5コマ目 テストと夢。
目の前には魔王軍幹部最強、レイヴン・ウルティムス。
仲間の半数は重症。ここら一体は火の海。まさに世界の終末を見ているかのよう。
だが、俺たち特殊部隊、マラキア・グラディウスら七人が負けるわけにはいかない。
「ミリカの攻撃を喰らいやがれなのです! アクアスペクルム!」
このチームのムードメーカー、水魔法を専門とするミリカの攻撃。鏡で包囲網にして、そこから高火力の水の光線。この攻撃は、魔王軍幹部ベスト7《セブン》を一発で仕留めた技……なのだが。
「こんなものか。この程度の火力でこの我を倒せるとでも思っておったか。散れ」
ヤツにはピクリともしないどころか、反撃を喰らい、崖に打ち付けられ地面に倒れるミリカ。
俺たち七人のうち、水、炎、岩、風、血属性の五人が戦闘不能状態に陥った。まさに絶対絶命。
このままでは……全滅、どころかもっと最悪な事態が……。
ここから北に数十キロ進んだ先にある大都市、リラーカ帝国には、ちょうど国王と王女が滞在している。
これ以上コイツを進ませるわけには行かないんだ……。
ピンチの最中、光魔法の使い手、セシリアの詠唱が終わる。
「――――アナタに光の断罪を下します! セレスティアル・ルーナ!」
ウルティムスの上空彼方に広がる光の渦。
ヤツを目掛けて光の矢が降り注ぐ。体に突き刺さる光の矢は次々と生成され、数十秒間、敵の動きを止める。
やったか……? セシリアの必殺魔法を喰らって今まで耐えたヤツはいない。いくら魔王軍幹部最強と言っても――。
だが、次の瞬間、俺の期待は更なる絶望へと変化した。
「ハッハッハッ、これだ……これを待っていたぞ光の女よ! 我の能力を知らないのが仇となったな。我の能力は、敵の攻撃を吸収して自らの属性とするもの……。つまりお前らが今まで攻撃してきたものは全て我の糧になった!」
能力の開示。これをする事により、自分の手の内を明かす事になるが、更なる進化が起こる。
今更、能力の開示を受けたところでなんの対策もできない俺たちは諦めるしかないのか……。
「ホタル、まだ諦めるには早いよ! 負けるわけにはいかないでしょ⁈」
「……うん、そうだな! 勝つぞ!」
俺たちは魔王を討伐しなくてはいけない理由があるんだ。こんなところで負けるわけにはいかないんだ。
俺とセシリアは作戦会議を速やかに終わらせて戦闘体制に入る。すると、崖の上で胡座をかいているウルティムスが俺たちを嘲笑う。
「作戦会議はもう終わったのか? ハッ、無駄だ。今まで炎属性の技しか使っていなかったがな、我の能力を開示した今、手加減する必要もない。全属性を手にした、我の全力で行かせてもらおう」
立ち上がったと思えば、その場から消える。
見失った、どこだ⁉︎
周りを見渡す俺を突き飛ばすセシリア。
「危ない……っ! うっ……」
俺を庇い、セシリアの腹部から血が流れる。
「おい! セシリア!」
「このくらい、なんて事、ない……」
光治癒魔法で治そうとしているが、手遅れだ。傷が深すぎる。
「やはりこの程度か、マラキア・グラディウスらよ。所詮は人間、魔王様の力無くしては全ての力が無価値……無意味」
「好き勝手言ってんじゃねぇ!」
俺の渾身の一撃、トニトルス・ニテンスを打ち込む。
だがしかし、ヤツの体には傷一つ付かない。……いや、傷つけた側から再生しているのだ。
「そんなん反則だろ……」
既に体も精神もズタボロな俺は、その場で跪く。
「終わりだ。雷を操りし魔剣の一人よ」
避けれない、抑えられない。もう終わりだ……。
敵の八属性総合魔法が空へと打ち上げられ、俺の方へと乱射される。
終わった……と思った俺の目の前は闇に包まれ、黒いローブを羽織った見知らぬ人物が。
「あなたは……」
爆風と共にゆらゆら揺れるローブを見て思い出した。
魔王軍元幹部最強、ペルぺトゥス・テネブラエ。
小さい頃に読み聞かされていた昔話に出てくる闇属性の剣士。全てを闇に染め、全てを闇へと葬る。
逸話では、勇者パーティを全滅させた後、姿を眩ましたとして話は終わりとされていた。
そんな話は嘘だと思っていた。でも今、目の前の状況を見てる俺なら分かる。テネブラエは、存在する!
「ごめんな〜、雷の坊主。腹壊しててよ、便所行ってたら遅くなっちまった! オメェさんのお仲間は少しだが治してきたから安心しな。……でもあの光の嬢ちゃんは手遅れだ」
「傷を見れば……なんとなく、分かります……。今はヤツを倒す事に」
「あぁ、だな。おい、ウルティムス。相当強くなったみたいだが、俺を楽しませてくれるんだろうなぁ?」
登場時の朗らかな喋りとは一変、ウルティムスを睨め付け、闇のオーラを刀に纏う。
「雷の坊主、名前は?」
「ホタル、です……」
「よし、ホタル。お前はとりあえず、あの嬢ちゃんの所へ行ってやれ。ちっとコイツには用があってだなっ!」
自らの影の中へと入り込み、ウルティムスの背後の影へと回り込み、瞬時にヤツの体を斬り刻む。
ヤツも負けじと即座に再生と攻撃を繰り返す。攻防戦が続いている。ほぼ互角といった……いや、テネブラエが押し気味だ。勝てる。
そう確信を持った俺は、セシリアの元へと駆け寄る。
「おい、セシリア……大丈夫か……」
「……私は多分、もう……無理だ。ホタル、あとは任、せたよ……。最後に、君の声が聞けて……よかっ、た」
涙を流しながら笑うセシリア。今まで幾度となく見てきた仲間の死。これは分かる、分かってしまう。セシリアは……死んでしまう。
「死ぬな、死ぬなセシリアっ……!」
「セシ……リア……」
「ちょっと、ちょっと
寝ている生徒がいる時に発生する、
「すいません……」
「はい、ちゃんと起きてなさいよ?」
「
三時間目と四時間目の間の休み時間に入り、真っ先に寝てしまいたい俺に
「ぁあ、良いところだったんだよ! 聞いてくれよ
ホントは寝たいところだが、あの夢の内容を忘れる前に他の人に言っておかなければ……名作が誕生するかもしれん。
眠気が飛び、熱気に満ち溢れる。
「俺たちが魔王軍幹部最強と戦っててな、ピンチの時に元魔王軍幹部最強の伝説の闇の剣士が登場してだな! 俺を
「あ、うんうん。もうその辺にしてていいよー? なんか色々
興味がなさそうだ。聞かれた通りに答えただけなのに。
「ゴールデンウィーク明け初日の午前中から寝るなんて、ふぁーー。一体なにがあったのさー」
火をすっかり消火された俺に、あくびをしながら再び問う
「一昨日の話なんだけどな――――」
「ほうほう、長すぎてあんまり分からなかったけど。とりあえず一昨日に先輩が二、三話の絵を完成させて送ってきて、その編集で忙しかった、これで合ってるよねー」
話の冒頭、分からなかったと言っていたが、全て理解している。やっぱ改めて俺が
ともあれ、俺はこの二日で二、三話の編集を終わらせたからここまで眠いのだ。一週間前に戻りたい……ってそうか。
「あれ、どうしたのー?
「あ、いや別になにも……」
俺の視線に気付いたのか、一番前の席で女子友達と話している
すると、友達との話を切り上げ俺たちのところまで歩み寄る。
「ふっ、授業中怒られてやんの
……コイツ分かってて言ってんのか。もちろん編集が忙しかったと言うのもあるが……。
――これから作るED、アンタに向けて作るわ! 私の気持ち、ちゃんと伝わるように!
キーンコンカーンコン。授業一分前のチャイムが鳴る。
「あ、そうだ
そう言い放ち、教室の前へと小走りで行く。
思い悩む俺の方に耳打ちで
「え、やっぱりなんかあったのー?」
「あった……のかもしれない……」
昼食を取り、
俺たち二人は職員室で
「ほらっ、
今までなら、
「ちょっと、なにボーッとしてんのよ! みっちゃんごめんね? ほらほら
一旦置いておいて先生役のオファーの事を聞かなくては……いや、やっぱり気になるんだけどな?
「あの、先生をやってくれませんか⁈」
俺たち三人に間が空く。
「……あの
「ちょっと、主語がないと伝わるわけないでしょ、バカなの?」
うん、それそれ。その喋り方だとなんか落ち着く。……俺ってMなのか……?
「あ、先生。俺たちが作るアニメの先生の声を担当して欲しいんです」
「えっと、まだ全然状況が理解出来てないんだけど……」
そういや俺たちがアニ研を作りたいって言ってなかったっけ……。
思わぬ盲点に、先生に説明をする。
「うんうん、
職員室内で自信満々に言う先生。ちなみに周りに先生は沢山いる。やめて欲しい。
自らの声をなんともなかったかのように続ける。
「でも二人とも、アニメを作ってアニ研を作りたいって言うのはいいんだけど、来月のテストは大丈夫なの?」
ほうほう、ふーん、テスト……テストっ⁈
「えっ、先生今なんて言いました⁈ 来月のテストとか言いました?」
「うん、聞こえてるじゃない」
「もちろん私は知ってたわよ? この学校は特殊で、六、十一、二月の序盤になぜか学期中間テストだけをやるのよ。まさか
いや、幸い先輩の絵は凄く速いペースだし、俺の編集スピードも上がってきてる。六月中にテストが終わって、それから声入れと曲の入れ込みならまだ全然時間は余るくらいだ。
一時はどうなるかと思ったがなんとかなりそう……かな。
残りの期間で計画を脳内で立てる
「なに不安そうな顔してるのよ。いいわ、私が教えてあげる。中学毎回学年順位一位のこの私が!」
週末、俺に勉強を教えると
「おい
「
そうでした、
「学年一位の先輩に教えてもらえるなんて光栄じゃない、良かったわね、後輩くん」
俺の部屋に女子が四人、
俺の部屋の中央にある、そこそこ小さめの丸テーブルを囲う俺と
意味の分からない状況に困惑する俺を気にせず、早速筆箱を取り出す
よーし、一旦話を勉強方向からずらそう!
「よし、お菓子持ってこようか! なにがいい⁈」
「後輩くん、赤点を取ったら部活を作ることは出来ないって言われたのよね? そんなんでいいのかしら」
うちの学校の規則で、赤点を三つ以上取った生徒の部活活動は禁止とする。っていう、校則甘々なうちの学校にある意味分からん校則。もはや校則じゃなくて拘束。
「はい、すみません……」
「夜輝、なんのために午前中に集まったと思ってるのよ。とりあえず今日と明日は、今までやった範囲を完璧に仕上げとくわよ! そうすればテスト前に再度勉強する時も楽になるから」
あーあー、頭のいい
二人の圧に負け、大人しく定位置に座る。……いや、主人公ならここはどうする。もっと
「せめてラノベ一冊読み終わってから!」
「真面目にしてちょうだい」
「珍しくギサキと同意見よ。真面目にして」
二人ともガチの目だ……。百歩譲って勉強することは許そう! でも、でもこれだけは!
「まず
勉強会一日目。外はすっかり暗くなり、この地獄な時間もそろそろ終わる頃だ。
今日の内容は、数学の数と式の範囲、化学の
まず最初に脱落したのは
二人目はこの俺。化学の内容ですっかり頭は
そして意外にも最後までやり切ったのが
教師陣営もきっとヘトヘトであろう。そう思い、二人の会話に耳を立ててみる。「明日は英語と国語がメインよね」、「国語は古文と漢文をやった方がいいかしら」と、正直聞かなければ良かったと後悔する内容であった。
そして何よりも
何はともあれ、せっかく今日の授業が終わったのだから、床ではなくベッドで横になろう。そう思い、立ち上がった俺に
「夜輝、645年に
突然のクイズに思わず「えっと……」とだけ返してしまう。が、これはいい
「あれだろ、生ゴミのつくだ
語呂は思い出せるものの、肝心の正解は出てこない……。
すると、今まで寝ていたはずの
「それって、生ゴミの
「それだ!」
なんとなく聞き覚えのある名前にとりあえず共感してみる。
だが、
「二人とも、それ本気で言ってるの……? はぁ、私たちの時間……」
「この二人、思っていたよりも大分深刻ね。最後までやり切ることが出来なかったこのヘタレオタクくんは、それで
いつもよりも
これは仕方ない、謝るしかない。
「すみません……」
「えっとー、私もごめんなさい……?」
とりあえず
に続き、より一層深いため息を吐く教師二人。
「ギサキ、どうする? これ、ほんとに赤点コースだよね……」
「
それから数分後、話にまとまりがついた教師組。
「ほら、二人とも。アタシとギサキで話がまとまったわ」
「聞いてちょうだい。このままではアニコンどころか、それ以前に今までのアニメ制作の努力も無駄になるわ」
重々しい表情で話を繋ぐ先輩。確かに言ってることは正しい。実際、今日やった数学と化学は多少理解できたものの、このままでは赤点ギリギリセーフコースだ。
まさか、アニメ制作の前にこのような試練が待ち受けてるとは……。
そして、言葉を続けていた先輩の口から驚きの言葉が。
「私も一度乗った船なのだから、諦めたくない、というのが本音よ。だから、私自身のためにも、
え、嘘だろ……。先輩が俺たちのことを思って言ってるのは分かってる。
でも、アニメ制作だけでなく、アニメを見るのも、ゲームをするのも禁止……⁈ オタク人生の全てを没収されてしまったと言っても過言ではない。
「エッ! 俺、死にますよ? マジで!」
「そうだよー!
本気の
「
先ほど耳に入ってしまったので、知っています。
まぁ、
いいだけなんだ……。
ようやく決意が固まり、
既に夜八時を過ぎてると言うこともあって、この日は解散した。
次の日は、文系科目メインというのもあり、
毎日放課後は残り、
そして、時間は一日、また一日と過ぎていき、
テスト一日目:国語、理科。
テスト二日目:数学、社会。
テスト最終日:英語。
が終わった6月11日の放課後、昼食を食べた後、
「あー、やっと終わったな!
「うんうん、おかげさまで数学は赤点じゃなさそうだよー」
「そこはもっといい点取れない⁈ ……まぁテストまでの期間、みんなお疲れ様、よね!」
「鈴宮さん、もちろん分かっていると思うけれど、この二人は答案用紙が返ってくるまでが不安なのよ?」
俺と
……自信はあるが、やはり不安は不安だ。今まで見てきたアニメや漫画で、解答欄が一つズレていて一桁! みたいな状況も無きにしも……だもんな。
「おーい、
「今回のテスト、こんなに教えてもらって自身はあるんだけどさ、解答欄がズレてるっていうありがち展開来そうじゃないか? それが不安でな」
俺の悩ましい発言を聞き、
「
との事だ。学年一位がそう言うのだから、安心しておこう。
ともあれ、やっとテストが終わったのだ。これでアニメ制作も再開できる。もちろんアニメも見れるし、ゲームも出来る。
四人はカレンダーを指差しながら、「ここまでに映像自体は完成させないと――」というように、今後の計画を立てていた。
ちなみに、
ある程度の予定が立て終わったところで、沙貴が一枚の絵をスマホで見せる。
「先輩これって……」
主人公〝
「私は勉強の合間に絵を描けるからね。タイトルが決まったらここに入れる予定だけれど、タイトルは決まってるのかしら?」
パソコンを開き、真っさらな画面に打ち込み始める
「俺たちが作るアニメのタイトルは。『
と、三人にパソコンを見せつける。
「えっとね、先輩も
今回の英語のテスト範囲にあった例文。何故か、その文を見た時にこれはいい! って思ったんだよな。
from you to meの意味は――。
「あれあれ! ……あのー、やっぱり
意気込んでた割に、急に拍子の抜けた
「
「おそらくだけれど、このアニメに当てはめる場合、君から僕へ。になるんじゃないかしら?」
その通り。
このアニメは
「先輩、その通りです。このアニメはですね、」
「いやね、わかんなかったわけじゃないんだよ! ほんとに。テスト終わったら頭から全部抜けちゃうからさー、英語は得意だし、うんうん」
余程、得意科目の英語で答えられなかったのが悔しいのか、俺の説明を
テストが終わったら頭から抜ける……よく分かるぞ
「
「いいんじゃない? 他のアニメと違う方向性の名前だし」
「ただし、このタイトルの意味は私たちは分かるけれど、初見の人には分からないと思うわ。だから『〜君から僕へ〜』のようなサブタイトルもあった方がいいかも知らないわね」
「from A to B、AからBへ……。うん覚えてるよね、うんうん」
余程根に持っているのか、まだ言っている。放っておくべきだろう。
「それで
ん? なんで
「後輩くん、何か言うことがあるんじゃないのかしら」
スッゲェ
何か言うこと……なんだろ。テストまでの期間で、実は禁止されてたアニメを見ていたことか、? それとも、英単語をしてる風に見せて、漫画に単語帳のカバーをして読んでたことか? 思い当たるふしが多すぎる。
これはあれだ。口を滑らせて、相手が求めてる答え以外のものを何個も答えすぎて
「えっと先輩、なんでしょうかね……」
沙貴の目は更に鋭くなる。それにつられて
「
どうやら
「
……あっ。デジャブです、すみません。
そういや、6月9日は先輩の誕生日。中学の頃も全く同じ事で説教された覚えがある。人の誕生日って覚えられないよな、しゃーない。
心の中ではそう思いながらも、中学の時にした流れに
「すみません、誕生日おめでとうございます。来年こそは覚えておきます」
と、三度目の宣言をする。すると慌てたように
「えっとー、おめでとうございます?」
「なんで疑問系なのかは聞かないでおくわ。ありがとね」
ひとまず話に落ち着きが見え、四人はそれぞれのアニメ制作の動きに移る。
from you to meの最終話は
そしてメンバーの行動に終わりを初めに見せたのは
机にうつ伏せ状態で寝ていた
「あれ、お母さん……じゃない? ん、
何度も
「いま何時ー? 私、結構寝ちゃってたよねー」
と、寝起きだからかいつもに増してフワフワ声が強調される。
「んーっと、もう六時半ね。
「んーん、別にここでもぐっすり寝れたみたいだしー。それより
「タイトルをどういう角度で、どういうフォントで、何色で挿れるかを考えてるところよ」
「へー、そうなんですか」
「貴方、自分から聞いておいてホント興味無さそうな反応よね……」
先輩の疑問が含まれた言葉に
「えへへー、そうですよねー」
と、意味不明な返しをヘラヘラとする
こうして俺たちのテスト終わりの金曜に
「あ、後輩くん。ちゃんと英単語と漫画の表紙は直しておいた方がいいわよ。ではまた明日」
え、怖い怖い怖い怖い。知ってて泳がせてたって事じゃないか……。
夜輝の鳥肌と
月曜には答案が全て返ってきた。
「
「はぁ⁉︎ ギサキ。アンタ今回は100点が一科目しかなかったらしいじゃないの。それに比べて私は英語と数学と社会が満点よ? よくそんな事言えたわね」
「つまり、国語と理科は大差で私に負けている……それを自ら認めている様なものよ。やはり
「そそそ、それとこれとは別でしょ⁈ 十一月、十一月よ! アンタが何も言い返せないくらいに勝ってやるわよ!」
と、俺からしたらどちらも凄すぎる点数同士で言い争っていた。
肝心なのは俺と
国語、数学、英語、理科、社会の順で言っていくと、俺は59、88、63、81、54。平均69点という今までにない高得点だった。
和泉は93、31、90、42、84。平均68点。数学と理科、ホントに理系科目が苦手らしい。
「おぉ、数学で30点以上取ったのは初めてだよー。
とも言っていた。本人も喜んでいたし、うちの学校は30点未満が赤点なのでギリギリセーフ。
テストの結果も出て、俺たちはより一層アニメ制作に力を入れた。
それからの時間の流れもまるで、瞬きをする様に過ぎ去っていった。
土日と平日は火木集合として、それ以外の日は各自進行。
先輩が描き終えては編集、声入れ、手入れ。描き終えては編集、声入れ、手入れの繰り返し。
特にトラブルといったトラブルも起きず、俺たちはとうとう六話、つまり最終話の手入れまで終えたのだ。
最後の声入れ、手入れを済ませた木曜、俺は真っ先にグループ
計画通りではない金曜の放課後に一から三話。土曜の午前中に四から六話の鑑賞会をした。
あとは各話ごとにOPもEDを挿れれば完成。ついにそこまでのチェックが終了。
「あとは曲を
「そうね、しっかり一分半の曲を挿れるタイミングもバッチリみたいだし。申し分ないどころか完璧よ」
先輩は俺たちの汗と時間、そして友情の結晶を見終え満足した顔で言うと、
「
実は一週間前の土曜に曲を完成させていた珠璃と秋貴。だが、そのことをまだ皆の前では言っておらず、
遡ること一週間前の日曜。曲を作り終えた二人は、新作のパンケーキを食べに行っていた。
パンケーキを小さな口で一生懸命頬張り、飲み込むと、
「大丈夫だったんですか? 今日、集まらなくて。曲も聴かせればよかったのに」
「オタク先輩にはもう聴かせたんですか?」
この質問にもまた、「いやいや〜」と、首を横に振る。
「もー、なにか言ってださいよ……」
ゴクリ。口の中のパンケーキを胃の中にしまうと、笑いながら
「ごめんごめん。
昨日登場した、さくらんぼとブルーベリーが入っている新作の『ベリーたっぷりパンケーキ』の影響か、カフェ店内は
その周りの声に
「もう、からかわないでください。それよりさっきの質問に答えてくださいよ……」
口ではこう言ったものの照れを隠している秋貴に、
「今日は〜サボり! んで、
声には出さず、「なぜ?」と言わんばかりの?顔。そう感じとった
「――――で思わず言っちゃったの。『アンタに向けて曲を作る!』みたいな事をね」
「だからそ日のこと、全然話してくれなかったんですね」
「あーもう! なんであと先考えずにあんな事言っちゃったんだろ!」
「でも良かったんじゃないですか? 今回の曲はオタク先輩への想いを乗せた曲なんですよね。この曲ならきっと伝わりますよ、
「いや、それはもっと恥ずかしいから! まぁ近いうちに
「おい
流石にこれ以上はシラを切れないと判断した
再生ボタンを押すと、ピアノの心地よい音と共に『この気持ち全部君のせいだ』と、
そこからギターにベースにドラム、キーボードのバンド調ながらもおとなしい音色を奏で、曲の中盤まで来たところで一気に楽器の音が止み、ボーカルの声のみに。
サビ手前、再びピアノとボーカルの音声のみになり、そしてサビに入ると今までの溜めた想いを放出するように激しいのに穏やかな、新鮮で不思議な感覚に身を包まれる。
『後悔も楽しみも、愛情も時間も悲しみもこの気持ち全部全部全部君のせいだ。
最後は、
その沈黙に不安を感じた
「えっと……どうだった……?」
「……うん、うんうん! すごーくよかった! 気持ちが乗ってる感じがしたし、ピアノの音も綺麗だった! この曲を自分たちで作ってるなんてホントすごいよ!」
「
「あ、そうだな……。前に話した通りに
本当はもっと感想は出てくるのだが、後に先輩も控えてるのでこのくらいにしておいた。
「ふーん。曲名を聞いていいかしら?」
「『アネモネを赤く染めたのは』よ」
「やはりそういう事ね、いいんじゃないかしら。伝わるといいわね」
「ちょ、ギサキ……? アンタね」
「いいじゃない。どうせまだ気付いてないのだから」
「え、なんで俺の方をそんな見てるんだ。なんか付いてる?」
「オタク先輩。ホント最低ですね、この曲は――」
「いいわ、
今まで不思議そうに話を聞くだけしていた
「え? でも曲を入れたら完成なんですから、最後までやっちゃいましょうよー」
「
「あー確かにそうでしたね。ていうことは先輩がそれを描くってことですか?」
「えぇ、そうね。でもこればかりは私だけではなく
それを聞いて、
「なんでアンタと話し合わなきゃいけないのよ」
と、いつも通りの突っかかりをみせる。
「この二曲、というかED曲が特にだけれど、あなたの気持ちが
「……確かにそうだけど……」
この場で
「え、え、どういう事だ? 前に言ってた事と関係あるのか?」
鈍感というのにも度を過ぎてる
「なんで帰っちゃうんだよ! 教えてくれよ!」
最後に部屋を出ようとした沙貴は立ち止まり最後に一言。
「
そう言い残し帰って行った。
その後日、
制作期116日、制作人数六人のアニメ。
「これが俺たちの第一作。『
『
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