるのよ!」

 と、言うと横の秋貴あきに目を向け、あたかも助けを求めるようにする。

「えっと……一人で帰るのが嫌だったので着いてきただけですよ?」

「もうっ!」

 こんな何気のない、ばからしくもある会話は幾度いくどとなく繰り返してきた。

 でも今はこのメンバーでの会話一つ一つが宝物のように感じる。

 それはきっと、俺たちの絆がこの約半年の間に深まったからなんだと思う。

 結果はどうであれ、俺たちにとって無意味な時間じゃなかったんだ。

 夜輝ほたる竹姫かぐやは顔を見合わせると、竹姫が頷き夜輝も頷いてみせた。

珠璃じゅり先輩せんぱい秋貴あきさん、ありがとな!」

 三人とも話をやめて、夜輝ほたる竹姫かぐやに目をおくった。

 「これからもみんなよろしくな! 来年こそは最優秀賞だ!」

 言って夜輝ほたるが立ち上がると釣られるように竹姫かぐやも立ち上がり。

 竹姫かぐやは「おー」といつもの調子で。

 珠璃じゅりは「当たり前よ!」と意気揚々に。

 沙貴さきは「そうね」と腕を組み。

 秋貴あきは何も言わないが嫌な顔はせずに微笑んだ。


 Catsキャッツ glowグロー一同、部活活動としてではなく個人の活動、いわゆるサークル活動としてこれからの方針を立てていた。

 しかし、俺たちの気持ちが統合した三日後、秋貴あきを除くCatsキャッツ glowグローメンバーが職員室に呼ばれたのであった――。

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オタクな俺が、別次元の君に恋をする。 梓衣ユウ @Azusai_yu

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