2コマ目 先輩と過去。
昨日に引き続き、雲一つない
俺は今日、試合がある。部活創立をかけた試合だ。
これは本来昨日終わっているべき試合だった。どこかの気合い以外何もない誰かさんのせいで今日に持ち越しとなった。その誰かさんとはもちろん自分のことだ。
今日こそは部活創立の申し込みをしに行こうと思う。
俺は昨日の事もあって、二人との関係が少し不安なまま登校していた。
だが二人は昨日と何ら変わらない態度でいてくれた。
「ね、ねぇ
もちろんですとも。俺なんかが女の子とそういう雰囲気になるわけないでしょう? 自分で言ってて悲しいよ。
てか俺が
「えっと、なんでその事を……。もちろん何もなかったけどさ」
「昨日ギサキに聞いたのよ。入学初日から女の子を家に連れ込むって」
いや、それだけじゃ色々誤解が生まれるだろ。ただアニメを見てただけだよ?
「で、後輩くん。アニ研の事はどうなったのかしら? まさか入学初日に出会った女の子を早く家に連れて行きたいから忘れてた、とかそんな事言わないわよね?」
まさにその通りです。先輩、その怖い目辞めてください。
「その通りです……。」
「あら、
そうだよな。せっかく昨日の放課後待ってくれていたのに俺は裏切ったんだ。
「ギサキ、あんた。入る気のない部活の事なんだから、関係ないでしょ? ならそんなに突っ掛からなくてもいいじゃない」
「あら、
「もちろん昨日のことは
呆れた顔をする
「ごめん」
小さな声で謝る
「本当に二人ともごめん。昨日の事は俺が悪いし、そんなに俺を
これは断られても仕方がない。
「私は応援してるからね
「ありがとな
「昨日も言ったけど、私は何があろうともアニ研に入る気はないわよ。たとえ何があろうとね……」
「なんと言われても俺は先輩の絵を超えるアニメを考え納得させてみせます。絶対に」
俺が作りたいアニメには先輩の絵は必要不可欠なんだ。
そう話してるうちに学校に着き、夜輝、珠璃と先輩は別れた。
四時間目終了のチャイムが鳴ると同時に
よし、戦場に行くか。
俺が席から立ち上がると、
「んー、ほあうくん、どおにいうの?」
飲み込んでから喋ったらどうだ? 何一つとして分かんなかったぞ。
「えっと、なんて言った?」
ゴクリ。飲み込むと再度言い直した。
「
「ホントは昨日の内にやっておくべきだったんだけどな、部活を作るための申請をしに行くところだぞ」
「え、そうなんだー。頑張ってね」
相変わらず反応が薄い。
教室を出ようとしたところで
「
「いや、別に一人で大丈……」
「いやいや、私も職員室に用事があるだけだから! だから一緒に行くだけ! 勘違いしないでよね」
さっきはっきりと一人より人数が――とか言って気がするけど気のせいなのかな。
「お、おう。じゃ行くか」
「いっへらっはいふあいとお」
多分『行ってらっしゃい二人とも』だな。なんとか聞き取れたぞ。
そうして俺と
俺たちを待っていたかの如く、職員室の前に着くと途端にガラガラとドアが開いた。
するとそこからは顔に曇りを見せる佐々木先生だ。
何があったのだろうか、そう考えていると
「みっちゃん先生どうしたの⁉︎」
みっちゃん先生⁈ 入学二日目でそんなにも親しい仲になったのか。
「……
「
「そう、
今にも泣き出しそうな声だったので俺の名前を覚えていなかったのは許そう。
だがしかし、何があったのだろうか。
「先生、何があったんですか?」
鼻を
「ここで話せるような事じゃ……」
ここで話せないような事を生徒に話して良いのだろうか。
俺たちは
「――――でね……私ってダメなのかなぁー!」
要約するとこうだ。
今年に入ってから付き合っていた彼氏から先ほど別れの連絡が届いた。理由は先生が
ちなみにこれで四人目らしい。えぇ、俺たちどうすればいいんだ?
「うん、そんなの全部男が悪いのよ! この世界にいる男なんてみんなダメ男ばっかりなんだから! ね!
いや、俺も男だからなんとも言えんよ……?
「お、おう。俺もそう思うぞ……?」
遠回しに俺のこともダメ男と言っているのだろか。
てか、このまま先生の話でアニ研の話を出せなかったら本当にダメ男になってしまうぞ。マズイ。
「あ、あのぉ、先生……」
「ぅんー、どうしたの……?」
う、話し出せない……。
俺の困った顔を見て
「あ、あのね! みっちゃん先生、私たち部活の事で相談しに来たの! こんな時にごめんね、先生」
今にも垂れてきそうな涙と鼻水をハンカチで
「んーん、職場に私情を持ち込んじゃってるのは私だし、話聞いてくれてありがとね二人とも」
俺じゃ絶対に話し出せなかった。着いてきてくれて助かったな。
「えっと、なんの部活に入りたいの?」
「入部希望じゃなくて、部活を作りたくて……」
先生の表情が固くなった。
「部活を作るのにはね、最低五人以上の部員を集めるか――」
え、めっちゃ簡単じゃん。五人集めるだけ……。
「えっ、五人ですか⁈」
「どっ、どうしてもっていうなら私も入ってあげても良いんだからねっ!」
という事は俺と
「まぁ
「なんで入ってくれる前提なのよ」
どうやら声に出てたみたいだ。
「あと一人なんだけど誰が入ってくれると思う?」
「ギサキは入ってる前提なんでしょ、ならあと……
「お! それで良さそうだな」
無事、五人の候補は決まった。あとは頼みに行くだけだな。
「あともう一つ方法が合ってね?」
え、まだあるのか。一応聞いておくか。
「そのもう一つの方法とは……」
「何かの賞を取る事。実際、サイエンス部は部員は三人だけど、理科オリンピックっていう全国規模の大会で優勝した事が過去にあってね」
賞を取るという方法もあるのか。五人は決まったが、一応頭に入れておこう。
「それじゃ先生、五人集めてからまた来ます。先生も元気出して頑張ってくださいね」
「みっちゃん先生、私も行くね! 頑張って!」
「うん、ありがとう二人ともー! ところでなんの部活を作りたかったのか聞き忘れたわ……」
二人はすでに教室を出ていた。
「ところで
ヒュー。っと空いていた窓から風が入ってきた廊下でピタリと止まる。
「あっ、あえっと、ナンダッタカナー。忘れちゃったよー。ほ、ほら寒いから早く教室戻ろ!」
「お、おう。もう昼も終わっちゃうしな」
俺たちが教室に戻るとすぐに授業五分前のチャイムが鳴った。
そして放課後、
まずは和泉だ。
「おい
「んーん。まだ決まってないよー?」
「頼む! 俺たちと一緒にアニ研に入ってくれないか⁈ 部活を作るのに五人必要で……」
「そんなお願いされなくてもいーよ? 昨日みたいにアニメ見たりして過ごすだけでしょ?」
え、あっさり過ぎないか……。
「もちろんアニメを見たりするっていうのもあるんだが、最終目標としてはアニメを作る事だ」
「んー、私に何が出来るか分からないけどいいよー」
「他に入りたい部活とかなかったのか?」
「うんー。元々部活に入る予定はなかったけど、五人必要なんだもんね」
「ありがとな、
これで三人だな。次は
俺は
「お、居た!
紹介がまだだったな。
コイツは
「お前もアニ研に入ってくれないか⁈ 部員が五人必要で……!」
「あぁー、もう中学の頃からの先輩にバスケ部に誘われててよ。悪い! そっちに入るって言っちまってて……」
マジか……。
「そうか……。もう決まってるなら仕方ないな……」
「
うーん、と首を傾げ、考えている様だがどうやら居ないらしい。
「
「そうか……」
「悪いな、
「よし、
「うん」
「二人とも、力になれなくてすまんな。頑張れよ!」
二年生のフロアへと行った
「先輩、アニ研の事について良いですか」
二人の姿を見ると、今まで机の上に置いていたものをサッと机の中に直した。
……ん、今のは。
「何も見てないわよね?」
え、怖い怖い。誤魔化した方が良さそうだな。
「えっと、なんか勉強してたのかな……と」
「それなら良いわ。ところでその顔色を見るとアニ研を作るのは厳しい様子ね」
先輩が何をしていたのかはさておこう。
「ギサキ、アンタもアニ研に入りなさい」
「あらあら鈴宮さん、頼む人の態度とは思えないわね」
待て待て、なぜ二人はすぐに喧嘩しようとするんだ。
「先輩、今ですね――」
現状を伝えた。部活を作る条件、まだ三人しか入る人がいない事などなど。
「そう、あなた達が頑張って部活を作ろうとしてるのは分かったわ。でも私がアニ研に入る事はないわ」
なぜそこまで頑なに入ろうとしないんですか。そう聞きたかったが逆効果になる事は分かっていた。
「俺は先輩の描く絵が好きで、先輩の絵なら誰もが目を奪われる様なアニメを作れる気がするんです。だから、すぐに決めてくださいとは言いません……考えておいてくれませんか?」
「私の絵を褒めてくれるのは嬉しいわ。でもいくら考える時間を貰ってもあなたの期待する答えは出ないと思うわよ」
…………。
俺と
「分かりました、しつこく言ってしまってすみませんでした……」
「えと……
「いいんだ、
外の風の音と鳥のさえずりが聞こえる中、俺たちの時間は止まっていた。
「帰ろう、
「二人も頑張ってちょうだい」
先輩と目も合わせられないまま立ち去る俺と再び勉強に戻った先輩をキョロキョロと交互に見ていた。
「ちょ、待ってよ
二人が帰ってから少しすると
「私だってやれるものならやりたいわよ……」
他に当ての無かった
その間何もしてなかった訳ではなく、
「この学校に
こう言われた。気まずさレベルマックスだ。
そして俺は先輩を説得する為にアニメのストーリーを考えていた。
だが、今の俺に
明らかに見覚えのある絵だ。俺が先輩の絵を間違えるわけがない。
確信へと変わった俺は先輩に一通のメールを送った。
『
あのファミレスとは、俺と先輩と
『最後に話を聞いてあげるだけよ』
先輩からの返信は案外早く来た。
次の日の昼、俺たちはファミレスに集まった。
ほんの少し遅れて
「ところで
「そうよ、私もギサキが来るとしか聞いてないし」」
「今のところ、アニ研に入ってくれる二人と先輩にこれを読んでもらいたくて」
三人に
「後輩くん、これは
「そうです。先輩に断られた日から考えて書きました」
本当は昨日の夜から徹夜で終わらせたんだがな。
「うんー、凄く面白いと思う」
「この数日で
和泉も
「全然ダメね。ストーリーに現実味が無さすぎる点と、もしこのアニメを作ると言うのなら登場人物が多すぎるわ」
確かに一晩で必死に作ったものだから
「後輩くん、あなたはこの資料を見せれば私がアニ研に入ると思ったのかしら」
「ギサキ、アンタねこの前からなんなのその態度は!
「確かに内容は面白いわよ。ですけれど、これが私を説得出来るものにはならないわよ」
俺もこれだけでは先輩を説得出来る材料になるとは思っていなかった。
「先輩、本当は絵を描くのを辞めたっていうのは嘘ですよね」
ファミレス店内は土曜の昼ということもあって賑わっていた。
それなのにも関わらず、
その空間を脱出する糸口は
「ちょ、
「いいえ、別にいいわ
「これ、先輩のアカウントですよね?」
……。今回の間はすぐに終わった。
「
「俺が昨日、偶然見つけたんです。その反応は正解って事でいいんですよね」
「……そうよ。でもなぜ分かったのかしら?」
「この絵は……」
「
今まで黙っていた
「誰よりもって、二人いたら誰よりもじゃなくない?」
え……? おいおい、いつもの鋭いツッコミをする場面じゃないだろ。
「
この緊迫した空気が一変したかのように、先輩は上品に笑いながら言った。
俺たち三人、いや二人か。
コホン。先輩は咳払いをし場を改めた。
「ごめんなさいね、あまりにもKY発言過ぎて乱してしまったわ。話を戻すけど後輩くん、そのアカウントの最終投稿日を見た上で私がまだ絵を描いてると思ってるのかしら」
まだ
「
先輩が高校に入学する前の春休みだ。もちろんそのくらいは把握済みだ。
「もちろん知ってるさ」
「じゃあ、なんで……」
「理由は二つある。一つ目はこのアカウントが最後にした、いいねが二日前だったことだ」
「あら、そんなところまでしっかり見ているのね。でもそれだけじゃただアカウントを残しているだけ、私がまだ絵を描いているという答えにはならないわよ」
「二つ目の理由が大切なのよね、
あぁそうだ。もちろんこれだけではフォロワー二万人超えのアカウントを手放したくなかっただけ。そう捉えられるだろうな。
「二つ目の理由は――」
俺と
先輩は一見誰もいない教室で一人、勉強をしていた優等生。そう見えていただろう。
でも俺は見てしまったんだ。先輩が机の中に直したものを。
「この前の放課後、俺たちが来る前に先輩は絵を描いていた。そうじゃないですか?」
俺が見たのはノートを直すのではなく、スケッチブックを直す先輩の姿だった。
「確かにギサキ、あの時焦っていたわよね」
「絵を描くのを辞めた人が学校にスケッチブックを持ってこないですよね」
「そう、見ていたのね。……それじゃ、これを見ても私の絵をアニメに使いたいって思うかしら」
そう言うとバックからスケッチブックを出し、一枚のページを
「これがあの日描いてた絵よ」
俺と珠璃は
「その反応、やはり失望したのね。無理もないわ」
「え、凄くいい絵だと私は思うんだけど……」
「ギサキ、なんで……」
俺たちが好きだった先輩の絵はこんな風景だけの絵じゃない。昔の先輩の絵描くキャラは誰もが心を奪われるようなものだった。
「私は
「でも、それでも…………」
ダメだ、これ以上喋ると俺から出る言葉は全てが嘘偽りになってしまう。
「あの日と同じで何も言ってくれないのね……」
そう言うと先輩はスケッチブックをバックに直し立ち上がった。
「ごめんなさいね、貴方たちの期待に応えられなくて」
あの日の先輩の立ち去る姿と重なった。あの時と何も変わってない、変わることが出来ない自分が情けない。
「ちょっ、ギサキ。ねぇ
…………。待ってくれ、考えてるんだ、この状況を打破出来る策を。
いや、そうか。そもそも桜坂に落ちた時点で俺の夢が終わっていた。俺が諦めればいいだけなんだ……。
「ねぇ、
「
……っ。
「
忘れるところだった。
三年前の出来事だ。
中学入学から数日後、
「あれってうちの学校の制服だよな……?」
「そうね、紺色のリボンだから多分中二の先輩だと思うわ」
俺たちは暗黙の了解でこの人とは関わらない方がいいと悟った。
「なんでそこでやめるのよ! あー、ほんとに煩わしいわ。ホントヘタレね」
あまりにも気になって、ダメだと分かっていたのにもう一度振り返って見てしまった。
これはっ。『二人の恋は放課後に』ではないか⁉︎ 俺がここ最近ハマっている純愛アニメだ。
「それいいですよね!」
あっ。フタ恋を見ている同士を見つけてしまった喜びからつい声をかけてしまった。
「ちょっ、何やってるのよ
「すまん、気づいたら話しかけてた……」
「お二人とも聞こえているわよ。なに、ヤバイやつに話かけてしまったみたいになってるのかしら」
……いや、一人でアニメを見ながら喋ってるやつは充分ヤバイだろ。
「一人でアニメ見ながら騒いでるのは結構ヤバイと思うわよ……?」
まさか本人にそう言ってしまうとは、
「えっ、声に出てたかしら……」
こちらも無意識のうちに声が出てしまっていたとは。
恥ずかしそうにしながら上品に咳払いをした。
「そちらの金髪の子のリボンの色を見るに、二人ともうちの学校の一年生かしら。席越しに話すのもなんだからこちらに来たらどう?」
俺と
「私は
そうだな、まだ名前も聞いていなかった。
「俺は
「私は
名前を紹介し合ったのはいいが、こっちの席に来て何を話すんだ……?
「ちょっといいかしら」
「「……はい」」
すると先輩はナプキンとペンを一本取り出して何かを描き始めた。
俺と
先輩は五分もしないうちに描き終わった。
「完成よ」
そう言って俺と
この時、俺が先輩の絵に惚れた瞬間だった。
「す、凄いです。こんな短時間で!」
「ただのヤバイオタクかと思ったけど、ものすごく上手いじゃない……」
俺と
それからというもの三人で放課後にこのファミレスに来る事が多くなった。
アニメ、漫画やゲームの話をしていく最中で先輩が即座に描く絵には何度も
俺はただ絵が上手い先輩にアニ研に入ってもらいたいわけじゃない。
あの日見た感動を、胸の高鳴りを、今までの世界をさらに色つける先輩の絵を。俺と
そう思うと気付いた頃には俺もファミレスを出て先輩を追いかけていた。
「はぁはぁ。先輩、待ってくださいっ!」
あの日はただ見ていることしか出来なかった先輩の姿が、今日は違った。
驚きの中にもどこか嬉しそうにも見えた。
「なんで追いかけてきたのよ……」
私は寂しがりの一匹狼だったわ。
全国模試は毎回五位以内、中学の頃は運動部のほとんどのところから勧誘されたわね。
周りからは『
その周りの人達は私が最初から持ち合わせていた才能だと思ってた人もいるかもしれないけれど、最初から才能だけで生きていける人なんて居ないのよ。
小さい頃の私は勉強もスポーツも出来れば周りから好かれる、そんな淡い期待を抱いて必死に頑張っていた。
でもそんなことはなかったのよ。
『
仲の良いと思っていた子たちから突然突き放された。
小学生のイジメとは無知で幼稚で、当時の私には到底理解できるものではなかった。何が楽しくてそんなことをするのか。
今となっては分かる気がするわ。小学生だけでなく全ての人に共通すると思うのだけれど、少数派の弱者を大人数で寄ってたかる、それに安心感を抱いているのだろうと。
それからというものずっと一人だった私にある出会いがあったわ。それがアニメよ。
いつの日か私の友達はみんな心の中にしかいなかった。
中二の最初の頃まではそうだったわ。でもあの日、私は二人に出会った。
『それいいですよね!』
自分の利益のために話してくる人間とは違う、久しぶりに人と話せた気がした。
『す、凄いです!』
『ただのヤバイオタクかと思ったけど、ものすごく上手いじゃない……』
私の絵を見せた時の二人の反応は嬉しかったわね。
心の
『あの子たち可哀想だよねー』
『ホントそれなー?
『見下しながら話してきそうー』
同級生の女子が笑いながら愚痴話をしているのが耳に入ってしまった。
私と一緒にいるとあの二人に迷惑をかけてしまう。
二人とも桜坂高校に行きたいと言っていた。私の学力ならもちろん合格するだろうけれど、二人の側に居ていい自信がなかった。
『嘘をついていてごめんなさいね。私は桜坂には行けない、受験すら受けていないのよ』
『なんで……』
高校入学前の春休み、その事を
『
呼び止めて欲しかった、俺たちも時ヶ丘に行くよと言って欲しかった。
でも一人の私を呼び戻す声はなかった。それでも、これでいい、昔の生活に戻るだけ。
二人と再会してからというもの、久しぶりにこんなことを考えてしまったわ。
もしあの日、呼び戻してくれていたなら……と。
そして今、息を切らした
「先輩、待ってくださいっ!」
あの日求めてた言葉。
「なんで追いかけてきたのよ……」
「俺っ、桜坂に落ちてなぜか嬉しかったんです。時ヶ丘に行けば先輩がいる、また三人で居られるって」
アナタたちが入学式の日、時ヶ丘の制服を着ているのを見て安心と不安が同時に私を襲ったのよ。
けれど、アナタは一年前と変わらない声で呼びかけてくれたわ。
「
なんで私はこんな事を言っているのかしら。素直に私も再会できて嬉しかったと言えばいいのに。
「それはもちろん悪かったって思ってます。あの日の先輩の後ろ姿は絶対忘れない、だから今回こそは絶対に先輩を一人にさせない」
一人にさせない……? 私が学年の人たちと馴染めていないということはやはり知っていたのね。
「私は一人のままでいいのよ……。私と関わるとアナタたちに迷惑がかかるのよ」
「迷惑なんてかかって来いですよ。その迷惑以上の感動を、夢を、俺は先輩から貰ってたんですから」
違うわよ。私がアナタたちにに感動を、夢を与えたんじゃないわ。逆よ、寂しがりの一匹狼だった私にアナタたちが与えてくれたの。
「先輩は絵を描かなくたっていい、俺たちと一緒にいるだけで、それだけでいいんです。だから、これからも俺たちと一緒に居てください」
あの日から一人でいることは平気な事だと思っていた。でもやはり違うのね。こんなにも
また二人の為に絵を描きたいと思っている私がいる。
「もう、呼びに来るのが遅いのよ」
先輩は涙を流していた。一年越しに先輩との距離が元に戻った、そう思えた。
「アナタたちと一緒にアニ研、入るわよ。ただし、私が絵を描くんだから中途半端なものにはさせないわよ」
「えっ、絵も描いてくれるんですか……⁈」
「私以外に誰が描くのよ」
「俺が気合いで描くしかないかなって」
目を潤ませながらも先輩は笑ってくれた。
「アナタじゃ無理でしょ」
「ちょ、そんな事ないですって!」
「
「ですね!」
「二人とも遅いわね、私もやっぱり行った方が……」
「大丈夫だよ。
「待たせてしまったわね」
先輩を連れ戻す事が出来た
すると
「
「ん? 一年前ってなんの話?」
「今度話すさ」
「なんか一見落着みたいな顔をしているけれど、部員は五人必要なのよね?」
……あ。確かにそうだ。先輩が入ってくれる事によって四人。全然一見落着じゃない。
「なんかの賞に入賞しても部活創立の条件は満たすって言ってなかったけー?」
「確かにそうだったわね。でもこの四人でどうやってするのかしら」
「最低限必要なのは主要人物の声、それと絵を描く人と楽曲作成、それらの編集出来る人さえ居れば作れます」
「
「そうだけど……。って私が曲作るの⁉︎」
「それ以外何があるのよ。やりなさい、これは命令よ」
「アンタ、いきなり乗り気じゃない。
「あと編集出来る人がいなきゃなんだよねー。
こんな事もあろうかとノートパソコンも持ち歩いていて正解だったな。
「これを見てくれ」
「ゲッ、何これ」
「この棒人間はアナタが描いたのかしら……?」
「わ、私はすごく良いと思うよ、うん、すごく」
待て待て、俺が見て欲しいのはそこじゃない。
「見ててくれ、これをこうしてだな――」
あらかじめ編集してた動画を再生した。
「えー、なんか本当にすごいね」
「
「だろ! ん? 機械にはってどういう事だよ」
「よくこの絵で『俺が気合いで描くしかない』よ」
あの、俺の絵心のなさにはもう触れないでください。
「あと、内容はさっきのこれ以外を考えようー」
「
「明らかに四人で作れるものじゃなかったからね」
三人ともやっぱりいいと思ってなかったんじゃないか……。
「そ、そうだな。考えるよ」
俺には考えがあった。今なら最高のアニメを考えられそうだ!
こうして俺たちのアニメ制作の夏は始まった。
『
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