3コマ目 休日と背景。
先輩がアニ研に入ってくれる事になった。だがしかし、これでも部員は四人だけ。部活を創立する事は出来ない。
そこで、無謀だがこの四人で『
アニコンまで残り116日。正直言って四人で六話のアニメをこの期間で作るのはほぼ不可能だと思う。
一刻も早くアニメの内容を考えたいところだったんだがな……。
「コラー、
まだ五分も集合時間より早いんですけど⁉︎ お前たちが来るのが早すぎるだけじゃないか。
なんでこうなってるのか。これは先輩を説得した後の話だ。
「よし、みんな。まずはこれを見てくれ」
言って、俺が見せたのは『
超が付くほど大手のアニメ制作会社が主催しているアニコン。
そう、桜坂のアニ研が三年連続で
『
重要なのはここだ。最優秀賞の他に、審査員特別賞。別名『
その『
二十四分、OP、ED曲付きで六話を作らなくてはいけない。四人で作るのならば六話と言うのはまだ都合がいい。
「これに応募するって事よね!」
そう言って
「締め切りはいつなのかしら」
先輩は自分のスマホで調べ始めてこちらを睨めつけた。
「えっと……」
なんと言われるか。正直怖かったが思っていた答えとは違った。
「大体あと、四ヶ月くらいで締め切り……やり甲斐がありそうね」
俺を
「ギサキ、そんな短期間でホントに描けんの?」
「私を誰だと思ってるのよ。
また始まったよ。なんでこんなにも二人は仲が悪いのか。
「
「えー、私は二人の言い争い見てるの楽しいから止めないよー」
なんだその理由。
俺と
「昔みたいな絵を描けてないくせによく言うわね」
「ちょ、二人とも……!」
「
首を横に振り、やれやれとして先輩は言った。
そんな
「あのさー、さっきから気になってたんだけど、
「あ、あーそれはね、キサラギサキの最後の三文字を取ったらギサキになるでしょ」
まだ声をショボショボさせながら
「そうなんだー、ネーミングセンスが、うん……って感じだねー」
話を切り替える様に、先輩は
「
いつものふわついた声で先輩と
「なんとなくー? 五人集めなきゃいけないって聞いたしー」
じゃ俺も。なんとなくー? コイツの将来が不安になった。まぁ俺に関係ないけどな。
まさかの答えに
「え、それじゃ
「そうだねー、この
先輩は紅茶をすすり、平常運転に。
「アニメを初めて見る人になにを見せたのか、後輩くんのセンスが問われるわね。一体なにを見せたのかしら」
……言えるわけないだろ。ここで先輩と出会った、三人が揃った思い出のアニメを見せたなんて。恥ずかしすぎる。
「え、えーとナンダッタカナー。忘れちゃったなー」
我ながらあっぱれな棒読み! とりあえず話をずらそうとしたのも束の間、
「『二人の恋は放課後に』だよー?
グハッ……。今すぐここから立ち去りたい……。
顔を真っ赤にしている俺に
「ギサキがここで見てたアニメじゃん」
「私たちの出会いのアニメって事ね……まぁアナタにしては上出来ね」
その後も
もうそろそろ帰るかとした時、
「今更なんだけどさ、
よくぞ聞いてくれた! 俺も気になっていた。上下ともにジャージ姿。まるで……。
「まるで夜中にコンビニ行く時の格好みたいね」
先輩が代弁してくれた。この見た目は完全に、日本全国誰に聞いても同じ意見が聞けそうだもんな。
「他に服持ってないのか……?」
「女子に向かってデリカシーないねー、
いや! 持ってないのかよ! デリカシーなかったのは認めるけどさ。
「いいわ! アタシに任せなさい! アンタにいい服を選んであげる。明日時間空いてるわよね?」
悩む様子もなく、即座に
「全然空いてるよー。でもなんか申し訳ないよー」
せめて少しは悩んでから答えたらどうだ……? フッ
ここで
「ア、アンタみたいな服装の人と一緒に居たくないだけよ!」
あーあ、素直にもっと仲良くなりたいとか言えばいいのに、流石の
「そっかー、なら
コイツ、スルースキルが異常すぎる……。
まぁともかく、アニ研メンバーで仲を深める事はいい事だ。うんうん。明日俺は家に
「アンタ達もよ、
「えっ、」
まさか俺まで呼ばれるとは。正直言って断りたい。
俺が返事に困っていると先輩が先に答えてしまった。
「せっかくのお誘いだけれど、私は今ならキャラを描ける気がするのよ。だから遠慮させてもらうわ」
この流れに合わせて俺も断れば!
「なら
「なんで!」
なら、の意味が分からんが俺は強制連行という事になった。
そして日曜の朝早く、こうなっているわけだ。
「そうだよー?
十時集合だよな? まだ五分前だよ? お二人さんがおかしいだろ?
俺が不服そうにしていると
「まぁいいわ。早く買いに行きましょ!」
「あ、あぁ。そうだな」
こうして俺は、興味のない女子の洋服選びに付き合わされた。
「二人ともな、主に
俺の姿を三人称視点で見てくれよ。
右手には
そして右手に注目してくれ。
右手には四つの袋。完全に塞がってて何も出来ないぞ。
自分の荷物を持たせているくせに、
「今日はいいアッシー君に来てもらえて良かったわね、
「ねー、ほんと。私たちは何も持たなくていいんだもん」
コイツら……。まだ買うとか言うんじゃないだろうな。
俺の先を歩いている
「じゃ、もう昼だし、なんか食べよっか」
「そうだねー」
お、という事はこれで服は終わり……!
俺の願望
「食べ終わったら次は上の階よ!」
やっぱり
俺たちはフードコートで、三人バラバラなものを食べた。
ちなみに三人で座れる場所がなかったので、俺だけ二人の荷物を持ったまま他の席で食べたんだけどな。
心から最低という言葉をお前ら二人に渡したい。
三階へとエスカレーターに乗っていた時、
「服を見る前にさー、私、ゲームセンター行ってみたいんだよねー」
「
胸を躍らせる
一つ目は
二つ目は
そして最後は、この荷物のまま俺も行かなくてはいけないという事だ。
そう思いながらも二人の後を着いていき、三階の一番奥にあるゲーセンに入った。
「どれかしてみてもいいかな?」
目を輝かせながら、
そして
おいおい、確率機はなかなか取れないぞ……。
案の定、
「やっぱり取れないよねー」
そう言い、諦めた
「よし、俺に任せろ」
「え、でもその荷物じゃ……」
盲点だった。俺の両手には紙袋、これじゃ出来ないじゃないか。
「はいはい、しょうがないわね。持ってあげるわよ」
いや、ほとんどお前の荷物な⁈
「うっ、案外重いわね……」
そりゃそうだ。現段階で紙袋が二人合わせて五つあるもんな。それをずっと持ってた俺に高評価押してくれたって良いんだぞ。てか押せ。
不満はあったものの、とりあえず俺は百円を投入した。
「見とけよ」
アームはぬいぐるみの頭をがっしりと掴むと、そのまま獲得口へと動き、ゲット出来てしまった。
あれ……なんか思ってたのと違う。ホントは噛ませ犬みたいな感じになってしまう予想だったんだけどな。
まぁ取れたんだから、ここはひとまず喜ぼう。
「よっ、よっしゃ。ほい、
「ありがとー、なんかコツとかあるの⁉︎」
ほんとの事を言っても良いけど、ここは少し
「えっとな、上級者にしか出来ないテクニックがあってな」
「ただ確率が来ただけでしょ。良かったわね、
「あぁ、そうだな……。ただ確率が来ただけだ。コツとかない……」
気弱になった俺を
「ん? 確率……? よく分かんないけど、
こんなに素直に感謝されたら照れてしまう。なんとか誤魔化さないと。
「あ、あぁ。こちらこそ……」
おそらく全然誤魔化せていないな。
猫のぬいぐるみを抱える
「
「うん、好き好き。なんか猫を見てると元気出るって言うか」
猫に対しての愛を語っている
「でも、猫のあくびって、凄く臭いらしいよ?」
「あくびが臭いのは人も同じでしょー、多分だけど、私も
『受け流しレベル999の
なろう系が頭の中をよぎる。一つのアニメにあってもおかしくないタイトルだな。
「た、確かにそうね……。
「えへへ、そうかな、ありがとー」
おそらく褒めてるわけではないと思うぞ?
浮かれる
「それじゃ、他の台も見て回ろー」
俺と
「だな」
「そうね!」
「う、まさかあの後に何も取れないとは……」
俺たちはトコトン
これがなければ。だがな。
「はい、
なんとなく予想はしてたけど、俺の扱い酷くないか?
「お前な……少しくらいは自分で持てよ」
「よし! 行きましょ、
完全に俺の声は聞こえてない、て言うか聞こえないフリをしてるな……。
それから三時間ほど二人の買い物は続いた。その結果――。
なんだこれは。
しかも、
「じゅ、
俺は今にも死にそうな声で訴えかける。
「まぁそうね。相当買ったからもう帰ろっか」
しょんぼり気な
「そうだねー、結構買っちゃったもんね。
「
「それねー、荷物持ってくれたからって、
まさかそんな事が。俺は
「
「ちょ、なに泣いてんのよ!
「別にー?
はにかむ
「ちょっと、
なぜか自分に言い聞かせている。理由はなんであろうとほんとに感謝してる。
「ありがとな、
帰り道、二人の買い物エピソードやら、
「でねでねー、猫の肉球ってね前足と後ろ足で違って――」
「
スマホに映る電話の主は〝
「もしも……」
俺が喋ろうとすると、すごい勢いで先輩が話し出した。
「早くっ、早くグループマインを見てくれるかしら!」
猛烈な勢いに思わずスマホを遠ざける。耳が壊れるところだった。
「先輩、落ち着いてください! すぐ見ますから!」
先輩を
何事かと思い、即座に見てみるとそこには一枚の絵が。昨日見せてもらった、先輩がスケッチブックに描いていた教室の背景をバックに、四人の人物が。
「
「そこに二人とも居るのね。ならちょうどいいわ」
ちょうどいいとはどういう意味なのか。答えは
「この描かれてる人達って、もしかして私たちじゃない?」
俺と
「今の声は
ほんとに、凄いという言葉以外出てこない。で終わりたいんだけど。
「この転びそうになってるのが
やはりそうだよな。相変わらず、俺の扱い方が酷い。
いや、今は俺の
今まで、キャラを引き立たせるための
「今までの絵よりも好きだ……」
「そう言ってもらえて嬉しいわ」
思わず心の声がスマホ越しに漏れてしまったようだ。
「ギサキ、アンタやれば出来るじゃない」
「なぜ
え、この絵を描くのにも相当時間がかかっただろうに。この他にも描いたのか。
すると、何件もの着信ブザーが。一件、二件、三件。次々と送られてくる絵が止まったのは百十三件目。
昨日からの数時間で……? 先輩の技術はどうなってるんだ。多分人間じゃない事だけは確かだな。うん。
俺の中での結論は決まったところで、ふと頭の中に創作の嵐が吹いた。
背景は背景であって、キャラの引き立てだった……。その背景がキャラと両立、それどころかスポットライトは背景に当たっている……。
何かがまとまった
「三日後、みんな予定は空いてるか?」
「私は空いてるよー」
「アタシも」
「私もよ」
三人は次々と答え、
「スッゲェ良いのが思いついた。楽しみにしといてくれ、三人とも」
約束の三日後の水曜日、四人は再びファミレスへと集まった。
「すまん、せっかく集まって貰ったんだけど、まだ全部は完成してなくて……」
この三日間、学校の空き時間や家に帰ってからの時間を使っていたんだけどな。今回作るアニメはちょっとした考えで作れるようなものじゃない。
謝る俺を
「
おそらく、最終話の主人公がヒロインに告白するシーン。待て待て、教室でそんなんだったのか俺。完全に異常者じゃねぇか……。
自分のおかしさを認識した俺に言う
「控えめに言ってヤバいっていうか、キモかったわよ」
オーバーキルです。心が保たない。
やれやれ、と先輩は首を振り、いつものように紅茶を
「終わってないとはいえ、ある程度は作ってきたのでしょう? 早く見せてちょうだい」
三人は、
今回は完成していないのと、あくまで六話分の内容構成と一話の出だしのみだったので、すぐに三人は見終わった。
一番最後まで見ていた
「うん、今回は前回のと違って主要キャラ、内容の無駄も
先輩からのこのまでの評価とは……。
素直な先輩の評価に
「本当ですか! 今回のは自分でも凄い自信作なので嬉しいです!」
「このさ、〝
話について行こうと、
「うんうん。私も
その質問を待っていた。
「――――――という訳だ!」
その時間、およそ十分弱。先輩から送られてきた一枚の絵を見て、背景にスポットライトを当てたいと思った事、主人公とヒロインに対しての熱い想い。その他
あまりの
「い、
フワーとあくびを両手で隠しながら
「ひひてたよぉ、続きどうぞー?」
いや、話終わったんだよな。
俺の表情を見て和泉はムッとする。
「
……
「そそそそ、そんな事思ってないよ……」
動揺を隠せない俺を
「えっと、どうした
「いや、なんでも」
え、なんでご
困る俺をため息ながら見る先輩が小声で
「アナタ……
「べべ、別に
先輩の気遣いを無視して、
その声量に合わせて先輩も。
「もっとこう、『他の女じゃなくて、私だけを見てよ!』みたいに顔を真っ赤にさせて言えば男なんてイチコロよ」
なんの話をしているのだろうかと不思議に思っている
「あのー、もうそろそろ主人公とヒロインの声を決めたいんだけど……」
「うん、だよねー」
「
「ギサキが先に!」
立ち上がってキレる
「あーもういいわ。とにかく、声を決めなきゃいけないのよね」
「あぁ。主人公〝
俺は三人の顔を見て、とりあえず聞いてみる。
「したい役はあるか?」
苦い表情の先輩がまず言う。
「何かしらの役をしたいところだけれど、正直なところ、作画担当ってだけでも時間が足りるか分からないのよね。だから私はパスさせて頂くわ」
それに続いて
「うーん、私もヒロイン役やりたいところだけど、二曲作るのは時間がかかりそうなのよね。だから私も無理かな」
早速のピンチ。少なくとも
苦悩する俺に
「それじゃ、
あの人はただいま絶賛失恋中……。なんだから頼みづらいけど、頼んでみるしかないか。
「てことは自動的に
「二人とも一回、一話の冒頭だけ読んでもらえるかしら」
先輩に言われた通り、一話の冒頭を開き読んでみせる。
「く、九月ツイタチー、夏休みあけのぉ」
俺の読みを遮るように
「ちょっと
えっと……俺は至って真面目なんだけど。
「それじゃもう一回……。九月ツイタチー」
読み始めたばかりで
「うん、ダメだね」
「
ん?
俺をそっちのけに、
「それじゃ、私もよんでみていいかな?
「いいわよ、
ヒロインの
あまり期待を持てない俺だったが、
「それじゃ、このセリフの直前から読むわね。『想定外の展開に頭がついていかない。なぜこの〝
「『下ばっかり見てても、幸せなんて落ちてないよ?』」
俺たちの目の前にいるのは完全に
その演技力に、〝
「えっと、
「あっ……そうね。ごめんなさい、次読むわね。『でっ、でもこの前、前見て歩いてたら犬の
「えっと、次は面白がりながら言うからー……」
いつもの
「『ぷぷっ、
先輩はもちろんながらセオリー通りって感じで上手かった。
だか
読み相手の先輩も
「アナタ……何かしらの演技とかやっていたの……?」
「んー、いや全然。強いて言うなら、お母さんとお父さんがドラマ観るの好きだから、一緒に見てたくらいー」
俺と同じく余韻に浸っていた
「
「私も同じ意見よ。
うん確かに。さっきまでは自分の悪いところが分からなかったけど、
無理やりキャラを演じるんじゃなくて、キャラの性格や表情、感情全てを理解し、そのキャラに自然となるんだ、って。
っていやいや!
「分かってても無理だろそれは!」
先ほどの
「
「う、すまん……。てか気になってたんだけど、
不可解な面持ちで
「だって
「な、なるほど」
ひとまず分かったことは何一つとして分からなかった、と言うことだけだな。謎理論、理解不能だ……。
うんうん、と首を小さく何度も振りながら自分を納得させる。
「何それ
何やらもの凄く嬉しそうに
「……まぁともかく役割は決まったわけだから、先輩は作画、
「
先輩の声の先には妹の
先輩からの呼び声にこちらを向き、スタスタと歩いてきて、先輩の隣に座った。
「
こちらをジロッと
「オタク先輩久しぶりですね。あと、
小声で傷つく事を言っている。俺、この子に何をしたんだ……。
「
つい先ほどまでの小声から一変、静かながらも
「あっ、
そういや
「あのー、えっと、この子は
勇逸面識のない
「そうそう、この子は先輩の妹で」
「オタク先輩は紹介しなくていいです。自分で出来ます……」
……やっぱこの子苦手。
「コラ、
お、ここで先輩の
「そんな優しい言葉じゃなくてもっと罵倒してあげないと」
なんとなくそんな事だろうなって分かってたけど、改めて俺の扱い酷いな。
ポンっと手を叩く
「
「そうね、なら無視するのが一番いいかもしれないわね」
何やら結論が出たようだけど、この
「えっとさ、結局のところ
俺いじりの
「
「
珍しく声に張りがある。そんなに嬉しいのか。
「え、アタシも
思いっきりテンションの上がる
「はい、ぜひぜひ。……えっとなんで曲を作ることになったんでしょうか?」
抜け目のない質問。流石は先輩の妹、しっかりしてるな。
「それはね、俺たちが作るアニメのOP、ED曲を
「……だから
不穏な空気が漂う。もしかして俺が発案者だと正直に言えば「やっぱりやめておきます」とか言うんじゃないだろうな。
もしそうなら嘘ついた方が――。
「そそ!
真っ先に答える
おいおい
それを聞いた
「やっぱりそうですよね、
うん、予想的中。帰りがけに宝くじを買って帰るとでもするか。
「
両手の人差し指をモジモジとさせながら言う。
「
間を挟みながら言い終わる。姉のパワー、恐るべし。
「ありがとう、
「ちゃんじゃなくてさんです……」
「ご、ごめん
それにしても本当に俺のことが嫌いなようだ。俺が一体何をしたと言うんだ。マジで心当たりがない。
考える俺に隣の
「ねね、
「いや、ほんとに何もしてない。……と思う多分……」
ここまで嫌われていたら何もしてないと言うのも自信がない。
聞いた
「
そっぽ向いて答えようとしない。この空気……なんかすんません。
すると、ほんの少し機嫌を直し、
「別に……嫌いって訳じゃないんです……。だから、気にしなくて大丈夫です……」
ギリギリ聞こえる声量でそう言った後下を向き、先輩の袖をクイクイと引っ張る。
「
「えぇ、そうね。今日は帰りましょう」
「だ、だね!
場を収めるように言い、
「
「うん、またねー
俺も
三人が出て行った後、俺たちも支払いを済まして店を出た。
「まぁ見た感じ人見知りっぽいし、男の人が苦手なだけかもしれないんだからさー、そんなに気に病む事ないってー」
「でもなー、あんな露骨に嫌いオーラを出されたら気にしちゃうもんだろ。理由も分からんし」
「
確かにそうだな。前にもこんな感じで励まされた事あったっけ。あれっきりあの人とは会ってないな、名前とか聞いときゃ良かった。
記憶に浸っていた俺を見つめてくる。
「ん? どうかしたのー?」
「まぁちょっとな。なんでもない……と思う」
言い、和泉の方を向いてみる。宝くじ売り場……そういや買って帰ろうとか思ってたな。
「ちょっといいか?」
「いきなりどうしたのさ」
戸惑いながらも俺の後を着いてきてくれる。
俺は1番窓口の前に立ち、どれを買おうか悩んでいると、
「どれ買うのー?」
「え、別に一緒に買わなくてもいいんだぞ?」
「まぁまぁせっかくだからさー」
もしかしたら
「
え、やっぱり
俺は動揺を隠そうと、
「なななな、何のことかさっぱり……。あっ、ソウダーオレはコレをカオッカナー」
「
売り場から少し離れて、再び帰り道に復帰した俺たち。
「どうして突然買おうと思ったの?」
この顔、なんとなく予想はついてるんだろうな。俺の心の中はお見通しってか。
待てよ、ホントに分かんなくて聞いてる可能性もなきにしもだ。とりあえず適当な嘘でもつくか。
「今日がだな……推しの声優の誕生日でだなー、その番号を買っておこうかなーって」
「えーそうなんだー」
お、納得したか⁉︎
スマホを取り出し、もう一度ニヤニヤ顔になる
「その推しの声優って誰なのー? ちょっと調べてみる」
予想的中。俺は今日何個の予想を的中させたのだろうか。もしかして俺も超能力使い⁉︎ 異世界転生するのも遠くはないな。
「
「……すみませんでした」
ごもっともなのでしっかり謝っておこう。
「宝くじを買った理由はどうせまた、妄想とかだろうけどさー」
前言撤回。やっぱりこの展開は燃えない。シンプルに怖い。
にしても
「なぁ
「うーん、興味本位っていうのもあるけど、一言でいうなら夢? かなー」
うんうん、なるほど分からん。
困惑の俺に
「ほら、なんか宝くじはお金目当てじゃなくて、夢を買ってるんだって言う人いるじゃん。それだよ」
そう言うことか。
「そういう人ほど当たるっても言われてるもんな」
「うんうんー。
買った一枚の券をポケットから取り出して言う。
「そうだなー、フィギュアとか漫画全巻、声優のライブのチケットも良さそうだな!
深く考え込む
「うーん、十億円も当たったら何に使うか困っちゃうなー」
あれ、聞き間違いかな? 俺には今「十億円も当たったら」って聞こえたぞ。てっきり四等、五等の一万、十万の話とばかり思っていたぞ。
そうこう話しているうちに
家の門を開けようとした
「夢を買ったとか言っちゃったけどさ、やっぱり当てたいよね、十億円!」
なんだか俺の目の前で話したのは
「どう?
今更何を言っているのんだ。
「
クスッと笑いながらも、喜びの表情を浮かべる。
「
「おう、また明日」
手を振ると、家の扉に向かって小走りして家の中に入っていく。
それを見送った
足を引っ張らないようにって、上から目線だなっていつもはツッコむところだけど、今回ばかりはぐうの音も出ない。それくらい
なんか希望が見えてきたな! よし、帰ってから早速二話の構成を考えるか!
グゥ。
『
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